開発途上国の国際協力に貢献する学生のための工学研究所プロジェクト
工学部では昨年11月、専門分野の異なる研究者による連携研究や産官学連携研究プロジェクトの推進を奨励し、研究活動の活性化及び学内外への積極的なアピールを目的とした『工学研究所プロジェクト』を発足させ、9件のプロジェクトを認定しました。そしてこの度、10件目となる『グローバル社会で活躍する人材創出プロジェクト』が認定されました。このプロジェクトは、国際的に活躍できる人材を工学部から輩出することを目的としています。具体的には、途上国支援をテーマに掲げ、国際協力における土木工学分野での貢献を体験する現場見学プログラムや国内外のワークショップを企画して、グローバル社会で活躍できる資質や国際感覚を修得します。土木工学科を中心に多くの学生がプロジェクトに参加しており、すでに海外事情を肌で感じる海外研修も体験した学生もいます。
プロジェクトリーダーである総合教育の川﨑和基准教授にプロジェクトの詳細について紹介していただきました。
現地での実践的な研修によって、学生の国際協力への意識を高める
2016年に国連は、持続可能な暮らしや社会を営むために全世界の人々に共通した目標として、『持続可能な開発目標(SDGS)』を定めました。『貧困や飢餓の根絶』といった最低限の権利を守るものから、再生可能エネルギー利用やインフラの構築、気候変動への対策など17の目標が掲げられています。しかし、開発途上国では独自に目標を達成することは困難であり、他国からの支援が必要となります。特に国を発展させるために重要な課題として位置付けられるインフラの構築において、日本の技術が大きな支援になると考えられます。これまで、土木工学科の朝岡良浩准教授がボリビアのインフラに関わる水問題の研究開発に従事するなど、工学部には国際協力の実績がありました。そこで、工学部の学生を対象とし、開発途上国における土木工学分野での国際協力をテーマに、グローバル社会で活躍するための人材育成プロジェクトを立ち上げたのです。朝岡准教授と同学科の笠野英行専任講師とともに推進体制を組み、次の3つを課題として活動を進めていきます。
【タスク1】途上国支援の理解:我が国の途上国支援について学ぶとともに、現場見学を通じて実情を把握する。
【タスク2】語学力の育成:課外講座・語学研修を企画して、英語を中心とした語学力を養成する。
【タスク3】国際交流:国際ワークショップを企画して、途上国支援や土木技術の貢献について、海外の研究者や学生と意見交換する。
今年2月、プロジェクト始動に先駆けて、プロジェクトの連携機関でもあるタイ王国のタマサート大学工学部での語学研修を実施しました。通常の語学研修とは違い、英語教育だけでなく、実際に現地のインフラの状況を見たり、工学部とタマサート大学で行っている水問題に関する研究内容に触れることで、土木工学分野の視点から開発途上国に対してどのように貢献できるかを考えるプログラムになっています。タイの学生や研究者との交流、意見交換を通して英語を学ぶ機会もたくさんありました。参加した学生たちには大いに刺激になったようで、コミュニケーションできる喜びや学んだことをタイに活かせるというモチベーションにつながり、帰国後には自主的に英語を勉強し始めるなどの成果も出ています。
タマサート大学でのワークショップの様子
現在、プロジェクトに参加している学生たちは、朝岡准教授による途上国理解を目的とした講座を5月から隔週で受講し、開発途上国の実情や土木の技術について学んでいます。日本の土木が開発途上国などの他国でどう役立っているのか、今後どう活かしていくべきかを理解することで、自らテーマを見つけて主体的に関わりながら途上国支援に取り組んでいく力を身につけていきます。集大成として、約2週間のタマサート大学での研修を予定しています。日本で学んだ知識を現地での体験を通して、さらに深めていくことが狙いです。
実のところ、学生はどのようにして海外で働けばいいのか分かっていません。ODA(政府開発援助)が示すように、土木分野だけでなく、教育、農業、ICT、エネルギーなど、日本には様々な分野での貢献が可能であり、そのための人材が必要とされています。しかし、実際に外国で働くためには、その国の歴史・文化・経済事情などを理解しなければなりません。そして、一方的な技術の押し売りではなく、信頼関係を得ることが大事なのです。ツールとしての英語力に加え、英語でのコミュニケーション能力も重要になるでしょう。海外で活躍したいという学生は工学部にも数多くいます。インフラをテーマとすれば土木工学科に限らず、建築・機械・電気・生命・情報まで全ての学科の学生が関わることができます。タイをモデル ケースにしながら、他学科の教員とも連携して、さらなるプロジェクトの展開を図っていきたいと考えています。
タマサート大学の研修に参加して
土木工学科2年 佐藤萌々香さん(写真右から3番目)
先輩からプロジェクトの話を聞いて興味を持ったことや以前からタイに行ってみたいと思っていたことがきっかけで、タマサート大学の研修に参加しました。知り合いは誰もいない中で、自力で頑張ってみようと決めて臨みました。研修は大学の授業を受けながら語学の勉強をしたり、現地の教員の方や学生に案内されてタイの街や洪水のあった場所などを見学したり、とても充実していました。朝岡先生と4年生の先輩の英語での研究発表もあり、土木の技術やタマサート大学との研究の違いにも触れることができました。英語で質問や議論する場面を見ながら、その内容を自分がリアルタイムで理解できないことが非常に残念でした。それが、もっと英語を勉強したいという思いにつながっています。研修を通して、テレビやインターネットで見聞きしていても、実際に行ってみないと分からない海外事情やまだまだ知らないことがたくさんあることを実感しました。留学は就活にも役立つと思っていましたが、今回の経験から実際に海外で働いてみたいと思うようになりました。日本に留まっているだけではつまらない、もっといろいろな国に行き、他国の人と話をして新しい考え方を身につけたいです。また、「水」の大切さが分かったことで、水質について研究したいと思っています。
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