地域に根ざした『橋のセルフメンテナンスふくしまモデル』が様々な視点から高く評価される
土木工学科『構造・道路工学研究室(元コンクリート工学研究室:岩城一郎教授)』では、これまで住民との協働による道づくりや橋のメンテナンス等の活動、さらには小中高校生を対象に社会インフラの重要性を理解してもらうための教育活動に取り組んできました。これらの多様な取り組みがいろいろな視点で評価され、公益社団法人土木学会『土木広報大賞2019』では優秀部門賞(教育・教材部門)、同会田中賞選考委員会令和元年度『かけはし賞』、さらに福島民報社『第5回ふくしま経済・産業・ものづくり賞(通称ふくしま産業賞)』の学生金賞を受賞しました。これらの活動は、本研究室の客員研究員である浅野和香奈さんが、学部・大学院在籍時の研究の一環として、福島県の平田村や郡山市などをはじめ、宮城県黒川高等学校やその他全国各地と連携して進めてきたものです。
本プロジェクトの詳細について紹介するとともに、岩城教授と浅野さんの喜びの声をお届けします。
住民主導による橋梁点検と清掃活動をあわせた新しいインフラ整備モデル
2014年に制定された道路橋定期点検要領では、5年に1回の定期点検に加え、日常的な施設の状態を把握することが望ましいとされています。しかし、道路橋管理者の約7割を占める各市町村では、財政力や技術力の 面から容易に行うことは難しい状況です。そこで、構造・道路工学研究室では、地方橋梁に対し住民と協働で日常的に橋面上の点検及び清掃の取り組みを実施する『セルフメンテナンスふくしまモデル』を構築。「日常的な維持管理において、橋をその利用者、管理者自らが点検し、簡易なメンテナンスを行うことにより、健全な状態を維持すること」を目的に、セルフメンテナンスを展開してきました。まず、福島県橋梁点検調書を参考に一般市民が点検できるツールとして簡易橋梁点検チェックシートを考案し、2015年に福島県平田村にて試行。表面には点検項目、裏面に損傷例の写真を設け、高欄、地覆、照明、排水桝、舗装、伸縮装置の橋面の 6 個所を点検し、「錆」、「変形」などの項目を抽出して損傷や汚れの有無と程度を記入できるチェックシートになっています。点検者の安全を守るため「注意事項」も掲載しました。また本チェックシートは、非実務者であっても実務者とそん色ない評価ができることも確認しています。これを使ったセルフメンテナンスの成果は、『橋マップ・ひらた』で住民にもフィードバックされ、橋面の汚れの程度をウェブ上の地図にプロットされたピンの色で確認することができます。 ピンの色が暖色になるにつれ橋面の清掃の必要度が高いことを示す橋マップは、当初、暖色系のピンが多く見受けられましたが、セルフメンテナンスの取り組みにより年々橋面の汚れが減少傾向にあり、現在は寒色系のピンが多くプロットされています。これらの取り組みを発表した令和元年度土木学会全国大会第74回年次学術講演会の論文『福島県平田村における市民協働型橋梁セルフメンテナンスシステムの実装』が田中賞選考委員会令和元年度『かけはし賞』を受賞しました。また、2012年度から行っている住民と学生の協働による平田村での道づくりも含め、現在、南会津町、郡山市、葛尾村をはじめ宮城県内や東京都内などの計13市町村で展開している本研究室の活動が評価され、『第5回ふくしま経済・産業・ものづくり賞(通称ふくしま産業賞)』の学生金賞も受賞しました。
土木教育を通した小中高校生向け広報活動に大きな期待と関心が高まる
岩城教授と浅野さんは、一般市民に対してインフラへの意識を高めるだけでなく、子どもたちへの広報活動も非常に重要だと考えています。特に子どもたちへの教育には2つの大きな役割があると捉えています。1つ目は教育を受けた子どもたちが土木への関心を持ち、将来の選択肢として土木業界に進んだり、あるいは地域でインフラの簡易な維持管理や整備に積極的に関わるようになること。2つ目は教育を受けた子どもたちの兄弟や親御さん等家族も土木に関心を持つようになることです。小、中、高校生の年齢を踏まえた教育を考え、難しすぎず易しすぎず、「少しの背伸び」、「少しの努力」ができる内容になることを念頭に置き、その場に応じた教育レベルを設定しました。クラフトを組み立てることで橋の部材の名称や形、構造などを学ぶことができる『橋のペーパークラフト』、超速硬セメントを使い自ら練ったコンクリートを型に流し込んで作る『コンクリートオブジェ・ストラップ工作』、そして前述の簡易橋梁点検チェックシートを教材として設定。小学生向け教育プログラムでは、『コンクリートオブジェ・ストラップ工作』を教材に用いた『ちびっこマイスターズカレッジ コンクリート探検隊』、『橋のペーパークラフト』を教材に用いた夏休み自由研究講座『「みんなで橋を大事に使うこと」を学ぶ勉強会』などを実施しました。中学生向け教育プログラムとしては、橋守活動とペーパークラフトを用いた『産学官連携事業「橋守活動」を知って自己の将来を考える学習会』(宮城県大郷町立大郷中学校生徒対象)を実施。高校生向け教育プログラムでは、宮城県黒川高等学校において橋梁点検チェックシートを用いた地域の橋梁点検と清掃活動を実施するとともに、点検結果を元に橋面上の汚れ具合を地図上に示す「橋マップ」を作成。また、2019年度は実務者から学ぶ橋梁点検に関する勉強会に加えて、橋のペーパークラフトを型抜きから作成し、橋の部材の形や名称とその役割、構造を学ぶプログラムを提供しました。
