第11回ロハス工学シンポジウムを開催しました

『ロハスの家群跡地再生プロジェクトの中間報告とZEB化に向けて』をテーマに、三部構成のシンポジウムを開催

 6月17日(土)、「ロハスの家群跡地再生プロジェクトの中間報告とZEB化に向けて」をテーマに、第11回ロハス工学シンポジウムを開催しました。中間報告会、パネルディスカッションに加え、建設中の(仮称)ロハス工学センター棟の内覧会も行う三部構成のシンポジウムで、ロハスの家群跡地再生プロジェクト3年間の歩みを振り返り、次のステップへの検討が行われました。

 「ロハスの家群跡地再生プロジェクト」は、令和元年東日本台風の影響を受け研究継続が困難となった「ロハスの家群跡地」を再生し、学生・教職員・地域住民にロハス(健康で持続可能な生活スタイル)を体感してもらう研究施設とすることを目的として、2020年から推進してきたものです。短期(1年)・中期(3年)・長期(10年)・超長期(20年)にわたるキャンパス計画を進めるための拠点となる(仮称)ロハス工学センター棟の完成も近づく中、本施設の内容報告とさらに活性化を図るロハス工学について、また、キャンパス全体のZEB化(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル化)に向けての議論が交わされる場となりました。

 開催にあたり、はじめに根本修克工学部長よりご挨拶いたしました。根本学部長は、ロハス工学の象徴的な存在であったロハスの家群が撤去された跡地に、ロハス工学を体感できる新しい研究施設の構築を目指し、教職員のみならず学生も参加するワークショップを重ねてきたと伝えました。そして、「今回は現在建築中の新施設の内容について報告し、ロハス工学研究の更なる活性化や大学施設のZEB化に向けて外部有識者と意見を交わすことで、ロハスの家群跡地再生に向けて有意義なディスカッションとなることを祈念します」と述べました。

 続いて、工学研究所長兼ロハス工学センター長である土木工学科岩城一郎教授より全体概要の説明がありました。
 岩城教授はロハス工学のこれまでの道のりについて説明するとともに、改めてロハス工学の概念等についても紹介しました。2008年のスタートから変わらぬ姿勢と、自然災害に見舞われながらも時代とともに進化を続けてきたロハス工学の変遷を紹介。そして、ロハス工学センタープロジェクトの一つとして設置された『ロハスの家群跡地再生プロジェクト』は未来のロハスキャンパスに繋がる持続可能なプロジェクトであり、“見せる施設”から“使える施設”へをコンセプトに、新たなロハスコンテンツの追加や新技術を導入し、工房といった付属施設の構築を図っていくことを示しました。

 さらに、ロハスが目指す「心地よく無理のない生活スタイルや社会の実現」によって、結果としてSDGsやカーボンニュートラルの実現に寄与するだろうと述べました。今後は、他分野と融合し新たな学問体系「ロハス学」へと進化させたいと抱負を述べ、それこそが総合大学たる日本大学のメリットであるとまとめました。

第1部:報告会

 引き続き、プロジェクトの具体的な検討内容について、「建築」・「水と緑」・「環境」をそれぞれ担当した3組による専門的な視点からの報告がありました。

報告① 建築デザインや使われ方の想定等

 建築の計画・設計で協働した建築学科浦部智義教授と株式会社はりゅうウッドスタジオ代表取締役滑田崇志氏が『建築のデザインや使われ方の想定等』について報告しました。

 浦部教授はキャンパス内の東側に集中している人の流れを西寄りにも動かし、人のたまり、流れを作りたいというグランドデザインをさらに発展させ、水と緑を手掛かりにしたデザインへと進化させるべく新しい試みに取り組んでいると述べました。緑化や雨水利用のための弓型形状の屋根デザインをはじめ、既視感のない、特徴的で意味のある、独創的なデザインを目指した建築で、日大東北高校側とのつながりや視線の抜け感を意識しつつ、今後、建築予定の工房とも連動させ、この敷地にも人の流れが出来るよう期待も込めて検討したと伝えました。

