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第23回産・学・官連携フォーラムを開催いたしました

カーボンニュートラルを目指す、産学官連携の取り組みと課題

 11月27日(月)工学部50周年記念館(ハットNE)3階大講堂において、公益財団法人郡山地域テクノポリス推進機構との共催で『第23回 産・学・官連携フォーラム』を開催いたしました。
 今回は『脱炭素社会(カーボンニュートラル)の実現に向けて』をテーマに、地球規模の課題である気候変動問題の解決に向けて「産」「学」「官」の立場から講演を行い、多くの質疑応答が繰り広げられました。当日の開催は会場での聴講に加え、YouTubeライブ配信を併用したハイブリット形式で行いました。

 開催にあたり、公益財団法人郡山地域テクノポリス推進機構評議員及び郡山商工会議所副会頭である伊藤清郷氏が挨拶し、本フォーラムの概要を説明するとともに、参加された皆さまにとって有意義な時間となることを切に願いました。
続いて、産学官それぞれの角度から代表の方々にご講演頂きました。

 

《産の視点から》「脱炭素社会に向けて」

株式会社アスター 代表取締役 本郷武延氏

 日本大学工学部内に設置されている「郡山地域テクノポリスものづくりインキュベーションセンター」に5年間在籍した株式会社アスターは、昨年度の日本機械工業連合会による「優秀省エネ脱炭素機器・システム表彰」で中小企業庁長官賞を受賞されています。
 代表の本郷氏は起業からの経緯を示し、地方企業も世界に勝てる全く新しい技術を構築すべきという理念の下で開発した独自のアスターコイルモーターについて説明しました。電気エネルギーの50%以上がモーターによって機械エネルギーへと変換されている現在、モーターをコンパクトに省エネ化する改革が重要だと考え、このモーターでは性能を変えずにコストを抑えることを実現しました。コンパクトゆえに材料消費そのものが少なく、コストが低いため波及効果が大きい、この二つを同時に実現する技術こそが脱炭素社会に重要な役割を持つと語ります。
 加えて、世界中の研究者が注目する超電動モーターの製作技術を東北の企業が持っている、という事実をもっと公にする必要があると強調しました。アスターコイルモーターは超電導モーターに対して98%の効率を実現する世界初の技術ですが、日本では理解するところが少なく、アメリカやインド、ドイツの企業との協業で新しいモビリティやドローン等の社会実装を進めていると言います。また、再生しやすい材料とシンプルな部品構造によってリサイクル性も担保。リサイクルに必要な電力供給も発電システムまで含めた環として構築していくことを示しました。
 今後はエネルギー分野へも挑戦を続けると語り、小型の風力発電、水力発電によってエネルギーの地産地消を進めることが脱炭素化社会へ有効であり、コンパクトであることに主軸を置いて地域と共にエネルギー自立社会の実現を目指していくと述べました。
 さらに、学生が魅力を感じられる地域にすることが地方企業の命題であると訴え、自分たちが手がけた技術の将来性を見極められるよう、個人の意識改革も必要であると進言。自社の成長理由として「中立的な官の資金力と知見を持つ学の保障力が大きかった。将来性ある技術を伸ばすには「産」「官」「学」との融合は必須」と経験を基に語りました。モーターを基軸に「自然との共存」を目指してきた本郷氏は、脱炭素社会は身近なところから解決していけると力強く呼びかけました。

