Researchers introduction No.2

歴史的な発想で建築と都市を考える

世の中に無数に存在する建築。そこには大勢の人が関わり、多くの知識が埋め込まれ、多様で複雑な事象をつくりだしています。建築とは何か、都市とは何か、その答えを導き出し、次世代に継承していくために、歴史的な発想でアプローチする山岸吉弘専任講師。古い建築物やその歴史的背景を研究する中で、先人たちが試行錯誤を繰り返しながら、どのように建築と関わってきたのかを追究しています。

多角的・多面的な視点で建築の歴史を紐解く

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大学時代に所属していた建築史研究室で、メンバー全員で文献を読解するというゼミがあり、その時初めて「木割書」について知りました。そこに書かれてあった神社建築の一つである王子造りに興味を持ったことが、木割書の研究を始めるきっかけになりました。木割書とは、立体である建築を言葉と数字に置き換えて文章や指図などによって記述された、いわば設計基準書のようなものです。建築物の核となる柱を基準にした柱割と屋根材である垂木を基準にする枝割という寸法体系がありましたが、双方向から見ていくと寸法体系に矛盾が生じます。そこで新たな基準として登場したのが組物割です。私は、大工たちは柱割と枝割が交差するポイントである組物を基準とすることにより、寸法体系の矛盾を止揚できる可能性があると考えたのではないかという見方を提示しました。この論文が評価され、2015年に一般社団法人日本建築学会奨励賞を受賞。研究成果をまとめた学術書「木割表現論」も刊行しました。そこから派生した様々な研究テーマに挑戦しながら、建築史の解明に取り組んでいます。

伝統的な建築物とそこに関わった人々から、建築生産活動の歴史を探る

主に4つの研究テーマに取り組んでいます。

① 職人を主体とする生産史と技術史

●近世建築生産史における「大工棟梁」の組織と技術に関する研究

古代から中世にかけては、国家・社寺家・武家などの特権階級が担い手となって建築物が生産されていましたが、江戸時代に入ると都市化の影響を受け、建築の生産は農村にまで及びました。特権階級のような後ろ盾がいない中で、造営組織・体制はどうなっていたのか。それを明らかにするために、「大工棟梁」に着目しました。有力な資料である「棟札」に書かれた職人たちの名前から、農民がどのように大工棟梁へと成長していくのかを調査しています。以下の2つの課題達成を目標としています。

<大工棟梁モデルの構築>
これまでに相模国・武蔵国を中心とする東国に注目し、各地域を代表する大工棟梁を個別に取り上げ、組織や技術に関する研究を実施してきました。研究の成果を改めて見直し総合することで、大工棟梁の存在を相対化・一般化することが可能であり、モデルとして構築することを目指しています。

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<大工棟梁データベースの構築>
福島県を範囲として大工棟梁のデータベースを構築し、当時の状況の全体像を把握することを目的として、主に文献を用いて職人の肩書きや氏名などの情報収集を行いました。更に、石川町や古殿町などの社寺に残された棟札の現地調査を実施。これまで広く知られていなかった大工の存在も明らかにし、どのように大工技術が継承・蓄積されていったのかという問題を具体的に考察しました。作成したデータベースをさらに充実させるとともに、「大工棟梁」を中核とした近世建築生産史の再構築に取り組んでいきます。

●福島県内における信州高遠石工に関する研究

鳥居や、灯籠、手水鉢などの石工で有名な信州の石工集団「高遠石工」が福島県にも出稼ぎに来ていたことがわかっています。いつ、どこにきたのかを調べることで、どのように地域に普及していったかを明らかにしながら、当時の人の往来や経済の動きも探っています。

②東北地方を中心とする伝統的建造物の歴史と特徴

③民家の再生と活用を目指す理論構築および計画提案

④集落構造の類型化と分析

歴史の研究から培った知識を活かして、建築設計・デザインにも挑戦

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これまで歴史的観点から建築とは何かを追究してきましたが、今後は自分自身で建築をつくることにも取り組んでいきたいと考えています。数千年以上の人類の叡智によって積み重ねられてきた建築の歴史を研究しながら、その経験を活かして建築設計・デザインに携わることで、相乗効果が生まれるのではと期待を持っています。その第一歩として、「愛の家」をテーマにした住宅設計の競技会『第15回ダイワハウスコンペティション』に応募しました。結果、入賞を果たしましたが、学生たちにも、“やれば何とかなる”ことを伝えられたと思います。建築は美しく、人の生活を豊かにするものです。その根源に立ち返り、豊かな未来につながる建築を目指します。

学生へのメッセージ

建築を学ぶことは歴史を学ぶことに通じています。世界にはどのような建築があり、どのようにしてつくられたのか、その歴史を学んでいくと、膨大な人々がこれまで取り組んできた営みと、その蓄積のうえに、現在、私たちはいるのだということに気付かされます。先人たちに敬意を表し、歴史に裏付けられた教訓を活かして、デザインや設計に取り組んでほしいと思います。また、歴史の研究は過去を対象としていますが、史実だけを探求しても歴史にはなりません。歴史をつくりだす人の創造性を捉えることが重要です。冷静にかつ情熱を持って研究に向き合いながら、歴史を解き明かす新たな発見に繋げてください。

研究者紹介建築写真山岸 吉弘 建築学科 建築史研究室 専任講師

 

研究キーワード/伝統的建造物、民家、大工
研究者プロフィール