工学研究所

工学研究所長ご挨拶

工学研究所長 岩城一郎

日本大学工学部では1999年より「ロハスの工学」を研究教育のスローガンに掲げてまいりました。ロハス(LOHAS)とは、“Lifestyles of Health and Sustainability”の略で、「健康で持続可能な生活スタイル」と訳すことができます。ロハスの工学は、2002年に次世代工学技術研究センター、2003年に環境保全・共生共同研究センターが整備され、 2008年に「ロハスの家研究プロジェクト」が立ち上がったことで、一気に開花しました。しかしながら2011年に東日本大震災とこれに伴う原子力発電所の事故、さらにはその後の風評被害を受けることになります。これを機に、ロハスの工学を「ロハスを実現するための工学であり、“ふくしま”の自立した復興を実現するために必要となる工学」と位置付けました。以来、ロハスの工学は徐々に学部内に浸透し、学科の垣根を超えたプロジェクトが次々と立ち上がり、2019年2月にこうした考え方や各プロジェクトの内容を紹介した書籍「ロハス工学」(日経BP社)を発刊するに至りました。

工学研究所長に就任するにあたり、目標として掲げたいことが2つあります。
1つ目はロハス工学のさらなる発展とこれによる地域貢献です。これまでも本学部から多くの優れた研究成果が生み出されてまいりましたが、今後はこれらの研究成果について、マスメディア等も利用し、これまで以上に広く積極的に社会に発信するとともに、地域実装を進め、目に見える形で地域貢献を果たしていきたいと考えています。
2つ目は前述した既存の施設を統合したロハス工学の拠点ともいうべき新たな研究センターを設立し、ここから様々な研究プロジェクトを立ち上げ、展開していきたいと考えています。ここ数年、ドローンによる橋の点検・診断、被災地の復興まちづくり支援といった複数の学科をまたぐプロジェクトが進められ、社会からの注目度も上がっていますが、今後は台風19号で被災したロハスの家の再生プロジェクトなど、さらに大きな課題に挑戦していくつもりです。

ますます複雑かつ多様化する社会において、これからの工学研究は一人の教員、一つの学科(専門分野)で成しえるものは少なくなりつつあります。「ロハスの工学」というスローガンを掲げ、長年にわたり分野横断的な取り組みを進めてきた日本大学工学部だからこそ解決できるテーマが沢山あります。昨年は台風19号により本学部とその周辺地域が甚大な被害を受けましたが、すぐに「キャンパス強靭化プロジェクト」を立ち上げ、さまざまな分野の専門家が集まり、被害の現象を把握し、メカニズムを解明するとともに、避難所として適した場所を提案しました。現在は、新型コロナウィルスという目に見えない敵と戦っており、人工呼吸器や人工心肺装置などが必須となっていますが、本学部にはこうした医療機器を開発する研究者を有し、これらの機器を操作する臨床工学技士として活躍する卒業生がおります。このように、日本大学工学部では時代の要請に迅速に対応できる研究体制が整っています。一方で、こうした目の前の課題解決のみならず、少子高齢化がさらに進む2040年の我が国そして“ふくしま”の社会構造をイメージしつつ、来るべき時代に必要とされる工学技術を研究し、社会実装することも必要です。工学研究所では、こうした研究を通し、この地になくてはならない大学、地域から信頼される大学としてのプレゼンス(存在感)を高めていきたいと考えています。

今後とも工学研究所の運営にご支援、ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。

2020年4月

 

工学研究所の概要

日本大学工学部工学研究所は、昭和48年に、工学に関する学術・技術の研究を行うことを目的に設立されました。これらの目的を達成するために、工学研究所では以下の事業を行っています。

●工学に関する基礎・応用の研究及び調査
●学術研究助成金等に基づく研究プロジェクトの実施
●所員が個別に行う研究への助成
●委託研究及び共同研究の実施
●紀要、機関誌等その他必要な出版物の刊行
●総合研究の実施
●研究資料の収集、処理及び保管
●研究会及び講演会の開催

日本大学本部においては、研究の活性化を目的として、平成11年より研究委員会が創立されました。それに伴い、各学部にも研究委員会が設置され、研究戦略、研究計画等が本格的に議論され、実行されてきました。

工学部においても、平成11年より、工学部に設置された研究委員会を中心として、工学部の研究基盤の拡充を図っており、現在は、研究委員会を中心として、「ロハス」をキーワードとした研究計画の策定を行っています。

工学部の研究の更なる充実、発展に向けて、企業や公官庁、あるいは他大学など、学部の枠を超えた人々との連携を深めながら実社会に役立つさまざまな分野の研究活動に取り組んでいます。
 

研究方針

地球温暖化による気候変動、化石燃料の枯渇化の到来といった背景により、私たちの暮らしを支える環境、エネルギーが危機的状況に陥りつつあります。こうした地球的課題への配慮には、社会生活の根幹からの見直しが必要となり、「ロハス」(LOHAS、Lifestyles Of Health And Sustainability=健康で持続可能な様々な生活スタイル)が注目されています。