《学の視点から》「イオン液体を利用した温室効果ガス分離回収技術」

日本大学工学部生命応用化学科准教授 児玉大輔

 児玉准教授は現在様々なCO₂回収技術の中でも多く行われているアミン吸収液による化学吸収法に比べ、約1.5倍のCO₂吸収量を示すイオン液体の物理吸収メカニズムを紹介しました。吸収量の違いに加え、化学吸収法の課題とされる吸収液再生時の蒸留による莫大なエネルギーコストを挙げ、圧力の上下によってCO₂を吸収し、劣化することもなく理論的に繰り返し使えるイオン液体の優位性を提示。室温で液体状態にあるイオン液体は、プラスのイオン・カチオンとマイナスのイオン・アニオンのみで構成される塩で、用途に合わせて組合せも無限なことからデザイナー流体とも呼ばれています。揮発しにくく燃えにくい特性から用途も広く量産されているものです。
 これをCO₂の吸収溶媒として利用するために、様々な評価測定やCO₂吸収再生プロセスの内容を検討し、さらに吸収量の高いイオン液体開発の研究も進めている児玉准教授。欧米が中心のこの研究を日本でも進めており、実証試験などを行っています。大規模発生源からの排出ガスを圧縮しイオン液体に選択的に常温で吸収させ、減圧することでCO₂を脱離させて地中隔離や貯留する技術を開発するとともに、CO₂を出発点とした化成品への転換を行う実証試験プロセスにおいて、現行の化学回収法をイオン液体による物理吸収に変えていきたいと述べました。
 また、フッ素を含むものが多いイオン液体の課題はコストと作製の難しさであり、大規模プロセスでの利用が困難となっていることに言及しました。その解決のため、吸収量が高く合成が容易、安価で分離選択性も高いプロトン性アミジウムイオン液体を合成し評価を進めています。さらに低価格で粘度が低いため吸収が早いことが期待できる深共融溶媒の研究開発も進めていること、天然ガスの採掘井戸元への実用化を目指してCO₂の回収から・吸収液の再生までの一連の流れをプロセスシミュレーションで再現し解析を行っていることを報告するなど、今後を見据えた研究についても説明しました。。
 この研究の発端は20年前からの産総研との共同研究であると振り返り、最近は海外を含めた他大学や企業と協力してこの技術の実用化・社会実装を目指していると述べ、改めて産学官連携の重要性を示しました。

《官の視点から》「福島県のカーボンニュートラルに向けた取組について」

福島県生活環境部環境共生課 課長 濱津ひろみ氏

 濱津氏は、福島県が2050年までの実現を目指し「福島県カーボンニュートラル宣言」を掲げていること、温暖化がもたらす自然災害と県が進める施策を紹介し、改めて喫緊の課題であることを訴えました。
 県の推進体制を示す「福島県2050年カーボンニュートラルロードマップ」のキーワードとして省エネ性能の高い機器に変えていくことや使用電力は再エネや水素といったクリーンエネルギーを目指すことを挙げ、並行して森林整備も行う必要性を示唆。推進母体として産学官で「福島カーボンニュートラル実現会議」を設立し、努力義務などを盛り込んだ「(仮称)福島県カーボンニュートラルの推進等に関する条例」を来年10月に施行すると説明し、県民への理解と協力を求めました。
 県の気候変動への対応は緩和策「原因を少なく」と適応策「影響に備える」、この二つが両輪であると語り、「福島県カーボンニュートラル推進本部」の下、環境共生課だけではなく県庁内各部局連携で対応していることを示しました。また県も1事業者として建築物のZEB化を図り、環境イベントなどを行うことで県民に自分事としてとらえるための意識啓発も進めていると述べました。
 基本理念を「原子力に依存しない安全安心で持続的に発展可能な社会づくり」とする福島県。風力発電の稼働も見込まれる中、2022年度は52.1%の実績だった県内エネルギー総需要に対する再エネの導入目標を2030年度70%、2040年度100%とすると明言しました。県有施設の再エネ導入推進策として、福島県環境創造センターがPPA方式による太陽光発電の電力購入契約を結んだことを述べ、環境教育情報発信施設としてもぜひご来館頂きたいと伝えました。
 現時点で福島県は水素エネルギー導入状況が国内第一位ですが、今後は浪江町の水素ステーションやFCVの導入をさらに推進し、海外物資に頼ることの多い再エネ施設関連産業に関して県内外の企業への支援も進めていきたいと話し、「ふくしまゼロカーボン宣言事業」推進のため、自らの事業活動に伴うCO₂の排出量を「図り」、できるところから「減らす」取り組みへの参加を中小企業に対しても呼び掛けていると結びました。

《官の視点から》「カーボンニュートラルに向けたFREAにおける水素・アンモニア研究」

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)
再生可能エネルギー研究センター 副研究センター長 難波哲哉氏

