市民公開第5回『ロハスの工学シンポジウム』を開催しました

ロハスシティ郡山の実現を目指して―再生可能エネルギー戦略を考える―

 市民公開シンポジウム『第5回ロハスの工学シンポジウム』が 、3月19日(土)工学部54号館5431教室(中講堂)にて開催されました。日本大学工学部、郡山市、産総研FREAでは、それぞれ連携協定を締結し、再生可能エネルギーに関する研究開発と社会実装を目指しています。本シンポジウムは、震災から5年が経過した現時点におけるこれらの取り組みについて、市民の皆さまに分かりやすく説明するとともに、再生可能エネルギーの利活用を推進するロハスシティ郡山(健康で持続可能な郡山市)の今後の展望について、市民の皆さまとともに考えていくことを目的に行われました。

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 はじめに、出村克宣工学部長が登壇し、会場に集まった皆さまにご挨拶され、「どうしたらロハスシティを実現できるのか、市民の皆さまとディスカッションしながら考えていきたい」と述べられました。

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まず、『郡山のロハス政策について』と題して、品川萬里郡山市長による基調講演が行われました。品川市長はロハスに関係する健康寿命に注目し、被災地である福島県の元気さをアピールするとともに、2016年度内に供用開始予定の『ふくしま医療機器開発支援センター』についても触れ、「健康長寿郡山を目指して、市制を進めていく」と提言されました。そうした中で、日本大学工学部が推進するロハスの工学を含め、支援機関をどう活用していくかが大事になるとの考えを示しました。

第5回ロハスの工学シンポジウムimage003 続いて、出村工学部長『ロハスの工学への期待』と題して基調講演を行いました。工学部が教育・研究テーマに掲げる『ロハスの工学』について、改めてわかりやすく説明し、市民の皆さまへの理解を求めました。
 ロハスを哲学として持ち、地球に負荷のかからない、健康で持続可能な暮らしを支える技術として『ロハスの工学』があると説明。元来、日本人は『心や体にやさしい』『地球にやさしい』といった意識を持っており、そのDNA情報を置き換えたのが『ロハス』だという持論を示しました。また、「エネルギーをつくる・使うというだけではなく、さまざまな分野で『ロハスの工学』を活用していただけることを願う」と切望されました。

産官学からの話題提供

 次に、産官学から再生可能エネルギー等に関わる話題についての発表がありました。

『ロハスの工学によるサステナブルシステムを目指して』日本大学工学部工学研究所次長柿崎隆夫教授
 
エネルギーや健康だけでなく、ロハスの工学の広がりについて、さまざまな切り口があることを示すとともに、郡山市と進めている浅部地中熱研究プロジェクトについて説明しました。  

『再生可能エネルギーの普及促進と原子力災害対策(除染・輸送)に関する施策について』郡山市 生活環境部長 吉田 正美氏
 
郡山市が再生可能エネルギーの普及促進を図るために行っている事業やプロジェクトについて紹介。除染の状況やごみ屋敷問題への対応についても説明されました。

『真の震災復興とは?-再生可能エネルギーの役割―』産総研FREA 所長代理 坂西 欣也氏
 
震災復興に向けて2014年に開所した福島再生可能エネルギー研究所(FREA)について説明。地域のエネルギー自給自足の重要性や、学と融合し技術を社会に還元していく考えを示されました。

『Out of the boxの発想から始まったchallenge―地元中小企業による地中熱利用システム開発―』日商テクノ株式会社 専務取締役 小川 典子氏
 「気付き」とアイディア、イノベーションとベンチャー精神という企業姿勢から始まった地中熱利用システム開発への挑戦。その経緯と実情について説明されました。

再生可能エネルギー導入とロハスシティ実現への道を探る

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 続いて、話題提供者をパネリストに迎え、「どのようにして私たちの生活に再生可能エネルギーを取り入れていけばよいのか」を市民とともに考えるパネルディスカッションを行いました。コーディネーターは、ラジオ福島アナウンサーの菅原美智子氏が務められました。

第5回ロハスの工学シンポジウムimage006 まず柿崎教授は、再生可能エネルギーの中でも地中熱を積極的に取り入れていきたいと明言し、理由として、一般家庭で使われるエネルギーのほとんどが熱エネルギーであり、熱として使うのが最も効率がよいことを示しました。一方で、太陽光パネルや風力発電と比べて分かりづらい地中熱を可視化する必要性があると言及。そのための仕組みやプロジェクトについて検討していることを示唆しました。

 第5回ロハスの工学シンポジウムimage007吉田氏は地中熱を最重要課題としつつ、太陽光・風力・バイオマス・木質バイオガス・水素などあらゆる再生可能エネルギーの導入を進めるのが行政の使命とし、そのために研究機関や企業との連携が大事になると言及。除染に関わる輸送車両によるCO排出問題にも触れ、1日も早く輸送を終了させ、CO削減に取り組みたいと述べられました。

 第5回ロハスの工学シンポジウムimage008坂西氏は、再生可能エネルギーを普及させてコスト削減を図ることが重要だと言及。また、電力の自由化を取り上げ、CO排出が課題となっている石炭火力を使った安価な電力供給も進められている中で、消費者が高くてもグリーン電力を選ぶという考えが大事になると述べられました。さらに、電力消費も含めた省エネを意識し、日々のライフスタイルの中から節約していくことを提案されました。

