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生命応用化学専攻1年の佐藤さつきさんが令和4年度化学系学協会東北大会で優秀ポスター賞(無機/分析/環境化学分野)を受賞しました

食品廃棄物を有効利用するための研究が高く評価される

 9月17日(土)、18日(日)に公益社団法人日本化学会東北支部令和4年度化学系学協会東北大会(盛岡大会)が開催され、生命応用化学専攻博士前期課程1年の佐藤さつきさんが優秀ポスター賞を受賞しました。会員約3万名を擁するわが国最大の化学の学会である公益社団法人日本化学会。本大会はその東北支部が主催するものです。環境照射化学研究室(指導教員:沼田靖教授)に所属する佐藤さんが発表した『Quantitative analysis of Quercetin in food waste with Raman Spectroscopy:ラマン分光法による食品廃棄物中のケルセチン(および配糖体ルチン)の定量分析』は、無機/分析/環境化学分野での受賞となりました。本分野では47件の発表のうち6件が優秀ポスター賞に選ばれています。
 佐藤さんに受賞の喜びと研究について詳しくお話を聞きました。

―優秀ポスター賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 学部4年の時にオンラインで学会発表を経験したことはありましたが、対面での発表は初めてでした。口頭発表とは違っていろいろな方と何度もディスカッションするので、大変緊張しました。そんな状況でしたので、受賞については驚いたというのが正直な感想です。沼田先生にご指導とアシストしていただいたおかげだと思いますので、大変感謝しています。

―研究について詳しく説明いただけますか。

 植物にはファイトケミカルという身体に有用な成分が含まれているものがありますが、その多くは廃棄されています。一例として、タマネギの外皮に含まれるケルセチンがあります。タマネギ外皮はほぼ100%廃棄されていますが、そこから有効成分を取り出し、サプリメント等に利用することができれば、付加価値を生み出すことができます。抽出時に問題になるのは濃度管理であり、そのためにはその場で分離せず測定できる方法が必要です。当研究室ではラマン分光法を用い、廃棄物から抽出される有効成分の定量分析を行ってきました。ケルセチン抽出時にはその配糖体であるルチンも同時に抽出される可能性があります。ルチンとケルセチンは構造が類似しており、同じ波数位置にピークを持つため、同時定量が困難です。

図1ケルセチンとルチンのラマンスペクトル

 そこで、ラマン分光法で測定を行った後に、部分的最小二乗法(Partial Least Square : PLS)という解析方法を用いてケルセチン、ルチンの同時定量を行いました。図1にケルセチンとルチンのラマンスペクトルを示します。ケルセチンおよびルチンのピークは1570~1655 cm-1の間に3つ出現しましたが、強度比は異なっています(図1中の拡大)。タマネギ外皮から抽出された濃度未知の試料の定量には、まず、種々の濃度既知のケルセチンとルチンの混合溶液を測定し、PLS回帰モデルを作成します(図2)。次にタマネギ外皮から抽出された試料のラマンスペクトルを測定し、そのスペクトルを先に作成したPLS回帰モデルに代入することで定量分析を行いました。その際、図1に示したすべての領域を使うのではなく、ケルセチン、ルチンが現れる領域のみ使うことにより定量性を向上させました。その結果、ケルセチンはタマネギの皮1 gから2.0 mg抽出されることが分かりましたが、配糖体であるルチンはほとんど抽出されていませんでした。以上の結果から、ラマン分光法とPLSを用いることで、構造が似ている2つの成分の同時定量が可能であることが検証できました。

―どのような点が評価されたと思いますか。

 発表を聞いてくださった方は、同時定量に興味を示していました。3つのピークを用いてPLS回帰モデルを作成した点も評価していただけたようでした。食品ロスが大きな問題となっている中で、これまで廃棄されてきたものを有効活用しようとする研究は面白いという意見もたくさんいただきました。目的も明確で実験の流れも円滑だったことや、環境問題解決に向けた実用的な研究であることが評価されたのではないかと思います。

―大学院に進学した理由をお聞かせください。

 将来、化学の先生になることが夢で、教員採用試験を受けるチャンスが増えると考え、大学院に進学しました。また、専門知識を深めたいというのも理由の一つでした。論文を読んだり実験を重ねて、試行錯誤しながらも研究方法を自分で見いだし、同時定量ができた時はとても嬉しく、達成感もあります。環境に貢献できる研究に携われることにやりがいも感じています。化学は世の中に役立つ学問です。若い世代の未来に向けて化学の魅力を伝えていきたいという思いもありますが、研究の面白さがわかってきたこともあり、今は教員に絞らず幅広い視野で将来の道を考えていきたいと思っています。

―今後の目標をお聞かせください。

 玉ねぎ以外の野菜や韃靼そば粉でも同時定量の実験を行い、有用な成分の検出を行っていく予定です。これまでのHPLC(高速液体クロマトグラフィー)による検出方法は手間と時間が掛かっていましたが、物質を分離せずに同時定量が可能なラマン分光法とPLS回帰を用いた検出方法は簡単に同時定量が行えるという点が大きなメリットです。新たな検出方法として確立していくために、今後はHPLC(高速液体クロマトグラフィー)を使って、同じ値になるかを検証していきながら、精度を上げていきたいと考えています。最後にこれらの研究成果を論文にまとめて発表することが目標です。

―ありがとうございます。今後益々活躍されることを期待しています。

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