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土木工学科の構造・道路工学研究室(岩城一郎教授・前島拓専任講師)が3つの異なる機関から表彰されました

次世代のインフラを支えるために産学官連携で開発した
先進的な技術が高く評価される

 この度、土木工学科の構造・道路工学研究室(岩城一郎教授・前島拓専任講師)が3つの異なる機関から表彰されました。11月1日(水)・2日(木)に開催された「第35回日本道路会議」(公益社団法人日本道路協会主催)では前島専任講師が発表した『フライアッシュと膨張材を併用した連続鉄筋コンクリート舗装の各種耐久性評価』が優秀賞【建設・施工技術(舗装)部門】を、11月16日(木)に発表された「TOHOKU DX 大賞 2023」(東北経済産業局主催)では産学連携により開発した『非破壊検査と拡張現実技術を融合したインフラ点検システム』が最優秀賞を、そして令和5年度土木学会全国大会第78回年次学術講演会(公益社団法人土木学会主催)で発表した『地域の守り手育成-ふくしま MEの取り組み』が、土木学会令和5年度かけはし賞(田中賞選考委員会)を受賞しました。産学官連携により生み出された様々な成果が各方面で高く評価されています。
 それぞれの受賞について、岩城教授、前島専任講師に詳しくお話を伺いました。

第35回日本道路会議 優秀賞【建設・施工技術(舗装)部門】

『フライアッシュと膨張材を併用した連続鉄筋コンクリート舗装の各種耐久性評価』

日本大学工学部:前島拓、何宗耀、相内豪太、岩城一郎/株式会社NIPPO:吉田雅義、村岡克明、藤谷雅嘉

左から何宗耀さん、前島拓専任講師、相内豪太さん

 日本道路会議は2年に1回開かれる、道路業界では国内で最も大きなイベントで、口頭発表と論文の点数の合計により優秀賞が選ばれます。発表した論文は、国土交通省道路局【新道路技術会議】の研究プロジェクトである『データ同化をベースとした高耐久フライアッシュコンクリート舗装についての技術研究開発』の研究成果をまとめたものです。道路の維持管理の効率化・コスト削減のために、従来よりも耐久性を高めたコンクリート舗装の普及を目的に、フライアッシュを使った連続鉄筋コンクリート舗装の技術開発を進めています。

 連続鉄筋コンクリート舗装は、乾燥収縮によるひび割れの発生を緩和させるための目地を設けず、コンクリート版に一定間隔で微細なひび割れを発生させる構造形式であり、普通コンクリート舗装よりも耐久性・走行快適性に優れています。一方、積雪寒冷地では凍結防止剤(主にNaCl)が散布されるため、コンクリート版に生じるひび割れを適切に制御すること、コンクリートの遮塩性を高めることが重要です。当研究室では、石炭火力発電所から排出されるフライアッシュを用いることでコンクリートの耐久性を向上させ、さらに膨張材を併用することでコンクリートに発生するひび割れリスクの低減を可能とする高耐久コンクリート床版を開発し、東北地方の復興支援道路などに実装してきました。本研究は、高耐久コンクリート床版の開発で培った技術を舗装に適用し、現在よりも高耐久なコンクリート舗装を開発、実装することを目指しています。また、近年では舗装分野においてもライフサイクルコストを重視した効率的な維持管理に注目が集まっています。これを実現するには、コンクリート舗装に発生するひび割れの事前評価や長期における耐久性が評価可能な解析モデルを作成することが重要であり、中国からの留学生で現在は博士後期課程の大学院生である何宗耀君に解析モデルの構築を担ってもらっています。このように、本研究は実験と解析の両輪で取り組み、4段階で研究を進めています。

 STEP1では、耐久性と経済性を考慮したフライアッシュの適切な置換方法や置換量を含めた最適配合について、強度発現性、塩分浸透抵抗性、凍結融解抵抗性、耐ASR性、すり減り抵抗性を含めて検討。実験を行った結果、フライアッシュを混和した舗装コンクリートは、塩害・凍害・ASR(アルカリ骨材反応)といった各種耐久性において、一般的な舗装配合と比べて高いことが明らかになりました。また、車が走行した際のすり減り抵抗性についても向上する結果が得られています。