 難波氏はまず、独創的な再エネ技術を研究開発するFREA(福島再生可能エネルギー研究所)の特徴として「実証フィールド」を挙げました。基礎から応用の研究が多い産総研の中で、応用から実証に注力し、太陽光発電、風力発電、地熱発電、地中熱利用など様々な再エネに関する研究開発を行っているFREA。本講演では特に水素・アンモニア研究の現状について紹介しました。
 水素を作るには水の電気分解が基本ですが、電力源となる再エネの出力変動性が重要なファクターであるにもかかわらず水電解装置に及ぼす影響が完全に解明されていません。再エネ出力変動による水電解装置システム装置の挙動、劣化過程を調査し、課題を明確化するため、現在グリーンイノベーション基金事業「水電解装置評価設備の構築」を進めていると報告。4月からの稼働を予定し計画を進めていると述べました。
 続いて水素貯蔵の意義と貯蔵体について説明しました。ゼロエミッション実現には「貯める」ことが非常に重要な役割を持ちます。再エネのように変動する電力を水電解装置に入れると水素の製造量も変動するため、大量の水素をコンパクトに貯蔵するシステムが必要であるとし、使い方に合わせた貯め方のバリエーションとしてアンモニア、MCH、水素吸蔵合金などの水素キャリアの例を紹介しました。
 水素吸蔵合金の実装例では、産総研で開発した難燃性吸蔵合金によってコンテナの仕様を単純化できた事例を紹介しました。また、これまで化学プラントにおいて原料が変動するという前提が無かったため、再エネ・水素を原料とした化学物質を使う場合、変動にどう対応すべきかをアンモニア合成を例に紹介しました。日本で初めて合成された燃料「グリーンアンモニア」でガスタービン発電を行い電力に戻すというアンモニアバリューチェーン全体を俯瞰した実証実験に成功。さらに、変動に対応するために小型分散型アンモニア合成システムの開発を進めていると説明しました。
 同時に進めている「水素キャリアシステム連携燃焼実証」の状況にも言及し、直接燃焼による発電に着目した水素とディーゼル混焼、水素とLNG混焼・専焼でのエンジン燃焼といった実証試験を重ねていることを報告しました。
 今後も様々な燃焼機関での実証実験を繰り返しながら、次世代エネルギーシステムの社会実装を進めていきたいと決意を示しました。


 各テーマの講演に対して、会場からも多くの質問が上がり、活発に意見が交わされました。司会の土木工学科中野和典教授からも「発電から使用まで小規模分散的にエネルギーが地産地消できることで、限界集落が限界ではなくなり、インフラの「集約」ではなく「分散」を可能にするのではないか、脱炭素社会を目指す技術によって現代社会における少子高齢化や過疎化など多くの問題解決に繋がるのではないか」といった発言もあり、今後の課題検討に加え将来の展望も描かれることとなりました。


 閉会の挨拶に立った工学研究所次長加藤隆二教授は、登壇いただいた方々へ非常に刺激的な講演をいただいたと御礼を述べ、会場の皆さま、オンライン参加の皆さまへも感謝の意を伝えました。「大きな技術体系の問題については自分の研究分野や生活の範囲でモノを考えてしまいがちであるが、違う分野のものの考え方を学ぶことは大変重要であり、本フォーラムがそういう機会になれば大変うれしく思う」と願い、フォーラムを締めくくりました。

 参加した学生は、「これまでアカデミック的な視点でしか見ていなかったが、カーボンニュートラルへの様々なアプローチについて知ることができ、大変勉強になりました」と話しています。企業の方からも、「自分たちにはない知見やアイデア、取り組みを知り感銘を受けました。会社として温室効果ガス削減に取り組んでおり、児玉先生の講演は大変興味深く参考になりました。大学はもちろん、他の企業と技術的な連携ができる可能性を見いだすことができ、本当に参加して良かったと思います」と熱く語っていました。

 今回の各講演から産学官が連携する必要性を改めて確認できたのではないでしょうか。加藤教授の話にもあったように、これを機に新たな関係ができることを心より期待します。その繋がりはカーボンニュートラルの実現に大きく貢献するものとなることでしょう。