Researchers introduction No.3

研究紹介機械

力学的シミュレーションで解き明かす生体メカニズム

バイオメカニクスとは、生物の構造や運動について力学を用いて分析することで、生体機能や⽣体強度を解明し、その結果を医学や工学に応用することを目的とした学問です。プラムディタ ジョナス准教授は、材料力学、機械力学、計算力学、実験力学を基礎とした力学的シミュレーションを駆使して、人体の傷害耐性や人工股関節などの製品の設計開発に関わる研究、さらに人の感性を評価する研究にも取り組んでいます。

バイオメカニクスという新しい分野への挑戦

機械工学は、工学の中でも幅広い分野を学べることが魅力ですが、機械=自動車というイメージが強く、私自身もバイオメカニクスという学問分野があることを大学に入るまでは知りませんでした。当時はまだ、あまり研究されていない分野でしたが、機械工学を人間に応用できることに面白さを感じました。新しい研究分野にチャレンジしたいという意欲もあって、バイオメカニクスの研究室に入りました。最初に携わったのは追突事故による頚部傷害、いわゆる“頚部むち打ち”に関する傷害の研究でした。日本自動車研究所との共同研究で、頚部むち打ちの傷害発⽣メカニズムを解明するとともに、コンピュータシミュレーションを使って発生を予測するというもの。自動車の衝突安全対策に携わるトップレベルの研究者たちに刺激を受けながら、研究の面白さに魅了され大学院の博士課程まで進みました。得られた研究成果は、その後、日本の自動車アセスメントの評価基準の策定に貢献しています。こうして、コンピュータシミュレーションを応用したバイオメカニクスの研究者としての道を歩み始めたのです。

解析から改良・予防へ、医療や人々の生活に役立つ評価手法の研究

主に3つのテーマに関する研究に取り組んでいます。

①手首骨折における骨折形態の多様化に関する研究

高齢化により、転倒などによる骨折が多発しています。特に、手首骨折(橈骨遠位端骨折)は、最初に発生する骨折と言われており、他部位に比べて骨折形態も多様で、その発生要因は未だ明らかになっていません。本研究では、高齢者のCTデータをもとにして手首のコンピュータモデル(手首有限要素モデル)を構築。このモデルを用いて数値解析を行い、橈骨遠位端骨折の力学応答(応力分布、ひずみ分布)に対する荷重特性の影響を調査することで、橈骨遠位端骨折の⾻折形態の多様化の発生要因の解明を目指します。

機械写真01

②人工股関節におけるカップ設置精度の影響に関する研究

大腿骨と骨盤との間にある軟骨が磨り減る変形性股関節症は、炎症や痛みを伴う病気で、特に中高年の女性に多く見られます。痛みを取り除き、歩行機能を改善するためには、全人工股関節置換術(THA)が有効的です。人工股関節は、カップ、ヘッド(骨頭)、ステムで形成されていますが、カップの設置精度にばらつきや制限があるため、人工股関節にどのような影響があるか不安視されています。そこで、人の歩行データを取得し、歩行時の股関節に作用する力を推定できる歩行シミュレーションモデルを構築。カップの設置角度を変えて人工股関節の接触圧力を計算し、角度が大きいほど圧力が集中し、摩耗が進みやすい可能性があることを明らかにしました。

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③コンピュータシミュレーションによる握り心地の定量的評価法に関する研究

ドライヤーやアイロンなど、手で握って使用する製品の把持部の形状をデザインする際には、握りやすさやフィット感が重要になってきます。被験者による官能評価では、被験者の心理状況や環境に左右され、心地よさにばらつきがあることや、費用と時間が掛かることが課題となっています。そうした状況の中、メーカーからの要請を受け、パソコン上で握り心地を評価できる手法について研究を行っています。計測した手指の運動から⼿部のコンピュータモデルを⽤いて、握り姿勢を再現。コンピュータシミュレーションから得られた手の圧力分布と握り心地との相関から、把持部の最適な形状を導き出します。

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人の感性を評価する研究

現在、握り心地のほかにも、様々な人の感じ方を定量的に評価する手法について研究しています。例えば、脳の血流を計測し、近赤外線で酸素濃度を調べることで、人がワクワクしている状態を客観的に評価する手法です。こうした人の感性を定量的に評価することで、より良い製品開発につなげていくことが目標です。

学生へのメッセージ

人体モデルを使ったコンピュータシミュレーションによる容易かつ迅速な解析で、⼈体に関わる様々な課題の解決を目指しています。工学的視点からのアプローチによって、医療や快適な⽣活に役立つ研究ができることが魅力です。また、パソコン上で自ら作成したモデルは、世界に一つだけのオリジナルであり、ものづくりの醍醐味を味わうこともできます。専門分野の中でも、“自分はこれだ”と言える尖った部分を持つことができれば、社会に出てからも生き抜くことができるでしょう。大学で幅広く学び土台をしっかり築きながら、これだと思えるものに磨きをかけて、自分の中に尖った部分をつくってください。

研究者紹介機械写真プラムディタ ジョナス
機械工学科 バイオメカニクス研究室 准教授

 

研究キーワード/人体モデル、傷害、感性、人工関節
研究者プロフィール