 STEP2では、普通コンクリートとフライアッシュと膨張材を入れたコンクリート、そして高炉セメントに膨張材を入れた3種類の舗装を比較検討するために、実際に日本大学工学部キャンパス内において長さ40mのCRCPを施工し、スリップフォームぺーバによる施工性を確認するとともに、舗装内部のひずみ挙動を精緻に捉えることで、解析モデルを構築しました。コンクリートや鉄筋のひずみを計測した結果、膨張材を混和したコンクリートは、ひび割れの分散性向上と拡幅抑制に有効であることを示しました。膨張材によるひび割れリスクの低減とフライアッシュによる各種耐久性向上の相乗効果により、コンクリート舗装の長寿命化に寄与することが期待できます。また、解析モデルについても、実測値と解析値に大きな乖離はなく、十分な精度で再現可能な汎用性の高い解析モデルを構築することができました。

 今回発表した内容はSTEP2までの内容ですが、その後、STEP3として、2023年の7月~8月に、秋田県能代地区における自動車専用道路(明かり部200m程度)において、最も厳しい条件(真夏:35℃)で現場実装を行い、施工性に問題がないこと、構造上の問題となるひび割れの発生がないことを確認しています。また、STEP2で構築した解析モデルにより、実物大舗装のひずみやひび割れ性状を精度良く評価することができています。

 次年度はSTEP4として、実装した自動車専用道路の追跡調査を行うとともに、疲労解析モデルを作成して長期的な耐久性を評価。東北地方整備局と強固な連携体制のもと、高耐久コンクリート舗装の手引きを作成し、これらを基に東北地方での高耐久コンクリート舗装の拡充を図っていきます。

 今回の受賞は、コンクリート舗装に関する研究者が数少ないことや、日本でこれまでにフライアッシュと膨張材を併用したコンクリート舗装があまりないということから注目を集めたようです。加えて精度の高い解析で、コンクリート舗装のひび割れリスクを評価している研究も稀有で、社会実装までを含めて新しい材料と解析を融合させた新規性のある研究が認められたことを大変嬉しく思います。これまで3年間、携わってくれた卒業生たちの研究成果も認められた証でもあり、喜びもひとしおです。私個人としては、お世話になった前職の株式会社NIPPOとの共同研究で受賞できたことも感慨深いです。国内には100万km以上の舗装ストックがあり、そのうちの95%をアスファルト舗装が占めています。道路の維持管理費を低減させるためには、コンクリート舗装を適材適所で活用していくことが重要であり、本研究で開発した高耐久なコンクリート舗装を適用することで、道路構造物の長寿命化を目指します。

 研究においては、より早く社会に貢献できる研究と、将来的に役立つ可能性がある長期的な研究の2つを同時並行で進めていくことが大事だと思っています。同様に、学生にも今取り組むべき勉強と将来の自分のために長期的に取り組むべき勉強があると思います。短・中・長期を見据えながら、有意義な大学生活になるよう励んでください。

TOHOKU DX 大賞 2023最優秀賞

『非破壊検査と拡張現実技術を融合したインフラ点検システム』

製品名:InfraScope(国土交通省NETIS登録番号:TH-220006)
開発者:東北大学、日本大学、株式会社エビデント、株式会社復建技術コンサルタント、株式会社XMAT

右から2番目が岩城一郎教授

 構造・道路工学研究室は、東北大学及び東北大学発ベンチャー企業である株式会社XMAT(クロスマテリアル)とオリンパス株式会社から分社独立した株式会社エビデント及び株式会社復建技術コンサルタントとの共同研究により、コンクリートの塩分濃度を30秒ほどで測定する『可搬型蛍光X線分析装置』と『拡張現実技術』を組み合わせた、新たなコンクリート塩分濃度測定技術の開発に成功しました。

[実施例]橋台漏水箇所の表面塩化物濃度調査結果

 凍結防止剤や海水の影響により、塩分が床版や橋脚に浸透し鉄筋腐食等の劣化を加速させることが問題となっています。従来のコンクリート塩分濃度調査技術は、コンクリートからドリル削孔で試料を採取し、化学分析により塩分濃度を測定していたため、多大な労力・時間を要することが課題でした。今回開発した技術は、コンクリート塩分濃度測定前の段階で、あらかじめ測定対象のコンクリート表面に座標割付し、基準位置座標マーカーをコンクリート表面に貼り付けるだけでウェアラブルグラス上からの位置座標投影が可能となり、従来のチョーキング作業が不要になります。そして投影された位置座標を元にハンドヘルド型蛍光X線分析計(エビデント VANTA)を使って塩分濃度を計測します。この操作では1点あたりの計測時間は約30秒で、その場で計測データを電子データで取り扱えることから作業工程が大幅に短縮できます。計測データは、塩分濃度可視化システム(XMAT InfraScope)にアップロードすることで、ウェアラブルグラス上に塩分濃度計測データが同期されると、塩分濃度計測値がヒートマップとして出力され、一目で塩分濃度の高いエリアを特定することが可能となります。

