第17回産・学・官連携フォーラムを開催しました

『続・健全で持続可能なふくしまの実現を目指して
―新設された3つのフォーラムのこの1年とこれから―』

日本大学工学部工学研究所、郡山地域テクノポリス推進機構、郡山地域ニューメディア・コミュニティ事業推進協議会が主催する『第17回産・学・官連携フォーラム』が、11月25日(金)に開催されました。今回のテーマは『続・健全で持続可能なふくしまの実現を目指して―新設された3つのフォーラムのこの1年とこれから―』。昨年度から立ち上げた『イノベーションテクノロジーフォーラム』、『健康医療福祉産業創生フォーラム』、『サステナブル地域づくりフォーラム』それぞれの1年間の活動報告と今後の展望についての話題提供のほか、産・学・官に加え、金(金融機関)の立場からも話題提供いただきました。また、話題提供者によるパネルディスカッションも行われ、有意義な議論が交わされました。フォーラムの内容について詳しく紹介いたします。

 

 新たに金融機関も加わり、より強まった産学官連携の形

 まずは開催にあたり、主催者を代表して工学部長・工学研究所長の出村克宣教授が登壇し、「今回は、本フォーラムでの活発な議論を風化させずに、各フォーラムの活動に活かすために企画しました。さらに、福島の復興に寄与できることを期待します」と挨拶しました。続いて、商工会議所副会頭の伊藤晴郷氏は、「産学連携の確立に期待しています。このフォーラムが有意義な場となりますように」と激励されました。そして、昨年度新設された3つのフォーラムのコーディネーターが、この1年の活動報告と今後の展望について話題提供を行いました。

 

各コーディネーターによる1年の活動報告と今後に関する話題提供

1 サステナブル地域づくりフォーラム     日本大学工学部土木工学科 岩城 一郎 教授

 岩城教授は、工学部が推進する『ロハスの工学』とその変遷について触れた後、本フォーラムについては「ロハスな地域社会を支えるインフラと環境(住環境、水環境、防災)の実現を目指すものである」と説明しました。続いてフォーラムのサブコーディネーター3名から、それぞれの研究活動について報告しました。
まず、建築学科の浦部智義准教授が、『この1年とこれから 建築・地域計画の取り組み』と題し、建築、地域づくりを通して地域の活性化を目指すプロジェクトの活動報告と、葛尾村で進めている『ロハスの蔵』などについて話題提供しました。次に土木工学科の中野和典教授が、郡山市と連携協定を結んだ下水道事業について紹介し、汚水処理と農業生産・緑化を組み合わせたグリーンインフラを構築する『資源・エネルギー循環型汚水処理システム』の概要について説明しました。続いて土木工学科の朝岡良浩准教授が洪水氾濫被害を軽減する『田んぼダム事業』について話題提供し、次年度は民官学が連携し、須賀川市で水田と排水装置を用いた実験に着手することを明らかにしました。
最後に岩城教授が、『ふくしま橋守育成プログラム』の概要や『橋梁点検チェックシート』について紹介するとともに、自立した地域づくりを目指すために、住環境と水・防災環境をしっかり下支えしていくことを明言しました。

 

2 健康医療福祉産業創生フォーラム    日本大学工学部電気電子工学科 酒谷 薫 教授

 酒谷教授は、少子高齢化問題とともに活力あるアクティブシニアをいかに増やすかが今後の課題であり、そのために病気の予防と孤独死の予防が重要であると言及しました。現在取り組んでいる『次世代ヘルスケアシステム郡山モデル』の3本の矢として、脳機能障害の早期発見につながる光トポグラフィー装置(NIRS)の開発、水道利用状況による見守りシステム、睡眠状態を見守る睡眠モニターシステムをあげました。水道メーター、ベッドセンサー、脳血流センサーを組み合わせた『高齢者見守りシステム』のFS実証実験のほか、化粧療法や脳と心の健康セミナーを実施した結果を報告。これらがコミュニティ活性化にもつながることがわかり、酒谷教授は郡山モデルをベースに地方創生を展開していきたいと表明しました。

 

3 イノベーションテクノロジーフォーラム  日本大学工学部機械工学科 柿崎 隆夫 教授

 柿崎教授は、本フォーラムのコーディネーターと地域で活躍するボードメンバである企業を紹介し、これまでは産学連携を目指したメンバの交流や普段入ることのできない先進企業の見学を実施しながら、密度の濃い活動を行ってきたと説明しました。また、ものづくり技術や再生可能エネルギーなどの産業界の動向にも触れ、今後は大学の研究者と地域事業者が密にコミュニケ―ションが取れるパイプを拡大し、産学官連携に金(金融機関)も入ってコラボレーションしていくことが目標であり、成果としての数字も示していきたいと決意を述べました。

 