 検討段階のスタディにおいて、浦部教授や滑田氏をはじめ建築デザインに関わるプロジェクト関係者での模型や図面を用いての建築の構法や、機能性・空間性などに関する打合せの内容やその様子、研究室で大学院生が3Dモデリングソフトを使って作業する様子や、風に対するシミュレーションを行う様子も報告。学生も関わりやすいテクノロジーも取り入れた計画・設計であると説明しました。また、このセンター棟の使われ方として、ロハス工学に関する実験などを見せる場所、メディア掲載情報の展示や発信、研究室単位のイベントへの貸し出しなどを想定・検討しており、運用についての計画も進んでいると話しました。

 滑田氏からは、構造や建築時のテクノロジーについてさらに詳しく説明がありました。設計業界は変革期に入り、ジオメトリを与えるプログラミングソフトや、構造解析も一貫構造ソフトを使用することで学生も関わりやすくなり、実際今回の建築にも学生が活躍していると話しました。構造モデルの細かいところまでコンピュータ上で検証することができ、3Dのプレカット機械による福島県の高い加工技術を活かした建築となっていると説明。また、県産木材の利用促進の一助となるよう、施設内で使用する家具を県産広葉樹で製作することを検討していると述べました。縦ログ壁や床材にレンガを敷くことで熱容量を高めるとともに、トリプルガラスサッシを導入するなど、この施設が快適な空間を目指すための実験的な内部空間になっていると報告しました。

報告② 屋根と水利用について

 土木工学科中野和典教授は、初めに水に関わるグランドデザインの原案に触れ、雨水・地下水・再生水を利用して水自立を実現し、排水を出さずに環境との共生を図り、水と緑を駆使することでエネルギーに頼らず温熱環境をコントロールする水循環の仕組みを取り入れて計画したと説明しました。

 循環の要となる屋根緑化にはメンテナンスが少ない3品種の植栽を選定し、季節によって彩りが変わるチガヤという植物を緑化マットに使用。最先端の緑化技術と水浄化機能を備えたロハスの花壇を適用した屋根緑化であると述べました。さらに新しい水浄化材料としてマイナスイオンを吸着する機能性炭を使用し、植物の浄化と人工的な浄化の組み合わせにより水浄化機能を強化しました。魚の養殖と水耕栽培を組み合わせたアクアポニックスで、養魚池の液肥を屋根緑化に利用する構想案も提示。将来的にはロハスの食・ロハスの農へと発展させ、工学と農学が融合した屋上菜園にしていきたいと語りました。多分野が融合した研究材料にもなる曲面状緑化屋根は8つのSDGs目標に貢献しうるコンテンツを提供するものであり、中野教授は更なる可能性の広がりに期待を寄せていました。

報告③ 環境の考え方や性能について等

 引き続き、機械工学科宮岡大専任講師より「ZEB化」についての方向性が示されました。 「ZEB=ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」とは快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーをゼロにすることを目指した建物のこと。今回は、「設計時」の一次エネルギーの消費量ではなく、「運用時」にどのようにしてゼロエネルギー化を進めていくかを考え、3つのステップで検討したと説明しました。

1.建築省エネルギー技術(パッシブ技術)の検討

 建物の構造や材料の工夫によって熱や空気の流れを制御し、快適な空間環境をつくり出す設計手法により、断熱・蓄熱・集熱の性能を上げています。中でも難しい蓄熱効果を高めるために大量の木材(縦ログ構法)を利用、さらに敷レンガを採用しました。

2.設備省エネルギー技術(アクティブ技術)の検討

 快適な生活空間を維持するため、地下水を利用した水熱源ヒートポンプを選択。地上に水をためる蓄熱タンクを置き、屋上散水への利用や冬季の暖房効率を強化するために太陽熱パネルで補助します。空調についても、吹き出し口を窓面下に設ける、「全熱交換器」によって換気による室温低下を抑えるなどの工夫を重ねています。

3.再生可能エネルギー技術の検討(創エネ)

 創エネについては、施設の用途が定まっていないため未導入となっていますが、今後キャンパス全体に視点を向けて、どう進めていくか検討していきたいと報告しました。

第2部:パネルディスカッション

キャンパス全体のZEB化から見えてくるエネルギープラットフォームへの可能性

 第2部のパネルディスカッションでは、第1部の発表者中野教授と宮岡専任講師に加え、株式会社蔭山工務店代表取締役 蔭山寿一氏と株式会社エナジア代表取締役 白石昇央氏にもご登壇いただき、『キャンパス全体におけるZEB化』について考えました。

