第20回産・学・官連携フォーラムを開催いたしました

ロボット関連産業における産学官連携の最新の取り組み

 11月9日(火)、工学部50周年記念館(ハットNE)3階大講堂にて、公益財団法人郡山地域テクノポリス推進機構との共催による『第20回 産・学・官連携フォーラム』を開催いたしました。『福島県産学官イノベーションアクティビティ~福島県で活躍するベンチャー企業や産学官の取り組み~』と題した本フォーラムでは、新たな事業展開を目指すベンチャー企業と、連携する学官のアフターコロナを見据えたロボット技術の動向、福島県のロボット関連産業振興の施策等について、それぞれ産学官の代表に講演いただきました。なお、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、ウェビナー(WEBセミナー)形式での開催といたしましたが、ネットワーク環境の整っていない方々に対しては、人数制限を設けてご来場いただきました。

 はじめに、公益財団法人郡山地域テクノポリス推進機構評議員の伊藤清郷氏にご挨拶いただきました。伊藤氏は、工学部キャンパス内に設置されている郡山地域テクノポリスものづくりインキュベーションセンターは、本フォーラムのテーマを体現した施設であり、ベンチャー企業や新規製品開発に取り組む企業が入居していることについて触れました。その中の一つ、株式会社エムケー技研が「産」の代表として講演するほか、官学それぞれの立場から話題提供があるので、最後まで聴講いただきたいと切に願いました。続いて、日本大学工学部工学研究所次長・生命応用化学科の春木満教授よりご挨拶いたしました。まず、昨年度、本フォーラムが台風19号の影響により中止となったため、本年度改めて企画された内容を実施することになったと説明しました。講演を通して、産学官の最新の取り組みを知っていただくとともに、これからのロボット技術の動向や施策などをご覧いただきたいと伝えました。

 

 

『エムケー技研の産学官連携の取り組みについて』  

株式会社エムケー技研代表取締役社長 諸根 理仁氏

 諸根氏は日本大学大学院工学研究科機械工学専攻修了後、大手電機メーカーに就職し、リチウムイオン電池モジュール・パックの開発に従事。その後、地元福島県に帰郷し、地方の課題解決に貢献できる技術会社を目指して創業しました。講演では、自社製品の他、受託開発事例や産学官連携で進めた2つの研究開発の事例を紹介しました。『U字溝型枠への離型剤塗布・拭き取りロボットシステムの研究開発』においては、令和元年度福島県ロボット関連産業基盤強化事業採択により開発資金を調達し、ロボットアームの試験場所として福島県ハイテクプラザを借用することで経費を軽減。日本大学工学部からシステム開発の技術指導を、協力企業からシステムの仕様・運用に関する技術指導を受けるなど、産学官連携のおかげで研究開発を進めることができたと説明しました。また、『大規模太陽光発電所を対象とした除草ロボットシステムの研究開発』では、福島県産業振興センターの令和元年度ふくしま産業応援ファンド事業の助成金を受け、福島県ハイテクプラザの現場支援事業による講義と実習を受けることで技術力を磨いたと言います。さらに、知財化について福島県発明協会に相談し、調査を経て出願した結果、自社開発のロボットシステムの特許化を実現。諸根氏は、公的機関の支援を活用することで様々なメリットがあるとした上で、産学官連携における課題についても言及しました。「官」に対しては開発期間の長期化を、「学」に対しては産業界とのコラボや実用化を目指している研究者を具体的に示すことを提案しました。また、自社に関して「日本大学工学部発ベンチャー企業」の認定を検討してほしいと要望がありました。ベンチャー企業ならではの産学官連携の取り組みとともに、今後の方向性についても示していただきました。

 

『アフターコロナを見据えたロボット技術』  

日本大学工学部機械工学科 武藤 伸洋教授

 持続可能な機械システムの実現を目指し、医療機器操作の遠隔支援システムや遠隔作業支援移動ロボット制御に関する研究などに取り組む武藤教授。ロボットシステム基盤プロジェクトのリーダーとして他学科の研究者と学科横断的にロボット関連の研究も進めています。この1年間の出来事として、2019年の台風19号による水害、そして新型コロナウイルス感染拡大に触れ、大学の状況や生活スタイルが変化してきていると述べました。それらを踏まえ、アフターコロナを見据えたロボット技術の動向について、各方面から得られた有用な情報を紹介しました。まず、ロボットを扱う商社が打ち出したのが、「3K→4K(英語では3D→4D)」。1980年代頃から、工場などでの3K(きつい・汚い・危険)と言われる作業をロボットが行うようになりましたが、アフターコロナの時代は3Kから4Kへ、つまり“感染対策”の観点からロボットを導入するメリットがあると考えられているようです。医療技術者を守るためのロボットや遠隔操作による非接触を実現するロボットなどの需要が増えることが予測されます。武藤教授は、すでに開発が進められているPCR検査に関するロボットや国際展示会に出展された各企業の最新のロボット開発の情報を提供しました。また、ここ数年のロボットのトレンドとして、様々な用途に使われている協働ロボットの事例を挙げました。コロナ禍以前には人手不足の問題から導入されてきた協働ロボットですが、アフターコロナ時代に向けて、その活用範囲は益々広がっていくと示唆しました。同時に、コストに見合ったメリットの検証が必要だと指摘する武藤教授。様々な課題はあっても、ロボットが私たちの生活に欠かせない存在になっていくことは間違いないでしょう。

 