フォーラムへのメッセージ

 「3Dプリンターを梃子に地域から世界へ放つイノベーションを!」 

山形大学大学院理工学研究科 教授 古川 英光 氏

 世界初の3Dゲルプリンターを開発した山形大学の古川教授が、先進的ゲル材料の自由造形を可能にする3Dプリンティング技術について紹介しました。さらにこの技術による大学発のベンチャー企業を設立。古川教授は、ロボットの学習能力に着目し、3Dゲルプリンターに機械学習をさせ自発的に造形物の性能をアップできるようにしたいと言及。その上で、人はディライト・デザインに注力すべきとの見解を示しました。

 

 

各フォーラムの官を代表して話題提供

1 サステナブル地域づくりフォーラム
「日本大学工学部と郡山市による下水道事業に関する連携協定について」

郡山市下水道部 下水道維持課 課長 大竹 伸裕 氏

 大竹氏はまず、10月31日に本学部と締結した下水道事業の概要について説明しました。また、これまでの郡山市ゲリラ豪雨対策9年プランの実施内容も報告されました。今後、産学官連携で新たな資源としての汚水・下水汚泥の利用や都市型豪雨対策を進めていくことを明言するとともに、市民の皆さまにも下水道に関心を持ってほしいと呼びかけました。

 

2 健康医療福祉産業創生フォーラム
「郡山市における地域包括ケアの課題と展望」

郡山市保健福祉部 地域包括ケア推進課 課長 安藤 博 氏

 郡山市は少子高齢化に対応するため、昨年本課を新設。さらに2025年問題対策本部会議を設置し、全庁的にサポートしていく体制を整えたことを報告されました。安藤氏は、現在進めている『高齢者見守りプロジェクトの取り組み(FS)』の概要についても紹介しました。実証実験やシステムの運用によって様々な効果が生まれていることも言及し、次年度も継続の意向を示しました。

 

金融機関を代表して話題提供

「すべてを地域のために」~地域活性化に向けた当行の取り組み~

株式会社東邦銀行 法人営業部 部長 渡邉 貴志 氏

 まずは、ファンドで地域経済を支える『とうほう“サミット”プラン』について説明されました。また、再生可能エネルギー分野や医療福祉機器分野、地域創生・発展に向けた様々な取り組みについても紹介。今後の取り組み方針として、ふくしまの“復興から成長への貢献”、お客様から選ばれる銀行づくり、持続可能な企業体質の確立を目指していきたいと抱負を語られました。

 

 

「どう応える?待った無しの産学官連携」・・・パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、柿崎隆夫教授を座長に、話題提供者6名のパネリストから産学官連携に対する考え方や提案、有意義な意見が出されました。

日本大学工学部  岩城一郎教授

日本大学工学部 酒谷薫教授

山形大学 古川英光教授

 

 

 

 

 

 

郡山市 大竹伸裕氏

郡山市 安藤博氏

東邦銀行 渡邉貴志氏

 

 

 

 

 

