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建築学専攻2年の川崎浩長さんが日本建築材料協会優秀学生賞を受賞しました

コンクリート構造物の長寿命化につながる
自己治癒コンクリートの研究が高く評価される

 この度、博士前期課程建築学専攻2年の川崎浩長さん(鉄筋コンクリート(RC)構造・材料研究室/指導教員:サンジェイ・パリーク教授)が、『2021年 一般社団法人 日本建築材料協会 優秀学生賞(大学院・大学の部)』を受賞しました。この賞は、大学院・大学・短期大学・高等専門学校等に所属する学生の建築材料に関する卒業・修士論文、および卒業・修了制作(作品)を対象とし、建築材料の調査研究、新たな開発および発展に寄与した学生を高く評価し、優秀な人材育成を応援することを目的としています。川崎さんが取り組んだ『バクテリアを用いた自己治癒モルタルに関する基礎的研究』はコンクリート構造物の長寿命化が期待される材料の研究であることから、研究内容が高く評価され、見事優秀学生賞に選出されました。
川崎さんに受賞の喜びと研究について詳しくお話を聞きました。

建設業界やコンクリート構造物の問題解決につながる研究として期待されています

優秀学生賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

私が工学部を卒業したのは2020年3月でしたが、2019年10月に発生した台風19号の影響により、昨年は卒業論文を応募することができませんでした。しかし、一日も早く『自己治癒コンクリート』が実用化されるためにも、この研究成果を広く知っていただきたくて本年応募しました。異例ではありましたが、認めていただけて大変嬉しく思います。ご指導いただいたパリーク先生にも深く感謝しています。

研究について詳しく説明いただけますか。

コンクリート構造物の劣化の要因の一つがひび割れです。そこから水分や塩化物イオン等が侵入し、内部の鉄筋の腐食等が進行することで劣化が進みます。コンクリート構造物の耐久性を向上させるには、有害なひび割れの補修が必須なのです。補修方法に関しては様々な研究開発が進められています が、中でも注目を集めているのが『自己治癒コンクリート』です。これまでの補修方法は補修剤を塗ったり、機械で補修したりといった人の手を使った方法で補修が行われていました。この自己治癒コンクリートは人の手を使わずに、バクテリアの働きによってひび割れを閉塞させるという画期的な建築材料です。あらかじめコンクリートにバクテリアとバクテリアの栄養分を添加します。ひび割れが起こるまでは水分や酸素が行き渡らないため、バクテリアは休眠状態ですが、ひび割れが起こるとそこから水分や酸素が入り込むため、バクテリアが活動を開始します。栄養分である乳酸カルシウムを食べることで、炭酸カルシウムや二酸化炭素、水を排出します。この生成された炭酸カルシウムによってコンクリートのひび割れが閉塞する仕組みになっています。そして再び水・酸素の供給が遮断されるため、バクテリアは休眠状態に戻ります。このプロセスが繰り返し行われることで、コンクリート構造物の劣化を防ぎ長寿命化につながるというわけです。本研究では、実際にモルタルを使って、ひび割れが治癒したかどうか、漏水・通水試験などを行い、その効果を検証しました。実験結果から、自己治癒が行われたことが確認できました。これにより実用化に大きく近づいたと言えます。

 

どのような点が評価されたと思われますか。

この自己治癒コンクリートは建物の長寿命化が期待できるだけでなく、人手がいらないメンテナンスフリー化につながるため、建設業就業者数減少問題へのアプローチや高所などの補修の危険性の排除、補修時間・補修コストの削減ができる点でも大いにメリットがあります。建設業やコンクリート構造物の様々な問題解決につながる研究だと認められたのだと思います。

建築材料学と微生物学をコラボさせたところに研究の面白さがあります

どんなところが研究の魅力ですか。

 建築材料学と微生物学を新たにコラボレーションさせたところがこの研究の魅力だと思います。実は、私が建築の道に進んだのは、大工だった祖父の影響でした。将来は大工になろうと思い、一級建築士を目指すために大学に進学しましたが、実際に学んでみたら製図の授業が苦手で(笑)。しかし、3年次の研究室訪問の時、パリーク先生が行っているこの斬新な研究について知りました。この自己治癒コンクリートはオランダの大学が始めた研究で、偶然『Mashable』のTwitterでもこの研究が紹介されているのを見て、まさに運命だと思い、この研究室を選びました。卒業研究では、研究室で発案したオリジナルの試験方法で、大学院進学後は自分が発案したオリジナルの試験方法を用いて研究を進めています。研究は自分の考えたことを実践できるのでやりがいがあり、どんどん面白くなっていきます。

今後の目標をお聞かせください。

国内で実用化されているのは、建物のごく一部分。コンクリート構造物全体に使われている例はまだありません。目標は実用化させるだけでなく、広く普及させることです。現在は、企業と共同で研究を進めており、研究成果を次々学会で発表しています。博士後期課程への進学も決めました。一つのテーマのスペシャリストになることは、自分の強みになります。これぞという武器を磨くつもりで、さらにこの研究を深めていきたいと思います。

ありがとうございました。今後益々活躍されることを期待しています。

 

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