左から)白石昇央社長、蔭山寿一社長、宮岡大専任講師、中野和典教授、佐々木直栄教授

 コーディネーターの機械工学科佐々木直栄教授は、専門である熱交換器の高性能化という視点からディスカッションに参加したと自己紹介し、まずはパネリストの方々に「ZEB化」というキーワードへの印象や経験について問いかけました。中野教授は「屋外」におけるZEB化に着目し、定量化を図ることの難しさや自身も緑化の効果を数値で示せていない状況について触れました。宮岡専任講師は「運用時」のデータの重要性を挙げるとともに、効果の高い「蓄熱」の評価が足りないこともZEB化の問題だと指摘しました。

 ロハスの家プロジェクトに参画してきた蔭山社長は経験談として、東日本大震災後、自社ビル再建にあたって取り入れたロハス工学の技術と得られたデータについて紹介。非常に省エネ性能の高い建物になっているものの、ZEB認証を受けるための基準に至っていなかったと説明しました。

 これに対し佐々木教授は、ZEB化を推進するためには国の標準を改善する必要があると示唆しました。白石社長は被災地復興ベンチャー企業の社長として「ZEBプランナー」を取得した経緯やZEB化100%以上を実現するサイネージシステムについて紹介。ここ福島においては工学部が起点となれば新しい電気の自立や水素エネルギー利用に向けた面白い活動ができるのではないかとご提案いただきました。

 パネラーの「ZEB」への意識を確認した上で、話題は「キャンパス全体のZEB化」へ。宮岡専任講師はキャンパス内の古い建物を改修も含めて、空間の使い方や各建物で作り出したエネルギーの有効利用について考えていく必要があると述べました。白石社長はキャンパス全体を計画的にZEB化していくことで、工学部がこの地域全体のエネルギープラットフォームとなる可能性を示しました。工学部が地下水や排熱で作り出したエネルギーによって地域の熱源供給の拠点となれば、学のファシリティーをハブとして熱と電気を売買することもでき、素晴らしい研究活動にできるのではないかと今後の展開に期待を寄せていました。

 会場からの意見として、エネルギー収支の時間軸に着目した機械工学科の伊藤耕祐教授が、1年間のトータル収支がネットゼロになったとしても、現実的に夏は余って冬に足りない状況をどのように解消するかを課題に挙げました。加えて、研究のフェーズと実務を前提とした社会全体の計画を結びつける活動を「学」と「企業」が協働で進めることを提案しました。

 佐々木教授は最後に、共通キーワードは「フィールド」であるとし、実フィールドでのデータに基づいて研究を進め、国土が縦に長い日本の指標が一つで良いのかということに関しても常に疑問を抱き検討していくべきであり、難しいからこそ明日からやっていかなくてはいけない、と強調し、パネルディスカッションを締めくくりました。

 中締めとして工学研究所次長生命応用化学科加藤隆二教授よりご挨拶がありました。加藤教授は、これからの研究活動の指針となる多角的なご意見を頂けたことに感謝の意を伝え、参加された皆様には、本日の講話の中で湧いたイメージがこれからの活動の糧になることを期待していると述べました。この後行われる(仮称)ロハス工学センター棟内覧会のご案内と、新しい建物のニックネーム募集についても告知しました。最後に重ねて参加者の皆様への謝意を伝えました。

第3部:内覧会

新たなロハス工学の拠点に期待も高まる

 青空の下、行われた(仮称)ロハス工学センター棟の内覧会には、多数の教職員が参加。第1部で登壇したプロジェクト関係者からの木を使った斬新で独創的なデザインの建築やロハスコンテンツの特徴についての説明を聴きながら、内部空間や外観を興味深そうに眺めていました。

 浦部教授は「シンポジウムや見学を通して、学生・教職員の意見を取り入れ時間をかけて検討・改善してきた結果、概ね要望に応える象徴的な形になったという実感を得ることができました。今後の外構や工房づくりも丁寧にデザインしていきたいと考えています」と意欲を見せていました。

 (仮称)ロハス工学センター棟のグランドオープンは11月の予定です。新たなロハス工学の拠点完成に学内外の期待も大いに高まっています。