視線・動線の緩和につながる設えの重要性に着目した点が高く評価される
10月22日(土)・23日(日)に行われた日本インテリア学会第34回大会(福島)において、建築学専攻博士前期課程1年の吉澤伊代さん(住環境計画研究室/指導教員:市岡綾子専任講師)が学生発表奨励賞を受賞しました。吉澤さんが発表した「市民に開かれたスペースの設えに関する研究-福島県内の庁舎におけるケーススタディー」は東日本大震災以降に新築された福島県内の庁舎を対象に調査・分析を行ったもので、視線・動線の緩和につながる設えの重要性に着目した点が高く評価されました。
吉澤さんの喜びの声とともに研究について詳しくお話を聞きました。
―学生発表奨励賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。
日本インテリア学会第34回大会の最後に表彰者が発表されて、自分の名前が出てきた時は大変驚きました。時間が経つにつれて実感が沸いてきて、受賞できたことを大変嬉しく思います。オンラインでの口頭発表でしたが、9月に日本建築学会のオンライン発表を経験していたこともあり、今回は落ち着いて発表できました。ご指導いただいた市岡先生のおかげでもあり、深く感謝しております。この受賞を今後の研究活動の励みにしていきたいと思います。
―研究について詳しく説明いただけますか。
2011年の東日本大震災以降、福島県内では多くの市町村が新庁舎を建設しています。そうした中で、私は学部4年の時に塙町の新庁舎への設計に向けたワークショップ参加して、開かれたスペースに対する町民の方々の様々な要望を知る機会がありました。そこで、卒業論文では、市民に開かれた庁舎という観点から図面情報が得られた福島県内の10事例の新庁舎について調査・分析を行いました。職員が主に仕事をしているスペースと多目的スペースやロビー等の市民が自由に使えるスペースの配置と動線に着目すると、L字型、求心型、挟み型の3タイプに分類することができました。最も多いL字型は市民スペースが待合と市民に開かれたスペースの空間との二手に分かれたL字型に配置され、利用者の動線が交わりにくい特徴が見られました。求心型は待合等の市民スペースが窓口に2面以上囲まれるため、執務の空間に抱合される傾向にありますが、いずれの事例も待合は吹き抜けであり、庁舎の象徴的な空間となる特徴がありました。挟み型は市民スペースが執務空間と出入り口に挟まれるように配置され、動線や視線が交わりやすく、利用者は溜まりづらい傾向が見られました。
これら3分類の分析に加えて、日本インテリア学会の大会では、市民に開かれたスペースが設えによって受ける影響を分析した結果を発表しました。3つの型それぞれ良い面、悪い面はありますが、パーテーションによる仕切り方、机や椅子の配置への配慮、設えを活かした視線や動線のコントロールが重要なポイントになると思います。仕切りの無い市民スペースは利用者や職員の往来によって、雑多な雰囲気に侵食され利用者が定着しないという傾向が見られました。三春町役場は常に仕切られている空間になっているので、セミナーなどのイベントも開催しやすく、市民スペースとして定着しているようでした。仕切りがある場合でもガラス張りにしているところが多く、三春町の場合は飾り棚を設けて民芸品を置くなど、ガラス張りでありながらワンクッションあることで、外からの人の視線が緩和されて気にせず利用できるような工夫がされていました。市民に利用されるためには、こうした設えまで意識した空間づくりが必要だと思われます。
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実際に各庁舎に足を運んで市民スペースの利用状況や設えの配置を確認し、市民スペースの使われ方について職員の方々に聞き取り調査をしました。どこの庁舎も皆さん親身に対応していただき、日本大学のネームバリューや卒業生のネットワークの力を感じました。特に三春町役場には、工学部の卒業生が勤務されていたこともあり、行き届いた調査へのご協力をいただき、大変ありがたく感謝しています。
―どのような点が評価されたと思われますか。
実際に庁舎に行って自分の目で見たからこそわかる、動線や視線をあわせて考察したところが評価されたのではないかと思います。質疑応答の際に、どんな仕切りが良いか、どんな工夫をしたら良いかという質問がありました。視線は遮断しつつ開かれた雰囲気は残せるように仕切りの一部に曇ガラスを取り入れるのも良いのではと答えましたが、テーブルや椅子を設置しても利用されていないという役場の方のお話からも、仕切り等の工夫が大事だと思っていたので、その点を強調できたのが良かったと思います。
―大学院に進学した理由をお聞かせください。
学部の4年間があっという間に感じたことや、卒業研究の内容をより深く探求し発展させ、まちづくりに関する専門的な見解を身につけられるようになりたいという思いから大学院に進学しました。社会人として働く上でも学んだことを活かして貢献したいと思ったことも理由の一つです。また、院生になると発表の機会も多くなることで、学部生ではできなかった経験ができるのもメリットだと思いました。学会発表は、他大学の院生や教員の発表を聴いたり、学外の人から自分の研究に対し意見をもらえたり、新たな刺激が得られます。さらに、研究室で実施する学外プロジェクトに関わる機会も増えたので、プロジェクトの中で関わる人も幅広くなったことは貴重な学びになると思っています。学部生の頃は同級生の友達との関わりが多かったのですが、大学院生になると研究室の課外活動を通して、必然的に後輩との関わりも増えました。課外活動が上手くいくように後輩の様子を見ることや、後輩の研究状況を見てアドバイスを行うなど、人に理解してもらえるように説明する術を日々学んでいます。
―今後の目標をお聞かせください。
庁舎の設計にあたり、設計者の提案なのか役場の意向なのか、どのようなやりとりがあってこの形になったのか、設計の過程についても分析していきたいと考えています。今まで見てきた中で、三春町は役場の職員の方の思いが強く、紅葉狩りの時期にライトアップして役場庁舎を開放するなど、市民に開かれた役場を目指しておられます。
また、最近開庁した双葉町役場の視察に行くなど、新たな事例を含めて調査しています。これまで視察した庁舎とは異なる実状があり、庁舎を研究する上で新たな視点が得られました。これからも実際に足を運んで現状を把握する機会も交えながら、研究を進めていきたいと思います。
―ありがとうございました。今後益々活躍されることを期待しています。
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