最新情報

令和5年度化学系学協会東北大会(国際会議)において生命応用化学専攻博士前期課程2年の栁沼涼祐さんがRSC最優秀ポスター賞を、同2年の千葉康平さんがポスター賞を受賞しました

独創的な研究で世界的に評価される

栁沼涼祐さん

千葉康平さん

 9月8日(金)から10日(日)に行われた、令和5年度化学系学協会東北大会および日本化学会東北支部80周年記念国際会議(仙台大会)において、生命応用化学専攻博士前期課程2年の栁沼涼祐さん(生体材料工学研究室/石原務教授)がRSC最優秀ポスター賞【RSC (Royal Society of Chemistry:王立化学会(イギリスの学術機関)journal Awards for Best Poster(Biomaterials Science)】を、同2年の千葉康平さん(光物理化学研究室/奥山克彦教授)がポスター賞(Physical Chemistry)を受賞しました。
 二人に受賞の喜びと研究について詳しくお話を聞きました。

「令和5年度化学系学協会東北大会および日本化学会東北支部80周年記念国際会議」RSCポスター賞・ポスター賞受賞者一覧はこちら

優れた薬理効果を発揮する新規バイオ医薬品の開発が国際的に高く評価される

『Intracellular delivery of proteins by chemical modification(化学修飾によるタンパク質の細胞内デリバリー)』

栁沼涼祐さん(生命応用化学専攻博士前期課程2年・生体材料工学研究室)

 私たちの研究室では、薬剤の効果を最大限発揮させ副作用を低減するための制御技術であるDDS(ドラッグデリバリーシステム)の研究に力を入れています。これまで、粒子に薬物を封入して標的部位へ効率よく薬剤を届ける方法を開発してきましたが、本研究では薬物自体に化学修飾を施し体内にデリバリーする技術の開発を試みました。着目したのは、体内の活性酸素の一種(スーパーオキシドアニオン)を消去するタンパク質であるSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)です。先行研究では、細胞膜にあるリン脂質と同じ成分を持っているレシチンという脂質の一種を化学修飾したPC-SODを開発。細胞との親和性が高いことから直接細胞に取り込まれるというメリットがあるほか、血中のアルブミンなどと結合しやすくなることで血中滞留性を上げることもできました。さらに、有用性や利便性が高く、優れた薬理効果を発揮する新規バイオ医薬品の開発を目指して研究を進めました。

 まず、タンパク質に修飾する最適な化合物の探索を行いました。様々な長さの長鎖脂肪酸やペプチドを修飾した数十種類のSOD誘導体を合成し、実際にHeLa細胞(ヒト子宮頸がん由来細胞)への取り込みや酵素活性を解析することで、医薬品としての可能性を評価しました。その結果、効率よく細胞に取り込ませるためには修飾物に複数の要素を組み合わせることが必要であることがわかったので、現在、最適な化合物を修飾したSOD誘導体を合成して実験を行っています。有効性のある修飾剤の目途が付いてきたところで、今後は修士論文にまとめて、後は後輩に引き継いでいきたいと思っています。
 元々、化学や生物が好きで生命応用化学科に進んだこともあり、化学と生物の両方が学べる医薬品の研究に興味を持ち、この研究室に入りました。まだ世の中にないものをつくることにやりがいを感じます。

 今回は大学院に進学して初めてのポスター発表でしたが、それほど緊張することはありませんでした。国際会議のため英語で説明し、英語での質問に対しては英語で答える場面もありました。高分子/繊維部門で私のように細胞実験を行っている研究者が少なく、タンパク質を直接修飾する手法に興味を持たれたように思います。また、新規性のあるポスターだったことや説明がわかりやすかったことが評価された要因だと思います。このような名誉ある賞をいただき、大変光栄に思っております。本研究を行うにあたって、ご指導していただきました石原先生をはじめ研究室の仲間に深く感謝しています。

