『小惑星探査における我が国の挑戦と宇宙科学の未来』

  12月1日(土)に、JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)宇宙科学研究所長の國中均氏をお迎えし、日本大学工学部70号館7014講義室にて、『日本大学工学部先端技術特別講演会―小惑星探査における我が国の挑戦と宇宙科学の未来―』を開催しました。國中氏は小惑星イトカワ探査機『はやぶさ』のイオンエンジンの開発に携わり、『はやぶさ2』ではプロジェクトマネージャーとして陣頭指揮を執られました。はやぶさが地球帰還を果たした際には、その実話をもとに何作か映画化されましたが、國中氏も重要な役どころとして描かれています。会場には工学部の学生・教職員、一般市民の方に加え、日本大学東北高等学校の生徒の皆さんも訪れ、國中氏が語る壮大な宇宙の話に引き込まれていました。

【國中均氏プロフィール】1988 年東京大学大学院工学系研究科航空学専攻博士課程修了。同年文部省宇宙科学研究所助手、2000年同助教授を経て、2005 年より宇宙科学研究本部教授、2010 年より同月惑星探査プログラムグループディレクタを兼任。2012年には『はやぶさ2』プロジェクトマネージャーに就任。2015年に宇探査イノベーションハブ長、2017年宇宙科学研究所副所長兼務を経て、2018年より現職。

 

 講演に先立ち、工学部長出村克宣教授(左)が登壇し、「小惑星探査機は科学技術立国日本が誇る先端技術の一つ。未来を担う先端技術から何かを学びとってほしい」とご挨拶しました。工学研究所次長柿崎隆夫教授(右) は「宇宙に関する貴重な話を若い人にも聴いていただき、将来その道を目指す人が現れることを期待する」と切望しました。

未来型マイクロ波イオンエンジンの開発に挑む

 國中氏はまず、ロケットが飛ぶ仕組みについてわかりやすく解説しました。ロケットが勢いよく飛ぶためには推力が必要であり、噴射速度を速めることが大きなテーマだと言及しました。その理由は、噴射速度が10倍になれば、燃料は10分の1で済むので燃費が良くなるからだと説明しました。同時に國中氏は、燃料の燃焼によって生じる熱エネルギーを利用する化学ロケットの限界を示唆しました。プラズマを使ったエンジンはイオンを温めることで電極が劣化するデメリットがあり、その原理を身近な蛍光灯の寿命を例に挙げながら解説。深宇宙探査航行のためには長寿命・メンテナンスフリーの機械をつくることが大事だとし、そこで、放電電極を使わないマイクロ波型イオンエンジンをつくろうと考えた國中氏。電子だけを選択的に加熱するマイクロ波であればイオンへの影響がないことをメリットにあげ、自身が開発したイオンエンジンを使った電気ロケットについて紹介しました。このエンジンの開発にあたり、宇宙科学研究所の大学院教育プログラムで学ぶ学生らも課題解決に取り組んだそうです。國中氏は「志があればぜひ大学院に進学してほしい」と会場の若者たちに呼び掛けました。