 データとデジタル技術を活用しつつ、ビジネス環境の激しい変化に対応し続けていくこと(DX:デジタルトランスフォーメーション)が必要であり、東北経済産業局ではこのような状況を踏まえ、東北地域における事業者等のDXの推進に寄与することを目的に、「TOHOKU DX大賞」を実施しています。現地にて可視化できるハンディ型蛍光X線分析装置及びウェアラブルグラスを使った拡張現実技術と非破壊検査を融合したインフラ点検システムにより、コンクリートの塩害調査の測定時間を90%以上短縮。慢性的な人手不足が課題となるインフラ維持管理における作業効率を飛躍的に向上させ、工期短縮とコスト削減に寄与することから、デジタル技術を駆使した先進的かつ斬新な技術だと高く評価されました。革新性・波及効果・社会的課題への対応を総合的に勘案して審査された結果、最優秀賞の栄誉に輝きました。

 土木とは一見関係のないような異分野企業との連携により、DXとの結びつきが薄いと思われがちな土木分野でのこうした取り組みが最優秀賞に値する成果を得たことは大きな価値があると言えるでしょう。

土木学会令和5年度かけはし賞

『地域の守り手育成-ふくしま MEの取り組み』

日本大学:中村晋、岩城一郎/福島県:諏訪勇/福島県建設産業団体連合会:長谷川浩一

 土木学会田中賞選考委員会では、土木学会全国大会年次学術講演会において、橋に関する社会性や将来性に優れた講演に、「かけはし賞」を授与しています。

 福島県では2018年時点で供用後40年を経過する橋梁などの交通インフラが半数を超える一方、建設業やメンテナンス技術者は高齢化し、人材不足が深刻な問題となっています。そこで、“地域のインフラは、地域自らが守る”という考えの下、橋梁などの交通インフラの維持管理を担うために、地域の守り手となる人材の育成と確保を目的とした、産学官連携の「インフラメンテナンス技術者育成協議会(会長:中村晋 元日本大学工学部教授)」を設立しました。本講演会では、その活動として、ふくしまの社会インフラを守るメンテナンスエキスパート(ME)を育てる「ふくしま ME研修コース(基礎・保全・防災)」の概要と育成した技術者の地域貢献としての利活用の取り組みについて紹介しました。

 インフラメンテナンス技術者育成協議会は、課題である建設に携わる地域の技術者のボトムアップ、さらに福島県を構成する3地域の地圏・気象環境の特性を正しく知ることを基本要件とし、3つの研修コースを設置しています。まず、2017年11月に維持管理の「基礎」となる点検を対象としたふくしまメンテナンスエキスパート[ふくしまME(基礎)]、2018年に比較的高度な知識と経験の必要となる診断・点検を対象とした「ふくしまME(保全)、および (防災)」を設置。これまで多くの認定者を輩出してきました。協議会の設立や各研修プログラムの設定において、2013 年に日本大学工学部のインフラを専門とする研究者を中心として設立された産学官連携のふくしまインフラ長寿命化研究会の活動が果たしている役割が大きく影響しています。簡易な仕組みであっても、産学官が連携して築いた制度によって、地域のインフラを担う人材を輩出し、健全で持続可能な社会への架け橋になり得る取り組みであることが評価されて、「かけはし賞」受賞につながっています。

研究分野の枠を超え、革新的な技術を生み出すコラボレーションを主導

 大学の共同研究においても、誰と組むかによって全く違った成果を生み出します。今回ご紹介した3つの成果が、それぞれ異なる機関から評価を得て賞につながっていることは、大変意義深い点だと思っています。これからも次世代のインフラの在り方を考え、産・学・官が持つ技術や利点を活かし融合させるコーディネーター的な役割を担いつつ、さらに研究を発展させ、地域社会のインフラに貢献していけるよう尽力して参ります。

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