■フォーラムを通して、産・学・官・金の役割が明確になる

日本大学工学部  柿崎隆夫教授

議論を始めるにあたり、柿崎教授は、「これまでやってきたフォーラムの結果を見ながら課題をあぶり出し、次のアクションを考えていきたい」と述べ、まずは各フォーラムに関わった方々には1年間の活動に対する所感を、古川教授と渡邉氏にはそれらを聞いての感想を伺いました。
サステナブル地域づくりフォーラムの岩城教授は、皆が同じテーマに取り組むのではなく、各コーディネーターが個々のテーマを力強く推進し、最終目標である社会実装を目指して取り組みを進めていると説明しました。健康医療福祉産業創生フォーラムの酒谷教授は、いろいろな先端技術を使って人々の健康をサポートすることを目指して取り組むとともに、技術はツールであり、いかにユーザーが満足するか、幸福になるかという視点で研究開発を進めていく姿勢が大事だと言及しました。サステナブル地域づくりフォーラムの大竹氏は、民が官と一緒に事を進めていく時代に変わりつつあることに理解を求めました。また、健康医療福祉産業創生フォーラムの安藤氏は、産学官が連携することによって民も加わり、官ではなく民主導で進めるやり方が今後の大事なツールになると言及されました。初めてフォーラムに参加した金融機関の渡邉氏は、「今後は金融機関の役割が重要であり、産・学・官・金で地域を活性化させ、世界に向けて一緒に取り組んでいきたい」と意気込みを語られました。
古川教授はフォーラムについて、「新しい取り組みをされている」と所感を述べられるとともに、「どうやって大きくしていくか、もっと成長していくかという方向性をこういう話し合いの中で示せればいいのではないか」とアドバイスされました。
次に柿崎教授は、「フォーラムを発展させるために大学の役目は今のままでいいのか、拡大していくべきなのか」を問いかけ、「イノベーションテクノロジーフォーラムでは、今持っている技術だけでなく、新しい研究分野に乗り出していきたい」との方向性を示しました。それに対し岩城教授は、「インフラ分野はイノベーションとは少し違い、まずは産・学・官・民連携の下地づくりが大事」だと言及しました。そして、郡山市と工学部が下水道事業の協定を結んだことを例にあげ、「互いに信頼関係を得られるような形で下地をしっかり築くことができれば、いろいろな発展があるのでは」と付け加えました。酒谷教授は、世の中の流れに沿って動いている企業の話に耳を傾けることが大事だとし、切磋琢磨できるパートナーとして産との連携を重要視しました。さらに、医療機器開発よりもヘルスケア分野の方が多種多様な業種が関われることを示唆し、「健康まちづくりを進めることによって、地方創生につながる」との考えを示しました。官・金の立場からの要望として、官の大竹氏は、「普段からフランクに話ができる場が必要」だと述べられました。また安藤氏は、縦割りで動いている官や大学に対し、「産学官に横串を刺すような企画が必要。その任を大学にも担ってほしい」と要望されました。金の渡邉氏も、「一般企業から見て、まだまだ官・学のハードルは高い」と指摘。そこで、金融機関が間に入りシーズを結び付ける役割を担うべきと言及されました。
次に柿崎教授は、産学官連携を強化するためのヒントを古川教授に求めました。古川教授は例として、補助金や国のプロジェクトを獲得するために、産・学・官・金が連携して申請書を作成するチームができていることを挙げられました。柿崎教授も「金融機関がその母体となって、まずは講習会を開く必要がある」との考えを示しました。ここで、会場の企業の方にも質問や意見を求めると、郡山市の企業の方から、「漠然としたアイディアを持っている場合、どこにいけばいいのか、具体的な形にしてくれるのはどこなのか、そういう相談ができる先がどこなのか明確にしてほしい」との要望が出されました。これについては、本フォーラムの主催者である郡山地域テクノポリス推進機構の喜古克広氏(写真)が、「橋渡ししている我々組織がどう応えていくかということになる。企業の皆さまの情報を積極的に聞きにいってご相談にのるのが役割だと思っているので、いつでもご相談いただきたい」と答えました。

 

■これからフォーラムをどう進めていくのか

 今後1年間フォーラムをどう進めていくかについて、各代表が抱負を述べました。サステナブル地域づくりフォーラムの岩城教授は、チームを強くするには個々の力が大事だとし、ここ数年は自分のフォーラムを強くすることに注力したいとの考えを示しました。一方で酒谷教授は、3つのフォーラムが共通の目標を持つことで、互いに連携できるのではと述べました。例として、工学部の敷地内にロハスをコンセプトにしてエネルギーとヘルスを盛り込んだロハスの家あるいは老人ホームをつくることを提案されました。古川教授は、産学官連携の橋渡しが一番できるのは大学であるとし、「今日のフォーラムを見て工学部がハブ的な役割になりつつある」と感じられたようでした。また、産学官連携のための資金や補助金獲得の方法について渡邉氏は、「補助金で足りない場合はファンドで資本性の高い資金を導入する取り組みを強化し、地元の金融機関として企業を支えていきたい。またこれからは、技術力のある企業に積極的に資金を供給していくのが役割」という考えを示されました。
 再度、会場からの意見や質問を求めたところ、農業を営む須賀川市の方から、「企業が抱える問題を解決していく、助言いただくといったような勉強会が定期的にあれば」という要望が出されました。それを受け柿崎教授は、現フォーラムへの登録を促すとともに、新たに第4のフォーラムをつくることもできると回答し、早速フォーラム終了後に面談の約束を交わされました。最後に古川教授は、フォーラムの取り組みに大変感銘を受けたと感想を述べられるとともに、大学が外に出ていくことを勧められました。そして「ぜひとも郡山の発展を期待したい」と叱咤激励いただきました。柿崎教授も、「郡山も米沢も、共に発展して世界に発信していければいい。これを機会にもう一歩ステップアップしていきたい」と宣言しました。
閉会のご挨拶に立った柿崎教授は、参加いただいた皆さまに御礼を述べるとともに、「これを機会にさらに産・学・官・金が連携して地域のため世界に向けて発信していけるようにしていきたい。今後とも皆様のご協力ご支援をお願いいたします」と呼びかけ、17回目の産・学・官連携フォーラムを終了いたしました。
 参加された企業の方は、「郡山市と日大工学部のつながりの強さを感じた。そこに企業のニーズを引き込んでほしい」と話されていました。また、機械工学科の学生は「難しい内容なのかと思ったが、先生方の説明がとてもわかりやすかった。これまで知らない分野の話も聞くことができ、目の前の研究だけでなく、もっと先のことを考えながら、いろいろ勉強して活かしていきたい」と抱負を語っていました。

その後、会場では企業の方々と名刺交換や談話する姿が見られました。このフォーラムを通して新たな出会いやより強固な連携が築かれたのではないでしょうか。今後、様々な成果に結びついていくことが期待されます。