世界初、小惑星からのサンプルリターンに成功

 ここで國中氏はロケットの歴史とともに、日本におけるロケット開発の歴史にも触れ、欧米との技術格差や宇宙技術開発手法の差異について語りました。1985年には、小惑星からのサンプルリターンに向けて検討を始めた宇宙科学研究所。國中氏は電気ロケットを推進すべく、開発に必要な資金を調達し、イオンエンジンの開発に挑んでいきました。24時間連続による2年以上のイオンエンジン耐久性試験を実施。イオンエンジンの設計、開発手法を確立し、構想から約10年の時間を要し、ついに長寿命、高信頼、保守簡便なマイクロ波放電式イオンエンジン『μ10』を完成させました。いよいよ2003年5月9日、小惑星探査機『はやぶさ』打ち上げの日を迎えた國中氏。打ち上げの動画を見せながら、「打ち上げ前には不安でいっぱい」だったと当時の心境を語りました。
 『はやぶさ』には、惑星の重力を利用して移動するスイングバイ、イオンエンジンによる巡航と帰還、小惑星『イトカワ』への着陸とサンプル採集などのミッションがありました。その航海は順風満帆とは行かず、幾多のトラブルに遭遇します。小惑星『イトカワ』に着陸した時の様子を『はやぶさ』に搭載されたカメラで撮影した動画を用いて解説されました。しかし、着陸の際に燃料漏れを起こし、制御不能となったうえに通信が途絶えてしまった『はやぶさ』。その際、緊急用のイオンエンジンを使うなど、國中氏はどのような技術や知識を駆使して絶体絶命のピンチを乗り越えたかを説明しました。
 2010年6月13日、『はやぶさ』は火球となって地球に帰還。探査機は粉砕されるも、サンプルの入ったカプセルはパラシュートで南オーストラリアのウーメラ砂漠に着陸。世界初のサンプルリターンに成功しました。
 その後、イオンエンジンの改良などを行い、約3年で完成した『はやぶさ2』が、2014年12月3日に小惑星『Ryugu(リュウグウ)』を目指して出発。搭載されたローバー(探査車)『MINERVA-II(ミネルバ2)』がRyuguの地表に到達し、自ら移動しながら天体表面を観察する画像も紹介されました。2020年に地球に帰還予定とのことで、前回以上の成果を持ち帰ってくれるのではと國中氏も期待を寄せていました。
 JAXAの今後の目標は太陽系宇宙を掌握すること。20年後、30年後には人間が火星に行く時代になっているだろうと國中氏は示唆しました。JAXAをはじめ、宇宙開発という仕事に、技術系の人材だけでなく何万人もの人が携わっていると言います。國中氏は、「それぞれの専門領域で宇宙開発に参加することができる」と、若者たちに希望を与えてくれました。

若きエンジニアにとって最先端の宇宙開発技術を知る貴重な講演となった

 講演終了後、國中氏への質問を受け付けると、高校生たちが疑問に思うことや知りたいことを積極的に質問しました。どんなロボットを搭載しているのか、サンプルはどうやって採取するのか、小惑星を破壊する技術は備わっているのかといった質問のほか、「宇宙人はいると思いますか?」といったユニークな質問もありました。これに対し國中氏は、「宇宙生物が存在するかどうかは大きな課題。木星・土星の表面を覆う氷の下に海があり、深海生物みたいなものがいるのではと考えられている。また、太陽系の隣の別の太陽系に地球のような酸素がある惑星があれば生物がいるかもしれない。そういう観測が始められていて、さらにアストロバイオロジ(宇宙生物学)という分野の研究も始まっている」と興味深い話を交えながら回答しました。そのほか様々な質問に丁寧に答えてくださった國中氏。その素晴らしい講演に対し、会場の皆様から感謝の気持ちを伝える盛大な拍手が贈られました。
 この講演は若者たちにとって大いに刺激になったようです。宇宙に興味があるという日本大学東北高等学校の生徒たちは、「興味のある宇宙について詳しく知ることができ、大変有意義だった」、「世界的に話題となっている先端技術について詳しく聞くことができ、将来進む道を考えるきっかけになった」と目を輝かせていました。大学院進学が決まっている機械工学科4年の本間彰三さんは、「『はやぶさ』の名は聞いたことはあったが、講演を聴いて詳しく知ることが できた。特にトラブルが生じた際に回避した技術はさすがだと思った。知識がないと応用もできない。より一層、研究に対するモチベーションがあがった」と意欲を燃やしていました。
 國中氏が紹介されたように、宇宙に関する研究やプロジェクト、宇宙サービス産業の創出など、新しい技術開発分野への挑戦が進められています。それに携わる未来のエンジニアがここから育っていくことを大いに期待しています。