工学研究所が共催した『第7回サステナブル地域づくりフォーラム』が開催されました

ロハス工学の考えを取り入れて建設されたクリニックを通して
サステナブルな地域づくりを考える

 10月24日(土)に公益財団法人郡山地域テクノポリス推進機構主催、日本大学工学部工学研究所共催による『第7回サステナブル地域づくりフォーラム』が郡山ビューホテル本館にて開催されました。今回のテーマは、『子育て世代を中心として考えるサステナブル地域づくり』。コーディネーターである土木工学科の中野和典教授を含め、工学部の3名の研究者による持続可能な地域づくりの取り組み等の他、地域の人々も健康でいられる拠点となることを目指し、工学部の『ロハスの工学』の考えを取り入れて診療所を建設された医療法人仁寿会菊池医院の菊池信太郎院長の講演がありました。
まず、コーディネーターの中野教授が登壇しご挨拶いたしました。新しく建設された菊池医院には、これまで工学部が推進してきたロハス工学の研究成果が実装されており、中野教授は「本フォーラムで健康と持続可能をキーワードとする『ロハス工学』が地域づくりにどのように結びついているのかを紹介したい」と主旨を伝えました。

『ロハスを学ぶ自然系教材としてのアクアポニックスの活用』

土木工学科 中野和典教授

 引き続き、中野教授が講演いたしました。演題にもあるアクアポニックスとは、魚の養殖(Aquaculture)と植物の水耕栽培(Hydroponics)を組み合わせたものです。中野教授は、ろ材によって水を浄化すると同時に汚れた水を植物の肥料として利用する『ロハスの花壇』を研究開発しており、それを応用したアクアポニックスは、養殖で汚れた水を水耕栽培で有効活用するシステムになっています。癒しの効果のみならず、植物があることで空気がきれいになり、水槽から水が蒸発することで湿度調整ができるなど室内環境の改善にも役立ちます。中野教授は、子どもたちが自然環境で水がきれいになる仕組みを学ぶための教材として、アクアポニックスを活用していきたいとの考えを示しました。

 

『健康で行こうよ!-医・食×空間≒まちづくりー』

建築学科 浦部智義教授

 次に講演した浦部教授ははじめに10年ほど前に考えた健康をキーワードにしたまちづくりの提案を紹介。その内容が、新クリニック建設における、菊池院長が考えるまちづくりに貢献できるクリニックの在り方や地域に開かれたクリニックを通して子どもたちの健康にも寄与するというコンセプトと合致していたことから、プロジェクトが発足したと説明しました。日本の地方における中心市街地の衰退が課題となっている中で、クリニック・薬局などの医療に関わる建物を通して市街地の活性化を図るといった事例は稀有だと言う浦部教授。菊池医院にロハスな建築・まちづくりの考え方を盛り込みながら、健康や医療を通してまちづくりに寄与することを目指していきたいと意欲を見せていました。

 

『LOHASな舗装~人と環境に優しいみちづくり~』

土木工学科 前島拓助教

 続いては、数少ない道路・舗装分野の研究者で、東北においては唯一とされる前島助教が講演いたしました。新しい菊池医院駐車場には、路面温度の上昇を抑制する遮熱性舗装が実装されていますが、現在、前島助教が取り組んでいるのは、夏季の路面温度上昇と冬季の路面凍結を抑制する、環境負荷低減型のロハスの舗装の開発です。工学部構内に設置した実験装置の結果から、水循環型舗装が融雪・凍結抑制効果が高いことを明らかにしました。今後、遮熱舗装・凍結防止舗装を新薬局側の歩道や駐車場に実装する予定です。前島助教は、この革新的な取り組みは舗装業界から見ても大きな一歩になると強調しました。

 

『持続可能な子どもの成育環境の樹立を目指して~小児科診療所の取り組み~』

医療法人仁寿会菊池医院 菊池信太郎院長

 最後に、菊池院長にご登壇いただきました。菊池院長は、今、日本の子どもたちの心と体の健康、子育てをする環境、子どもが生きる成育環境が持続可能でないと指摘。健康と生活を持続可能にする地域創りと子どもを第一に考えることが大事であり、大学、産業、行政が連携し持続的キャンペーンを展開していく必要があると伝えました。そして創立70周年を機に新しいクリニックの建設を決意し、産学連携プロジェクトである『Smart Wellness Town PEP MOTOMACHI』を立ち上げました。本プロジェクトは、地域の子どもの健康を守り育み、地域の子育てを支援し、街を活性化する基地づくりを目的としています。ロハス工学の考えを取り入れ、これまでの診療所のイメージに捉われない「まちの保健室」+「街の賑わいの拠点」を目指していきたいと述べられました。

 

『ロハス工学』が地域づくりに
どのように貢献しているかを体感

 講演終了後、令和2年6月に新築された菊池医院の見学会が行われました。ロハス工学の研究成果がどのように実装されているのかを見ようと、学生たちも参加しました。まずは玄関口へと続く歩道に、前島助教の説明にあった遮熱性舗装が施されていました。病院のイメージとは違う全面ガラス張りの印象的な外観。建物の中に入ると、木の温もりに包まれた空間が広がっていました。浦部教授は、接着剤を使わない縦ログ工法で建てられていると説明するとともに、木育の観点から階段に素材の違う様々な木材を使用していることも付け加えました。スタッフと子どもの遊び場が設けられている2階のスペースは、実験教室や講習会等にも利用されており、診療所としてだけでなく、まちの活性化につながる取り組みも実践されていました。そして、中野教授が開発したアクアポニックスでは、金魚が気持ちよさそうに泳いでいました。見学者の方々はクリニックの環境に触れながら、『ロハス工学』の技術や考え方を体感しているようでした。

 臨床工学技士課程を履修している電気電子工学科の学生は、ロハス工学が地域社会にどう活かされているのか知りたくて参加したそうです。「病院と言えばコンクリートで造られているのが普通ですが、木材を使うと温かく感じられますね。ロハス工学が建物や道路など生活の中に活かされていることが分かり、勉強になりました」。また、土木工学科の学生は、「自分たちが学んでいる技術がどのように役立っているのか実際に見ることができて、大変実になりました。持続可能な社会を実現するために、ロハス工学の技術を広めていくのが私たちの役目。もっと質の高い研究に挑戦したいです」とモチベーションも高まっているようでした。子どものための病院の在り方について学びたいと思い参加した建築学科の学生は、「開放的かつアットホームな木の空間に心地よさを感じました。まちづくりの視点や建築以外の多角的な技術についても学ぶことができました」と話しており、学生たちにとっても有意義なフォーラムになったようです。見学者の方々の関心の高さを感じながら、菊池院長は、「診療所としてだけでなく、建築的な観点からも意義のあるものをつくっていきたい。そういった意味でも市民の方々に興味を持っていただき、大変よい機会になりました。『まちの保健室』を目指し、本町の活性化につなげていきたい」と話していました。浦部教授も、「ロハス工学を含め、いろいろな角度から菊池医院の魅力を知ってもらえたことは大きな収穫。病気にならなくても行きたくなるという声も聞かれ、まちづくりを進めていくうえでよいスタートが切れました。これからどう価値を高めていくか、さらに展開を図っていきたい」と抱負を語っていました。 
 今後も菊池医院のプロジェクトが活動を続けていく中で、持続可能な地域づくりに『ロハス工学』がどのように貢献していくのか、益々期待も高まっていくことでしょう。