市民公開第3回『ロハスの工学シンポジウム』を開催しました

夢の遊び場を実現するためにロハスの工学ができることは何か

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東日本大震災における原発事故以降、福島県内は除染活動が行われ、放射線量の低減が進められていますが、一方で子どもたちの成長に欠かせない安全な運動場・遊び場の確保が求められています。本シンポジウムでは、未来を担う郡山の元気な子どもたち(PEP Kids)にとって夢の遊び場とはどんなものか、またその遊び場を実現するために「ロハスの工学」が成すべきことは何かについて、市民の皆さまとともに考えました。

 

アンケート調査から見えてくる子どもたちの現状と課題とは

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そして、小児科医・NPO法人郡山ペップ子育てネットワーク理事長の菊池信太郎氏による「福島県郡山市における震災後の子どもたちの生活環境について―アンケート調査―」%e7%ac%ac3%e5%9b%9e%e3%83%ad%e3%83%8f%e3%82%b9%e3%81%ae%e5%b7%a5%e5%ad%a6%e3%82%b7%e3%83%b3%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%a6%e3%83%a0image006題した基調講演を行いました。菊池氏は震災直後の平成24年5月に医師会と郡山市などが連携した「郡山市震災後子どもの心のケアプロジェクト」を立案。同年12月に子どもたちが元気に遊べる屋内遊戯施設「PEP Kids KORIYAMA」をオープンさせました。その後も子どもたちが直面している問題提起と理想的な成育環境モデルを示す活動に取り組んでいます。

菊池氏は、「復興とは元通りにすることではなく、ここから子どもたちが生きていく、よりよい社会をつくっていくことが真の復興」だと強調されました。%e7%ac%ac3%e5%9b%9e%e3%83%ad%e3%83%8f%e3%82%b9%e3%81%ae%e5%b7%a5%e5%ad%a6%e3%82%b7%e3%83%b3%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%a6%e3%83%a0image010そして、震災後行われた子どもたちの運動能力調査や生活環境調査などから、実際子どもたちにどのようなことが起きているのか、現状について詳しく説明されました。特に肥満児の増加に着目し、従来から年々その傾向があるとしつつも、震災を契機に肥満になった子どもがいること、それが運動不足や食事・遊び等の生活習慣の変化に起因することを指摘しました。小児における肥満が将来の健康リスクになることも示唆。子ども目線の考え、遊びの質と量を確保することが重要であると訴えました。

次に、「子どもの心と体の健康に関するアンケートを支援する日本大学工学部の取り組み」について、電気電子工学科の村山嘉延准教授が報告いたしました。ふるさと創生支援センターの取り組み%e7%ac%ac3%e5%9b%9e%e3%83%ad%e3%83%8f%e3%82%b9%e3%81%ae%e5%b7%a5%e5%ad%a6%e3%82%b7%e3%83%b3%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%a6%e3%83%a0image008の一つとして参画している「郡山市震災後子どもの心のケアプロジェクト」では、昨年郡山市在住の児童・生徒約4万人を対象にアンケートを実施。その運営や集計作業に学生約100人がボランティアで参加しました。村山准教授は協力した学生の力によって実現できたことを強調するとともに、このアンケート活動を通して学生自身の成長にもつながったことを一つの成果と捉え、「ものづくり」から「価値づくり」への大切さを伝えました。

 

PEPな福島Kidsのための夢の遊び場を提案

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「ロハスの工学の視点で計画する夢の遊び場」・・・・・・・ 建築学科 浦部智義准教授

郡山市の現状、全天候型運動場や中規模屋内運動場、小規模室内遊び場などの例をあげながら、他の課題との連動・複合すること、まちづくりの一環として子どもの環境を考えることが重要であると言及しました。

「エネルギーの視点から考える夢の遊び場」・・・・・・・・機械工学科 伊藤耕祐准教授

エネルギーに対する子どもたちへの適切な教育の必要性を説くとともに、浅部地中熱を利用した屋内競技場を提案。遊びを通して子どもたちから発散されるエネルギーが大人の愛と夢と希望の触媒作用で成長エネルギーに換わる場所が夢の遊び場だと述べました。

「水と農の視点から考える夢の遊び場」・・・・・・・・・・土木工学科 中野和典准教授

昔と現在の遊びを「水」と「農」の視点から比較。農業体験しながら魚とりや虫とり、泥遊びができる田んぼでの自由な遊びの体験を通して、自然の摂理に触れる「水」と「農」を融合させた夢の遊び場「田んぼパーク」を提案しました。

「命を育む教育環境の視点から考える夢の遊び場」・・・・・・・ 郡山女子大学短期大学部 幼児教育学科講師 永瀬悦子氏

児童の自殺や虐待事件など統計からみる命の問題や「命のつながり」の健康教育実践過程、妊娠・出産を焦点にあてた母と子の命の教育などに触れました。そして「共生共存」、「自己実現」をキーワードに、集い・憩い・癒し・成長の場にすることが重要であると説明されました。

 

ロハスの工学の視点で夢の遊び場を考える

4名のパネリストと基調講演者2名によるパネルディスカッションでは、福島のPEP Kidsにとって夢の遊び場とはどのようなものか、その実現のために「ロハスの工学」が成すべきことは何かを議論しました。

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浦部准教授:子育てを考える場合、まずまちづくりから始めることが大切です。被災地ではまちの復興が遅れていて、子どもの居場所をつくる段階にはありません。生きる環境が阻害されている現状を認識してほしい。永瀬先生がおっしゃるように日常性は大事だと思います。小さくてもいいから身近なところに象徴的な質のよい遊び場を一つつくることで、何か動いていくような気がします。夢の遊び場を一言で表すと「想・創」。言葉だけでは想いは伝わりません。まずは創ることが重要だと思います。

 

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会場からも質問や感想、貴重な意見をいただきました。

「郡山震災後子どものケアプロジェクトの進捗状況や財政面はどうなっているのか」という質問には、地域の協力やサポートしていただける団体が必要であり、こうしたシンポジウムを通して思い%e7%ac%ac3%e5%9b%9e%e3%83%ad%e3%83%8f%e3%82%b9%e3%81%ae%e5%b7%a5%e5%ad%a6%e3%82%b7%e3%83%b3%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%a6%e3%83%a0image030を共有していきたいと答えました。「アンケートの結果からどうすべきかを国や行政に提示されるのか」という質問には、これから3か月くらいアンケート結果を検討し、関係各所に伝えていきたいという意向を伝えました。その他、「すぐに遊び場としてできるものを考えてほしい」という意見や「行政任せでなく、一人ひとりが子育てに関わり手と手を取り合っていくことで、愛と希望が持てる福島を実現できると今日のシンポジウムに参加して感じました」という感想が聞かれました。

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また、機械工学科の学生も「自分が住んでいる福島でどんなことが起こっているのか知りたくて参加しました。さまざまな分野から話や突飛な意見も聴けて大変貴重で面白かったです。使う人の目線でつくるということは、研究開発していくうえでも重要な目的であり、常に意識しなければならないと思います」と話していました。

 

今後も「ロハスの工学シンポジウム」を通して、子どもたちの育つ環境、未来について考える機会を提供するとともに、「ロハスの工学」で夢の遊び場を実現できるよう尽力してまいります。