 第5回ロハスの工学シンポジウムimage009小川氏が一番の課題として挙げたのは、「地中熱システムを消費者にどう説明していくか」。導入への期待や価値を認めてもらったうえで、納得いく価格で提供できるよう啓蒙することも企業の責任であるとの考えを示しました。また、技術に関する知識を持った人材の必要性も訴え、学生に対し地元の企業にも目を向けてほしいと呼びかけました。

 続いて、「地中熱を各家庭に導入してもらうためのハードルとなっているものは何か」という問いに対し、柿崎教授はコストの問題を取り上げました。これまで価格を具体的に示すことが難しかったことから、「今後は初期導入の価格や実際に使用したときの費用がどれくらいなのかを見せていかなければならない」と述べました。さらに、電気をつくる・蓄えるだけでなく、家のつくりや遮熱・断熱などの工夫より、エネルギーを逃さない、上手く取り入れるという発想も必要であり、学問領域を越えて工学部が取り組んでいる『ロハスの工学』の重要性を訴えました。

 第5回ロハスの工学シンポジウムimage010また、福島県及び郡山市は再生可能エネルギーの普及を促進するために、家庭用太陽光パネルについては継続して、蓄電池については昨年度から、ヒートポンプについては今年度から助成金制度を実施しており、吉田氏は今後も適宜サポートにしていくことを明言されました。

 本シンポジウムのテーマでもある『ロハスシティ郡山の実現』に向けて、菅原氏は市民の立場から、「ゆるやかにロハスのライフスタイルに変換していくにはどうすればよいか」と質問されました。坂西氏は、「一人で移動する際には車ではなく公共交通機関を利用するなど、地道な取り組みがロハスにつながっていく」と発言されました。それに加えて柿崎教授は、「海外ではサステナブルの最大のテーマを交通輸送だとして、新たに電車を導入したり、自治体が交通規制を行ったり取り組みが進んでいる」と話されました。さらに、「市民が自発的にやるのは難しいが、産官学民が協力していくことで、ライフスタイルを変えていけるのでは」と示唆しました。

 第5回ロハスの工学シンポジウムimage011会場からもさまざまな意見や質問が投げかけられました。機械工学科の学生は、「ロハスや再生可能エネルギーについて学んだ学生が、ロハスシティ郡山の実現に携わる仕事に就けるチャンスはあるのか」と質問しました。その問いに対し小川氏は、「今あるものにどうフィットできるかではなく、自分がこれからどんなものをつくりたいかを明確にすれば、そういう企業が見つかるはず」とアドバイスされました。また坂西氏からは、「再生可能エネルギー関係の企業が今後増える可能性は大いにある」との心強いお話もいただきました。

 企業からは、地中熱利用の良さをわかりやすく市民に伝えていくためのアイディアについてのアドバイスが求められました。小川氏は、「暖かさを体験できるようなものがあればいいのでは」という考えを提示しました。柿崎教授は、工学部の地中熱利用の研究に対して全国から問い合わせが来ていることに触れ、「地道ではあるが、間断なく成果や活動を発信していることが重要」だと述べました。

第5回ロハスの工学シンポジウムimage012 機械工学科の伊藤耕祐准教授は、日本太陽エネルギー学会で立ちあがった新しい研究会において、再生可能エネルギー導入100%を目指す福島県をモデルケースとして支援することが決定したと報告されました。また、日本の行政の都市計画の中にはエネルギー計画が入っていないと指摘があったことに対し吉田氏は、「郡山市も低炭素社会に向けての取り組みを始めたことで、まちづくりと環境行政をドッキングさせる動きになってきている」と答えられました。

 最後に各パネリストから、次のような思いが語られました。

柿崎教授「地中熱利用について統計データとして具体的な数字を示していくことが第一の目標」

吉田氏「地中熱利用の補助金の応募が、次年度2倍3倍増えるようにしていきたい」

坂西氏「電力自由化によって再生可能エネルギーが普及することを期待したい」

小川氏「地中熱利用の周知と高コストイメージの払しょくが目標。省エネシステムの新しいカテゴリーをつくっていきたい」

 菅原氏は、再生可能エネルギーを導入した20年30年後の在り様が描けないと指摘したうえで、今後、行政・大学がわかりやすく見せていくことを期待しながら、再生可能エネルギーを自分たちの手に入れる決断をすることがロハス的生き方につながっていくのだと締めくくりました。

 閉会にあたり、工学研究所次長の柿崎教授は、「今まで以上に深い議論ができた。シンポジウムを通して、より一層、産官学民の距離を縮めていければ」という思いとともに、会場の皆さまに感謝の言葉を述べられました。

 第5回ロハスの工学シンポジウムimage013参加した建築学科の学生は、「ロハスは大切だとは思っていたが、地球にかかる負担を減らして地球を継続させることが本当のロハスだとわかりました。工学部で学んだことを活かして社会に貢献していきたい」と語っていました。また、生命応用化学科の学生は、「貴重な話が聞けてよかったです。再生可能エネルギーをもっと身近に活かせればよいと思う」と話していました。

第5回ロハスの工学シンポジウムimage014 エネルギー関係に興味があって参加されたという主婦の方には、「子どもがいると講演会やセミナーなどに参加できないので、こうした託児サービスがあると助かります。シンポジウムも有意義な内容で大変よかった」と満足していただけたようです。 

 また、「具体的に地中熱利用が進んでいることを実感できた」という声も聞かれたように、『ロハスの工学シンポジウム』を通して市民の皆さまに研究成果を伝える良い機会にもなりました。

 一歩一歩ではありますが、産官学民の距離が縮まり、連携が形づくられようとしています。ロハスシティ郡山の実現に向けて、今後よりいっそう連携が深まることを期待しています。