このようなオリジナルの教材を使用し、土木教育を通じた広報活動によって、教育を受けた小中学生やその親御さんがコンクリートや橋、点検等へ関心を抱くなど、土木工学に対する意識向上につながっていることが評価され、土木学会『土木広報大賞2019』において教育・教材部門の優秀部門賞に輝きました。様々な取り組みの成果が形になるにつれ、各方面からの関心も高まっています。
地域インフラの長寿命化を目指すとともに
教育活動を通して土木の発展に寄与する
岩城 一郎教授(土木工学科 構造・道路工学研究室)
震災以降、平田村での道づくりに始まり、南会津町での橋守、橋の名付け親など、住民との協働による活動の輪を広げてきました。それと同時に、小・中・高校生にあわせた教育教材を作成し、教育プログラムを提供するなど、インフラの重要性を一般市民だけでなく、子どもたちにも理解してもらうための取り組みも展開してきました。これら本研究室の一連の活動に対して、いろいろな視点から評価いただいたことに大きな意義を感じています。また、学生が地域社会に入り込み、実際に社会に貢献できることは貴重な経験であり、学生自身も様々なことを学び成長していることから、大学における教育的な価値も大いにあると考えています。これまでは、地域住民や自治体、教育機関との連携を深めてきましたが、この取り組みに賛同する企業も増えてきました。企業と手を組むことで、新たなビジネスの創出や社会の発展につながるのではという期待も膨らんできています。ただ、住民主導で橋のメンテナンスを行う場合のリスクも考えなければなりません。安全対策も並行して進める必要があるでしょう。もっと活動の輪や地域を広げ、取り組みを浸透させていくためにはどうすればよいかを考えながら、地域の方々が安全でやりがいを持てるよう、今後も活動を推進していきます。
教育教材の開発と地域社会への貢献を目指して
浅野 和香奈さん(株式会社アイ・エス・エスコンサルティング事業部仙台営業所勤務・日本大学工学部客員研究員)
土木学会で全国的な賞をいただけたことを大変光栄に思います。また、平田村や南会津町、葛尾村での私たちの活動が福島県内で認められ、ふくしま産業賞をいただけたのは大変嬉しかったです。最初に平田村で橋梁点検を始めた時には、受け入れていただけるか不安でしたが、村全域での点検清掃活動が始まって2年目には住民の方から報告書を作成したいというお話をいただいたり、住民の方々が自ら工夫して清掃や点検で使用する道具を持ち寄ったり等、積極的な取り組みが行われています。地方では、住居の距離が離れていることもあり、なかなかコミュニケーションが取りづらい環境ですが、こうした活動を通して住民の皆さんが集まる良い機会になっているようです。道づくりに参加する大学生と一緒に食事をしたり、話をしながら、協働作業を楽しんでいる様子も窺えました。地域におけるインフラ整備・維持管理という側面だけでなく、地域づくりや活性化にもつながる取り組みだと感じています。橋の大切さを理解していただいていることも有難いです。今では、自分たちで清掃することが習慣化しつつあり、地域活動の延長線上に橋の点検があり、住民で地域にある橋梁の日常的な予防保全ができるという理想的な形ができつつあります。これまでは官・学・民主導によるメンテナンスが中心でしたが、産である企業も地域貢献のために取り組みに参画することになり、ますます期待が高まっています。地道な活動ですが、教育の一環として成果をあげているのも、この取り組みの特長と言えます。単に楽しかったイベントとして終わらせるのではなく、土木に関心を寄せていただいた子ども達や親御さんもおり、中には実際に橋梁点検の会社に就職した高校生もいます。インフラが小学生の夏休みの宿題のテーマになるような教育教材の開発にも力を注いでいきたいと思います。そして、本格的な橋梁点検と清掃をあわせたセルフメンテナンスを他地域にも提案・展開できたらと考えています。
★土木学会『土木広報大賞優秀部門賞』はこちら
★土木学会田中賞選考委員会『令和元年度かけはし賞』こちら
★福島民報社『第5回ふくしま産業賞』はこちら
★『みんなで守る。橋のメンテナンスネット』HPはこちら
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