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2019年度土木工学専攻博士前期課程修了の竹田稔真さんが令和4年度水文・水資源学会論文奨励賞を受賞しました

大学院で取り組んだ洪水緩和効果につながる
田んぼダムの研究成果が高く評価される

 この度、2019年度土木工学専攻博士前期課程修了 竹田稔真さん(水文・河川工学研究室/朝岡良浩准教授)が、水文・水資源学会2022年度総会において令和4年度水文・水資源学会論文奨励賞を受賞しました。竹田さんが発表した「田んぼダムの洪水緩和効果による将来的な水害リスク上昇抑制効果」は、大学院での研究成果をまとめた論文で、水文・水資源学の発展に独創性および将来性をもって寄与するものとして高く評価されました。竹田さんは大学院修了後、国立環境研究所福島支部に着任(現:福島地域協働研究拠点)。水工学を専門に、河川流域一体で防災・減災に取り組む”流域治水”が気候変動適応策としてどれだけ有用なのかを数値モデルによるシミュレーションで評価検討に取り組んでいます。
 竹田さんに受賞の喜びと研究について詳しくお話をお聞きしました。

―論文奨励賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 受賞した論文は、大学院1,2年次に行った研究成果をまとめたもので、大学院修了の2年後に水文・水資源学会に提出し、令和3年度の全論文の中から論文奨励賞に選んでいただきました。対外的な学術機関において、研究者全体の中で評価いただいたことを大変嬉しく思います。

―研究の内容について詳しく説明いただけますか。

 田んぼダムとは、水田を活用した水害対策の一つです。水田は畦畔で囲まれた領域に水を貯めることができます。本来、この貯水機能は稲作のためにありますが、雨が降った場合においても一時的に水を貯めることができるため洪水を緩和する効果があるとされてきました。この洪水緩和効果をさらに高める取り組みが田んぼダムです。例えば、水田の排水口に装置を設置してゆっくりと排水する仕組みや、スマート田んぼダムとよばれるICT(Information and Communication Technology)による遠隔操作で、雨が降ってきたら排水口のゲートを上げ下げして排水を制御する仕組みなどがあります。このように一時的に田んぼに水を溜めることによって、河川に流れる水の量を減らして洪水を防いだり被害を軽減するのが田んぼダムです。

これまでの研究によって、田んぼダムが水害対策として有効的であることが明らかにされてきましたが、今後の気候変動で降雨量が増えたり、短時間にゲリラ豪雨が発生したりした場合、どのような効果を発揮するかはまだ明らかにされていませんでした。そこで、100年後の気候変動モデルを使って、田んぼダムの効果を検証しました。気候変動モデルの降雨量は1時間に400mmと推定されています。田んぼダムを使用した場合には、畦の水深よりも水の量が増えて田んぼから水が溢れ出るため、水害のリスクが高まることになります。そのための取り組みとして、水を出す穴の大きさを調整することが考えられます。穴が小さいと田んぼに水が溜まりやすく水深が高くなるので、穴を大きくすることによって畔に溜まる水の量を減らす方法です。しかし、気候変動による大型豪雨の場合に想定される量を考えると穴を大きくするだけでは対応できないため、畔の高さを上げる方法を考えました。どのくらいの高さにすればよいかをシミュレーションの数値で示しました。

―どのような点が評価されたと思われますか。

 これまでに、実際に田んぼダムからどのくらいの水が溢れるのか、またどのくらい畔を高くすればよいか、定量的に示した事例はありませんでした。本研究によって、どのような整備をすれば気候変動下において田んぼダムの効果を発揮することができるのかを定量的に示した点が評価されたと思います。

排水路水深のシミュレーション結果(A)
畦畔の高さが20 cmで水が溢れる場合

排水路水深のシミュレーション結果(B)
畦畔を十分にかさ上げして水を溢れさせない場合

―現在はどのような研究を進めているのですか。

 田んぼダムを含む水害対策全般の研究をおこなっています。従来の河川整備は、川の中に雨水を押し込めて堤防によって市街地に水が流れこまないようにして洪水を防ぐ対策が取られていましたが、昨今の台風や豪雨の状況から堤防で守り切ることができなくなってきています。そのため、溢れることを前提とした河川流域全体での対策を講じる必要があります。ただし、コストや時間を考慮すると既存の設備でできる対策を考えなければなりません。その一つが分散型貯留施設でもある田んぼダムです。また、水害の起こりやすい地域への土地利用規制や都市開発規制に関する提案も行っています。

 大学院で行っていた研究と直結しているので、学んだことがそのまま役立っていますし、やりがいを持って研究に励める日々は大変楽しくて、研究者の道に進んで本当に良かったと思っています。現在も客員研究員として大学と連携した共同研究も続いているので、研究所の機材を使って学生さんにデータを取ってもらったり、研究指導を行うこともあります。今でも朝岡先生や研究室と繋がっていられることは嬉しいですね。

―今後の目標をお聞かせください。

 大河川における流域治水の対策効果を定量的に評価することが目標です。これまでは一地域の田んぼダムに着目した研究でしたが、今後は阿武隈川全体流域として評価する必要があると考えています。水害を減らすことが目的ですが、対策にかかる費用も含めて効果的に実行することが大事になってきます。費用をかけずにより効果的な洪水緩和対策を提案できるように、研究に励んでいきたいと思います。

―後輩たちへのメッセージをお願いします。

大学院生の頃の竹田さん

 せっかくお金を出して大学で学んでいるのだから、それを無駄にせずに将来に活かしてほしいと思います。無駄にするのもしないのも、自分次第です。私は研究が楽しくて大学院に進学しましたが、就職する際に院卒しか採用がない職種もあるので、将来を考えて大学院に進学することも選択肢の一つ。ただし大学院でも同様に、研究することに満足せず、どんな研究成果を挙げたか、どのように自分が成長できたか自信を持って言えるように取り組んでほしいと思います。

―ありがとうございました。今後益々活躍されることを祈念しています。

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