日本大学工学部では、いち早くこの概念を学部の教育・研究方針に取り込み、「ロハス工学」をキーワードに、様々な教育・研究・広報戦略活動を展開してきました。これを受けて工学研究所では、「学生のため」、「地域のため」、「郡山からの知の発信」をスローガンに掲げ、学生が情熱を持って研究に取り組み、誇りを持って社会に巣立つこと、地域の産業・行政・市民と連携して成果を生み、これを地域社会に還元することにより地域の活力向上につなげること、郡山の地から、国内・国外に誇れる独創的かつ実用的な成果を発信し続けることを目標に研究を展開しています。

こうした目標の実現のため、工学研究所内に「人の健康に役立つ医用機器や医療診断機器の開発に取組む、我が国初のバイオメディカル工学の研究拠点(次世代工学技術研究センター)」、「持続的発展可能な“循環型環境共生社会の創成”を目標に、地域における環境保全のあり方を提示するとともに、各専門分野の研究を通じて地球環境問題の解決を目指す研究拠点(環境保全共生・共同研究センター)」、及び、「被災地域復興と持続可能な社会の実現に貢献する研究および活動を行う研究拠点(ふるさと創生支援センター)」を設立し、「ロハス工学」の確立を目指した研究を推進しています。

また、新たにエネルギー自立型ハウスすなわち「ロハスの家」の研究にも着手しています。「ロハスの家」は風力・太陽光・地中熱を活用して冷暖房や照明を賄い、また、高断熱・遮断建材や高気密構造などの建築の先端技術を駆使することで、“入力電線のない”画期的な住環境を目指すものです。

日本大学工学部ではこれまで、これらの研究施設を駆使し、独創的かつ国内外から高い評価を受けた研究成果を生み出してきました。今後は、これらの施設および研究者の分野横断的な連携・融合を図るとともに、産学官民の連携を強化することで、ロハスな人間社会・地域社会の実現を目指し、「ロハス工学」の一大研究拠点として、学生と共に、地域と共に、郡山の地から、知の発信を続けてまいります。

ロハス工学とは
 

組織構成


 

研究施設

最先端の設備を整えた研究施設では、それぞれ独自のテーマに基づいた研究や技術開発を行っています。

次世代工学技術研究センター

人の健康に役立つ医療機器や医療診断機器の開発研究に取り組んでいます。日本大学工学部が世界に誇る我が国初のバイオメディカル工学(Biomedical Engineering)の研究拠点であり、世界トップレベルの研究実績をあげています。

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環境保全・共生共同研究センター

持続的発展可能な「循環型環境共生社会の創生」を目標に、地域における環境保全のあり方を提示するとともに、各専門分野の研究を通じて地球環境問題の解決をめざしています。

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ふるさと創生支援センター

被災地域復興と持続可能な社会の実現に貢献する研究および活動を行うことを目的としています。

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ロハスの家群

「健康で持続可能な生活スタイル」を支える住環境づくりのための「家の要素技術と設計基準の確立」を目指し、ロハスの家1号では「熱エネルギーと電気エネルギーの自給自足」、2号では「太陽熱の効率的な遮熱・断熱・蓄熱」、3号ではそれらに加えて「水の自給自足」を目標に研究を進めていました。ロハスの花壇では自然の浄化作用を活用した排水浄化、地中熱センターでは地中に蓄えられた太陽熱の有効利用の研究も進む中、令和元年10月の東日本台風でこれらの研究施設は被災。ロハスの家群をはじめ、全ての施設が撤去され、現在は更地となっています。
令和3年3月、この跡地にロハス工学センターの活動拠点として新しい施設を作り出すプロジェクトがスタートしました。ロハスの家から生まれた技術、自然災害から学んだこと、そのすべてを糧に、このプロジェクトを進めていきます。

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イベント

産・学・官連携フォーラム

地域社会や地域産業の活性化をめざし、工学研究所が主催している「産・学・官連携フォーラム」。毎年さまざまなテーマを設け、講演やパネルディスカッションなどを行っています。また、地域企業や行政機関、大学との友好を深め、さらに発展的な連携を図ることをめざしています。

第23回産・学・官連携フォーラム

22th『脱炭素社会(カーボンニュートラル)の実現に向けて』

● 日時
令和5年11月27日(月) 13:00~ 開催
● 場所
YouTube配信を併用したハイブリッド形式
日本大学工学部50周年記念館(ハットNE)3階大講堂

第23回産・学・官連携フォーラムの詳細はこちら

※過去のフォーラムについては下記をご覧ください。
過去の「産学官連携フォーラム」を見る

市民公開『ロハス工学シンポジウム』

東日本大震災と原発事故からの復興を目指し、2012年3月から毎年、市民公開シンポジウムとして「ロハス工学シンポジウム」を開催しています。シンポジウムを通して、“健康で持続可能な社会”を実現させるためにどうすればよいのかを、市民とともに考えます。

第10回ロハス工学シンポジウム

ロハスの家群跡地再生プロジェクト第1回報告会
『水害からの復興とロハス工学の新たな挑戦』

● 日時
令和3年11月6日(土) 13:00~
● 場所
ウェビナー(WEBセミナー)形式
日本大学工学部50周年記念館(ハットNE)3階大講堂

第10回ロハス工学シンポジウムの詳細はこちら

※過去のシンポジウムについては下記をご覧ください。
過去の市民公開「ロハスの工学シンポジウム」を見る

 

刊行物

「日本大学工学部紀要」は、本学部専任教職員およびこれに準ずる非常勤講師の研究論文を掲載しています。年2回(9月・3月)発行で、一般の方にも頒布しています。

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