『福島県ロボット関連産業の振興について』 

福島県商工労働部ロボット産業推進室 室長 鈴木 章文氏

 鈴木氏は、福島ロボットテストフィールド(以下RTF)と福島県全域におけるロボット関連産業振興の取組について紹介しました。東日本大震災後の浜通り地域等の産業回復のために立ち上げられた国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」。それに基づいて、ロボット・ドローンの一大研究開発拠点として2020年3月に全面開所したのがRTFです。約50ヘクタールの敷地の中に無人航空機エリア9施設、水上・水中エリア2施設、インフラ点検・災害対応エリア5施設、開発基盤エリア5施設を有する南相馬市サイトと滑走路・格納庫を有する浪江町サイトがあります。鈴木氏は、各エリアに設置された施設について説明しました。また、空飛ぶクルマ、災害ドローンの訓練など各施設の活用事例についても紹介しました。現在、RTF等の拠点整備を含めた主要プロジェクトの具体化に加え、産業集積の実現、教育・人材の育成、生活環境の整備、交流人口の拡大等に向けた取組を進めているとのことです。次に、福島県全域におけるロボット関連産業振興の取組について紹介しました。研究開発から取引拡大まで切れ目なくロボット産業を支援する福島県は様々な事業を展開しています。前述のRTFの整備に加え、ロボット関連産業基盤強化事業や産学連携ロボット研究開発事業といった、企業及び大学の研究開発を支援する取組もその一つ。また、ロボットの地産地消を目指した福島県産ロボット導入支援事業では、導入費用の一部を助成する手厚い支援も行っています。ロボット産業支援コーディネーターを配置する、ふくしまロボット産業推進協議会もあり、福島県内のロボット部材の掘り起こしや企業のマッチングを進めるなど、積極的に取組を推進。今後、福島県内のロボット産業が活性化することが大いに期待できます。

 

課題解決に向けた有意義な意見交換の場となる

 ご講演いただいた3名にご登壇いただき、会場からの質問にお答えいただきました。まず、「官」の立場である鈴木氏に対し、メディカル関連に注力する福島県における、高度治療技術に関わる産学官連携でのロボット開発の動向について質問がありました。鈴木氏(写真右)は、手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」を例に挙げ、大手企業のない福島県では最終製品まで創出することは難しいものの、県内企業としては大事なコアになる部品の開発を担うことができるとの見解を示しました。質問者も「部品でもよいので、メイドイン福島で何か医療に関わるものを作ってほしい」と要望しました。次に、ローカル5G導入の可能性と大学におけるクラウドファンディングの可能性について質問がありました。ローカル5Gに対し武藤教授(写真中央)は、遠隔地の情報を正確に把握させるのは難しいと指摘し、実験を重ねてプロの方に検証してもらう必要があるだろうと述べました。また、クラウドファンディングについては、事例が出てくれば発展する可能性があるのではと示唆しました。ベンチャー企業の知名度不足や特有の課題をどう克服すべきかという質問に対し、諸根氏(写真左)は、「大学発ベンチャー企業」「福島県お墨付きのロボットベンチャー企業」といった肩書があれば信用が得やすいと伝えました。また、人材確保と育成の展望についての質問には、ポリテクセンター福島の修了生を採用するなど、地元にこだわりのある人材を重視していると答えました。会場の工学部の卒業生からも、「根を張った力強い企業になってほしい」と諸根氏への期待と激励の言葉が送られました。様々な質問を通して、産学官連携の課題解決に向けて有意義な意見交換の場となったようです。

 

 最後に、研究委員会副委員長土木工学科の中野和典教授が本フォーラムを振り返りながら、閉会のご挨拶をいたしました。中野教授は諸根氏の講演の中で印象に残った研究開発事例を挙げるとともに、補助金などの共通の課題を抱えていることについて、日本全体の課題ではないかと指摘しました。また、日本大学工学部発ベンチャー企業認定の要望にも触れ、大学としてもバックアップしていきたいと強調しました。武藤教授の講演については、まさにアフターコロナは感染しない、遠隔操作できるロボットの特性が活かせる時代だと同調。また、鳥獣被害対策に四足歩行ロボットが有効ではないかとの考えを示しました。鈴木氏に説明いただいたRTFに関しては、ぜひ見学したいと言い、経済効果にも貢献したいと述べました。益々アフターコロナでロボットの需要が増える中で、手厚い支援を切望するとともに、「場所貸しから国の認証機関へ」の課題についても議論していきたいと伝えました。ご聴講いただいた皆様にも、有益な情報が多々あったことと思います。そして、本フォーラムを通して産学官の連携をより深めることができました。

 講演を聞いた会場の方は、「エムケー技研のような若い企業が課題を持って取り組んでいるのは大変素晴らしい。ぜひ、福島発のロボット開発を目指してほしい」と大いに期待を寄せていました。講演を終えた諸根氏は、「コロナ禍の中で、こういう機会をいただき大変良有難かったです。PRにもなりました」と謝意を示すとともに、「卒業生同士がつながりやすい仕組みが確立されればいいですね」と話していました。研究所次長の春木教授は、「昨年中止となったフォーラムを十分な対策を講じた上で開催でき感無量です。この時期に相応しい内容で、RTFや支援事業などの有益な情報や産学官の今後の展望も見えて、充実したフォーラムになりました」と手ごたえを感じながら、「これからも郡山地域テクノポリス推進機構と連携して有意義なフォーラムを開催していきたい」と意欲を見せていました。

 目まぐるしく変化する時代の中で、新たな技術や産業を生み出すためには、今後益々、産学官連携が重要な鍵となるでしょう。次回の「産・学・官連携フォーラム」にもご期待ください。