センサ技術に関する国際的ジャーナルの表紙に選ばれました

バイオメカニクス解明の研究成果が高く評価され
学術雑誌の表紙に採用される

 ジャーナル出版・翻訳サービスを手掛ける株式会社ミューが発行するセンサ技術に関する国際的ジャーナル『Sensors and Materials』の表紙に、機械工学科の長尾光雄教授が開発した骨関節音響センサ(BJAS) の写真と概念図が採用されました。長尾教授は韓国にある延世大学校のキムヨンホ教授と共同で変形性膝関節症早期診療支援システムの開発を進めており、その研究成果の一環として本ジャーナルに論文が掲載されました。ジャーナルの表紙には掲載された論文の中から代表的なトピックが選ばれることから、長尾教授が開発したセンサは特に高い評価を得たものと考えられます。このセンサ及びセンサを用いた診断システムは国際特許を取得しており、新規性の高い技術であると認められています。
長尾教授に喜びの声と研究について詳しくお話を伺いました。

 

 

 

―論文掲載及び表紙採用おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 ありがとうございます。掲載された論文はキム教授がIMETI2017(工学と技術イノベーション 2017 第 6 回国際会議)で発表されたものをまとめたものです。ジャーナルに論文を発表すると伺っており、共著として私も名を連ねてはいましたが、まさか自分が開発した骨関節音響センサの写真と概念図が表紙に選ばれるとは思ってなかったので、大変驚きました。独自に開発した機器を使った研究成果だったことが、ジャーナルの方向性とマッチングしていたのかもしれません。いずれにしても学術雑誌の表紙に選ばれたのは初めてのことですし、大変光栄に思っております。研究の成果を発表されたキム教授にも感謝しております。

 

海外の大学との共同研究の成果によって
さらに診断システムの信頼性が高まる

―共同研究の詳細について説明いただけますか。

我々の研究室では、変形性膝関節症計測診断支援システムの研究を進めています。高齢者に多くみられる変形性関節症(OA)は、膝関節面の軟骨がすり減ることで膝関節が変形して発症する病気です。進行性のため、早期診断・早期発見が重要だとされています。そこで、膝関節屈伸のバイオメカニクスの解明を目的に、骨関節音響センサを用いて生体信号の計測に取り組んでいます。健常者及び関節のすり減り度合いの異なる膝OA患者の信号の違いを定量化し、膝OAの進展を推定できれば診断に活かせるのでは考えたのです。そのためには、実際に患者の膝の状態を計測しながらシステムの有効性を検証する必要があります。しかし、国内で臨床実験を進められる病院や研究機関を探すのは容易ではありません。海外で共同研究ができないだろうかと思い、アプローチしたのが延世大学校のキム教授でした。キム教授はバイオメディカルエンジニアリングの分野では、大変著名な研究者の一人です。また、延世大学校は附属病院として韓国で最も歴史のある近代式のセブランス病院を有しており、実際に臨床実験ができるというのも大きなメリットでした。こうして、キム教授との共同研究を進めることになり、私の開発したセンサを使って延世大学校でも臨床実験が始められていったのです。今回掲載された論文では、膝OA患者14人と健常者20人に行った、膝関節AE(アコースティックエミッション)を計測した実験結果を報告しています。実験ではセンサを脛骨の内側と外側上顆、そして膝蓋骨の前部に取り付け、体重支持と非体重支持の荷重の有無による信号を求めています。結果、ほとんどの患者は、膝蓋骨の前面にAE信号特性の大幅な増加を示したことから、膝の痛みと信号の強さが相関していることがわかりました。これにより、日常生活の中で膝OAの早期診断や早期発見につながることが期待できると報告しています。

★MYU『Sensors and Materials』掲載論文はこちら

病気の診断から、スポーツ選手や機械の
疲労診断まで、研究の可能性が広がる

―今後の目標についてお聞かせください。

診断システムの実用化、それが一番大きな目標となります。来年、本格的にキム教授と共同での実験を進めていく予定です。郡山市や須賀川市でも協力いただける病院が見つかり、現在、患者さんのデータを収集しているところです。骨関節音響センサ(BJAS)は膝に限らず、肘や指、腕の関節など摺動する部分の信号を測ることができる装置です。顎関節症の診断や置換術後の人工関節の状態を診るのにも応用できると考えています。また、病気の診断以外にも利用できる可能性があります。例えば、スポーツ選手のトレーニング管理です。アメリカのメジャーリーグでは先発ピッチャーの投球数を100球までと定めていますが、肘の信号を測って選手一人ひとりの限界値が分かれば、怪我を回避できるのではないでしょうか。さらに、AEセンサと同じ使い方もできるので、機械の振動から破損状況を把握することもできると思います。様々なものに応用できるのが、このセンサの特長であり、センサの信頼性を高めていけば、ますます可能性も広がっていくでしょう。
研究の魅力は、これまでわからなかったことが発見できたり、今までになかった新しいものを生み出せることです。探求心は尽きることはありません。飽くなき挑戦はまだまだ続いていきます。

―ありがとうございました。今後益々ご活躍されますことを祈念しています。