米国機械学会最優秀論文賞を受賞しました

地中熱利用ヒートポンプシステムの研究開発が
国際会議において学術的にも高く評価される

 米国機械学会(American Society of Mechanical Engineers)が主催する『ASME2018Power&Energy Conference Exhibition』が、6月24日から28日かけて米国のフロリダ州で開催され、その中の一つの会議である『Energy Sustainability Conference』において、機械工学科再生可能エネルギーシステム研究室の平博寿研究員を筆頭著者とする学術論文が最優秀賞『The Best Paper Award』を受賞しました。化石燃料や原子力発電、再生可能エネルギー、燃料電池などの分野の会議が合同で開催されるこの国際的な会議の中で、『Energy Sustainability Conference』では、持続可能なエネルギー、エネルギー貯蔵に関して100件を超える論文発表が行われました。その中から、厳正な審査を経て2編に対し『The Best Paper Award』が授与されました。平さんが発表した『Enhanced Ground Source Heat Pump System with Thermal Storage System』(平博寿研究員、佐藤貴志研究員、柿崎隆夫教授、小熊正人特任教授)は、日本大学本部学術研究助成金による社会実装研究テーマ『一般住宅向け地中熱利用ヒートポンプシステムの蓄熱利用による高効率化技術の研究開発』(2017~2018年度)による研究成果でもあります。平さんは2016年度に工学研究科機械工学専攻を修了後、研究員として本研究室に所属しています。
平さんに喜びの声とともに、研究について詳しくお話を聞きました。

 

―The Best Paper Award受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

ありがとうございます。私がフルペーパーや英語の論文を書くのはこれが初めてでした。もとより英語は得意ではないので、提出した論文の査読でさえ通過できるか否か不安でしたから、私の論文がベストペーパーに選ばれたことに大変驚いています。受賞できたのは多くの皆様のご指導とご支援の賜物で、とりわけ研究資金の獲得や研究の進め方そのものを丁寧かつ厳しく指導して下さった指導教授である機械工学科の小熊正人特任教授、論文に関連するデータ取得を支援してくださった研究員の皆様、さらに英語の添削や発表の練習をご指導くださった金城真紀コーディネータ(現研究員)には大変お世話になりました。改めて御礼申し上げます。
 また、会議では20分の講演も行いました。前述のとおり英語は得意ではないので、かなり練習して臨んだのですが、案外すんなり終わってしまい、少し拍子抜けした感もありました(笑)。それでも、日本国内で行われる学会とは違って規模が大きく、さすが国際会議だなという印象でした。初めて経験した世界の舞台で最優秀賞をいただけたことは、今後の研究活動への大きな励みになります。

 

―研究について詳しく説明いただけますか。

私たちの研究室では、地中熱を活用した省エネ型熱供給システムの商業化技術の開発を行っています。このシステムはヒートポンプを中心とした冷暖房/給湯用の温水/冷水などを効率よく供給するシステムです。現在、郡山市の住宅や湖南町にある旧赤津小学校の実験場のデータを遠隔で取得しながら、改善のための実験を進めています。熱需要が小さいと、稼働/停止の運用モードしかないヒートポンプは間欠運転するので、熱需要に応じて出力を調整するインバータ制御ヒートポンプの導入が必要だと思われます。熱需要が小さい場合に、この方式が有効かどうかを検討した論文報告は見受けられませんでしたが、実際の住宅でインバータ制御ヒートポンプでも熱需要が小さい場合には間欠運転することが確認されました。そこで、人工的な熱負荷変動を再現し、蓄熱技術を導入することで、間欠運転を防止できるか検討を行いました。その結果、蓄熱装置をヒートポンプの上流に設置することで、間欠運転する熱需要条件でも連続運転が可能になりました。これにより、ヒートポンプの効率は蓄熱装置がない場合と比較して13%高い結果を得られました。

 

 

―どのような点が評価されたと思われますか。

評価された点は、本研究の構成だと思います。論文の根幹となる部分をしっかりと抑えた上で研究内容を記載したことが、ベストペーパーに選ばれる要因につながったと考えています。まずは課題を捉えて、自分なりの解決のアイディアを固めました。また、私たちの研究に近い分野で報告されている論文を可能な限り集めました。それにより、この分野の全貌を把握でき、誰が何の研究に取り組み、どのような研究が不足しているか、さらに私たちの研究の意義がどこにあるのか、それぞれ詳細にまとめることができました。最も時間をかけた論文調査と論旨構築は、論文執筆時間の7割を占めています。英文書も校正の援助を頂きつつ、読者が理解しやすいように腐心したことも評価につながったと思っています。

 

―今後の目標についてお聞かせください。

 この研究は社会への実装を達成目標としています。そのためには蓄熱装置をいかに効率よく安価にして導入できるか否かが鍵を握っています。試験ではい良い結果が出始めています。また、この成果は既に山形県の一般住宅に導入実装され、今後は沖縄県の住宅への導入も予定されています。研究成果の一つが今回の受賞となったのですが、これに満足することなく、最終ゴールである機器導入まで辿り着けるよう引き続き努力していきます。

 

―ありがとうございます。今後の活躍も期待しています。

 

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