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第26回JIA東北建築学生賞で建築学科4年の糠谷勇輔さんが優秀賞、同4年の阿部佳穂さんが奨励賞を受賞しました

将来の可能性を期待させる2つの作品が審査会で高い評価を受ける



 10月27日(木)に、第26回JIA東北建築学生賞審査会がオンラインで開催され、建築学科建築・地域計画研究室(指導教員:宮﨑渉専任講師)の糠谷 勇輔さん(建築学科4年・写真左)の作品『心の器』が優秀賞、建築計画研究室(指導教員:浦部智義教授)の阿部 佳穂さん(同4年・写真右)の作品『記憶の方舟 ~6次産業による地域の活性化~』が奨励賞(みやぎ建設総合センター賞)を受賞しました。本作品は、建築学科前期カリキュラムの建築計画設計課題から学内選考により選出されたものです。Zoomによるオンラインで開催された審査会では、応募作品の中から選ばれた33作品が公開ヒアリングに進み、コンセプトの導き方、社会性・歴史性、空間性・造形力、表現力などを軸に審査され、審査員の投票によって各賞が決定。惜しくも最優秀賞は逃したものの、将来の可能性を期待させる大きな成果と言えます。二人の喜びの声とともに、作品への思いを語っていただきました。

優秀賞『心の器』

糠谷 勇輔さん(建築学科4年・建築・地域計画研究室)

 『福島を変える』という設計課題のテーマに対し、被災した地域の中でも復興が遅れている福島県で、人々の心がどう変わったかに着目しました。震災から10年が過ぎ、ようやく帰還できるようになった双葉郡双葉町にどのような建築があれば人々が豊かに暮らせるのかを考えた時、怖い体験やつらい経験をした人々の心を大切にして包み込むような建築をつくりたいと思い、新たな人々の住処となる住居群を提案しました。現地調査と自治体が行ったアンケート調査から、町やものに取り残された人々の思いやどのようなことを求めているのかを考えて、集合住宅を含めた6つの機能を導入しました。

まず、医療関係への不安を解消するための病院施設。そして、外部から来訪した方のための宿泊施設。食事ができる飲食店と食材や道具を購入できる商店。さらに「双葉ダルマ」の文化を継承していくためにダルマ市を開催したり、震災復興の記憶を辿るギャラリーのあるオープンスペース。双葉町ならではの人々の思いを組み入れて、これらの機能を集合住宅に併設することで、人々の心を包み込むことにもつながっていくと考えました。また、必ずしも希望だけではなく不安もある中で、壁を閉じることで心が落ち着く空間になったり、反対に心を開きたい時は壁を開いて人々と交流できる、一定ではない人の心の状態にあわせて可変する建築になっていることもポイントです。

現状の双葉町は、空き家や空き地が目立っており、人の往来もほとんどない状況で、原発の影響の大きさを実感しました。将来、双葉町が復興できるのかといった不安定な状態を考慮して、人々が帰還せずに負の状態になった場合には、復興しようとした面影が残る公園になることも想定しました。どんな未来になろうとも、人々の心に寄り添い、人の心を包み込む、そんな建築を提案しました。震災から10年以上経った今だからこそ、改めて真摯に向き合った姿勢が評価されたのかもしれません。空間とか建築だけにとらわれず、震災によって変化する人々の心に着目して、その人々に建築として何ができるかをテーマに考えた視点が良かったと思っています。大学に入ってから初めて学外でプレゼンテーションして賞をいただけて、とても嬉しかったです。レベルの高い人たちの中で選ばれたことを光栄に思います。大学では、建物の形だけではなく地域の特性を考えながら、地域に求められるまちづくりを提案することの大切さを学びました。福島県の震災の経験や教訓を学んで、将来は地元の静岡県に活かして貢献したいと考えています。

奨励賞『記憶の方舟 ~6次産業による地域の活性化~』

阿部 佳穂さん(建築学科4年・建築計画研究室)

 東日本大震災で被災した私の地元、宮城県南三陸町は現在、復興事業により防波堤が建ち、町は高台に移転したため、漁業で栄えていた町に海との距離が生まれ、漁業の衰退も問題視されています。震災から12年が経とうとしていますが、私の中では本当の意味での復興は終わっていないと感じています。また、復興だけでなく、少子高齢化や第1次産業の衰退といった課題に対する日常のまちづくりや建築の必要性も提案したいと思い、自分の育った南三陸町の状況を踏まえた提案を考えました。

設計では、震災の記憶を伝承しつつ地域の文化や資源を活かし、より日常に寄与できる新たな拠点づくりを目指しました。ひとつは通りの再生です。復興事業により真っ平になり昔の面影がなくなってしまった参道を、被災前に家があった場所に杉丸太をたて、季節ごとに豊かな表情を見せる神社の参道へと再生させます。それと連動して、まちと海を断絶させた防潮堤の上にデッキを設けることで、町と海の関係性を意識できる新参道をつくります。神社の階段の踊り場を津波がきた高さにし、震災の記憶・教訓を肌で感じられる伝承の道にしました。

2つ目は生産・加工・販売を掛け合わせた産業の6次化による地域の持続と賑わいの創出です。南三陸町でブランド化しつつあるワカメを中心に、ワカメの加工場とワカメ羊の牧場、さらに市場と体験施設を組み合わせて、この場所から所得・雇用・観光客による地域活性化を目指します。3つ目は町と海のつながりです。防潮堤を利用した丘をつくり、そこから自然に視線を海へと誘導します。大きなトラスの構造体は防潮堤に荷重をかけずに浮き桟橋やワカメの干場としての役割を持たせるとともに、新たな産業拠点として海と人をつなげるシンボリックなモニュメントになっています。タイトルの『記憶の方舟』は、震災の記憶や教訓の伝承のほか、新たな産業の知識や伝統をはこぶことを意味しています。卒業設計でも南三陸町を敷地に選定して、漁業に加えて農業の課題にも目を向けて、海と山の魅力を包含したワイン産業を軸にした設計を進めています。今回、奨励賞をいただけたことは大変光栄なことですが、今回の作品でもまだまだ改善点はあったと思うので、今後、より一層頑張りたいと思っています。建築の魅力は、建物があることで、人が集い交流する場ができるなど、人々に何らかの影響を与える力があること。また、卒業後は東北を中心に地域の拠点となる公共建築で数多くの実績がある建築設計事務所に内定しているので、建築を通して地元のまちづくりに貢献できることを目指そうと思います。

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