 就職先は遺伝子検査キットなどの医療機器も扱っている電子機器メーカーに研究職として採用されました。面接の際、自分の研究について熱く語ったのが人事の方にも響いたのかもしれません。昨年の今頃は思うような結果が出ず泥沼の状態でした。しかし、諦めずに粘り強く取り組んできたからこそ、今の成果につながっているのであり、それを自分のストロングポイントとしてアピールできたことが、採用に結び付いたと思います。将来は一つの職種に拘らずに幅広く学び、様々な分野でマネジメントできる人材になりたいと思っています。

生体材料工学研究室はこちら

世界で初めて蛍光検出法によるtrans-スチルベンの2光子励起スペクトルの観測に成功!

『Non planarity of trans-stilbene:An exploration with the spersonic-jet electronic spectroscopy(trans-スチルベンの非平面性:超音速分子流電子スペクトル分光法による検討)』

千葉康平さん(生命応用化学専攻博士前期課程2年・光物理化学研究室)

 ヒトの眼の中には、光を感じるロドプシンという視物質があります。網膜上で光を受けたロドプシンが構造変化し、脳の細胞内へ信号として伝わって、私たちはモノを見ることができるのです。ロドプシンはオプシンと呼ばれるタンパク質とビタミンAからなるレチナールで構成されていますが、ロドプシンの構造変化はレチナールが光を受けるとシス形からトランス形に変化することに起因しています。このレチナールのモデル分子として注目を集めているのが、trans-スチルベンです。分子分光法を使って多くの著名な研究者が発表した論文では、trans-スチルベンは平面的な構造をしている分子と見られていました。しかし、エチレン水素とベンゼン環オルソ位水素が近接しているため、立体反発を起こし非平面構造になるのではないか、あるいは立体反発を凌駕し、分子全体にπ電子共役が働いて平面構造をとるのではないかと議論された時期もありました。論争は平面分子と結論付けられ一旦終止符が打たれましたが、昨年この問題が再燃したことをきっかけに、本研究室でも異論を唱え研究に着手。超音速分子流電子スペクトル分光法を用いて、当時行われていなかった分光法により、研究を行いました。

 粉末状のtrans-スチルベンを2回真空昇華させた後、実験に用いました。資料室の温度は150℃。励起光は時間同期したND:YAGレーザにより、さらなる誘導放出をかけ、励起光源を5.4mj/pulseまで増強。蛍光検出系は紫外透過可視カットフィルターとバイアルカリ光電子増倍管R106UHを用いています。実験の結果、段違いの平面構造になっていることがわかりました。さらに、これまでは1光子励起のスペクトルしか観測されていませんでしたが、世界で初めて蛍光検出法によるtrans-スチルベンの2光子励起スペクトルの観測に成功しました。

 4回目の学会発表でしたが、賞をいただくのは初めてのことで大変驚きました。この研究自体がマイナーなテーマを扱っているため、受け入れられるかどうか不安はありましたが、内容が上手く伝われば評価していただけるのではないかと思っていました。trans-スチルベンが平面構造だとされてきた定説を覆したわけですが、分光学を研究している方々には、この結果に理解を示していただけました。世界初のことを成し遂げられて、それが自信にもつながっています。

 指導教員の奥山先生が本年度で定年になられるので、ご指導いただく最後の院生として成果を挙げることができ、大変嬉しく思います。真空でレーザを使う研究室は生命応用化学科の中でも珍しく、興味をそそられてこの研究室に入りました。奥山先生は研究の進め方について、私の考えを尊重してくださり、困った時には適切なアドバイスをいただくなど、とても良い環境で研究活動を行うことができ、深く感謝しております。試行錯誤しながら実験を積み重ねて、結果が出た時に喜びを味わえるのが研究の醍醐味です。将来については模索中ですが、研究の道にも惹かれているところです。教員専修免許状を取得しているので、様々な選択肢を視野に入れて、今やるべきことに全力で取り組んでいきたいと思います。

光物理化学研究室はこちら