平成28年度土木学会賞技術賞受賞

橋梁の長寿命化を目指す産学官連携プロジェクトの技術が高く評価される

 この度、土木工学科コンクリート工学研究室(岩城一郎教授・子田康弘准教授)が係わったプロジェクト『東北地方における高耐久RC床版の施工』が、平成28年度土木学会賞技術賞を受賞しました。公益社団法人土木学会は1914年に設立された歴史ある団体で、会員数約3万6千名は工学系の学会の中で最大規模を誇っています。その土木学会において、最も権威ある技術賞に選ばれたことは大変栄誉なことです。本プロジェクトは、今後の道路橋のライフサイクルマネジメントにおいて大きく貢献することが期待されることから、技術賞に値するものとして認められました。国土交通省東北整備局を中心とする産学官連携により、東北地方の復興道路建設における高耐久性RC床版の施工を実現したことは画期的で、その技術の高さに注目も集まっています。
 また、このプロジェクトの立役者である国土交通省東北整備局の佐藤和徳氏が、この度、日本大学工学研究所教授に就任されました。その佐藤氏と岩城教授の喜びの声とともに、技術賞を受賞したプロジェクトについて詳しく紹介します。

プロジェクトメンバー(写真左から):子田康弘准教授(日本大学工学部)、岩城一郎教授(日本大学工学部)、田中泰司客員研究員(東京大学生産技術研究所)、佐藤和徳教授(日本大学工学研究所)

技術賞:『東北地方における高耐久RC床版の施工』               

本プロジェクトの背景

 国土交通省東北地方整備局では、“復興道路”をテーマに、三陸から福島に掛けて約360kmの道路建設を計画。建設にあたっては短期間に工事を実施するだけでなく、耐久性の高い構造物を造ることが求められていました。東北地方は他地域と比べて交通量は少ないにもかかわらず、凍害防止剤散布による道路橋鉄筋コンクリート製(RC)床版の劣化が著しく、いかに耐久性を確保するかが課題となっていました。これまでは建設コストの面などから、高性能RC床版の導入になかなか踏みきれなかった国土交通省でしたが、早期劣化の実態を踏まえ導入を決断。当時、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で取り組まれていた『道路インフラマネジメントサイクルの展開と国内外への実装を目指した統括的研究』(研究責任者 東京大学 前川宏一教授)プロジェクトを母体とし、発注者である「官」、施工者である「産」、技術支援「学」という産学官連携により、わずか1年半という短期間での試行工事を実施したのです。

高耐久性を確保した画期的な設計・施工技術の開発

 道路橋が脆弱化する一番の原因は床版の劣化によるものです。その要因となる、「凍害」、「塩害」、「ASR(アルカリシリカ反応)」、「疲労」に対して、どのような対策を施すかが、復興道路建設の最も重要な課題でした。コンクリート工学研究室では、学内に設置した実物大の橋梁モデルを使って、6種類のコンクリートについて耐久性試験を行い、その中で最も優れていたフライアッシュコンクリートを提案。さらに、最新の研究成果を活用し、劣化の要因に複合的に対応できる多重防護設計による劣化対策を発案しました。フライアッシュは石炭を燃焼する際に生じる灰の一種で、コンクリートに配合することで塩害やASRを抑制できます。しかも、産業廃棄物として火力発電所から大量に排出されることから、環境負荷の低減という観点においても有効です。

 実物大に近い橋梁モデルを使った屋外環境下での実験や輪荷重走行試験機を使った交通荷重による劣化状況を再現できるのは、国内で日本大学工学部だけだと言っても過言ではありません。その実験成果により、実際の道路橋の状態に近い高精度のデータを構築。さらに、東京大学での良質なデータ解析により100年先の劣化予測まで可能にしました。これにより、最も信頼できるコンクリートとして、国土交通省東北地方整備局が採用を決定したのです。コストの面では、従来よりも26%高くなりますが、30年で壊れて造り替えた場合、4倍近くの費用が掛かることを考えれば、将来的には安くなるという見通しが立ちます。今まで施工前にこうした検証を行ったことはありませんでしたが、「学」が加わることで事前に精度の高い性能評価ができることを示しました。
 多重防護の高耐久性RC床版が高く評価されたのはもちろんのこと、このような新しいコンクリートを現場に実装させた施工技術も高い評価を受けました。未知の材料であるため、これまで施工実績がないことから、何度も試験施工を行い施工方法や養生方法を確認し、本番での失敗を未然に防ぐよう対策を講じました。これまで作業員の経験値に頼ってきた施工方法から、品質のばらつきを抑えるために、時間管理を徹底した丁寧な施工を実施。現場の技術者の方々のものづくりへの情熱、良いものをつくりたいというプライドが、新しい施工技術開発を実現へと導いたのです。  2015年3月に第1号の試行工事が行われ、実装後の品質確認試験でも高耐久性を確認。第1号試行工事から設計施工手引きを作成し、その手引きを活用して4つの橋梁工事が行われました。
 このように、多重防護設計によって床版を高耐久化した技術的高度性、「産」「学」「官」連携により短期間で施工を実施し高耐久化にチャレンジした独自性、一般化した 「手引き」を利用し2~4号橋を施工した有用性が評価され、技術賞受賞につながりました。早期劣化の解決により維持管理コストの大幅な削減、 産業副産物の積極利用による持続可能な発展、それに伴う社会資本長寿命化への貢献と将来性から、価値の高い技術であると認められたものと考えます。

最先端の技術を実用化につなげるために

佐藤 和徳 氏(日本大学工学研究所教授・元国土交通省東北地方整備局地方事業評価管理官)

 本事業は、私が東北地方整備局南三陸国道事務所長の職に就いていた時に実施いたしました。東北地方の厳しい環境条件から、何らかの対策を打つ必要性がありましたが、急を要する復興道路において、新しい材料である高耐久性RC床版を導入することは大きな決断でした。提案いただいた多重防護設計のコンクリートは、最も高耐久化を具現化できるものと確信し採用いたしました。この新しい技術に対し、工事を行う現場の技術者たちも、プライドを掛けて施工に取り組んでくれました。「いいものを造りたい」と思う各分野の一流プレーヤーたちが、「復興」というベクトルに集結し、各々の技術力を発揮した結果、画期的な技術につながったものと思います。それが技術賞として認められたことを大変誇りに感じております。改めて、関係各位に感謝の意を表します。
 この度、日本大学工学研究所教授として、研究に従事することになりました。これまで、工事を発注する「官」の立場で問題をどう解決していくかを考えてきましたが、研究の最前線から今後やるべきことは何か、新しい技術をどのように現場に導入していくか、具現化を図っていきたいと考えております。また、これまで携わってきた業務の実績を活かして、現場に必要な技術者の養成にも力を注いでまいります。

ロハスの橋の研究成果が公共事業に活かされたことは大きな意義がある

岩城 一郎 教授(日本大学工学部土木工学科)

 これまでは、産官と学との間には乖離があり、最先端の研究成果が土木現場に活かされないことが課題になっていました。復興道路をテーマとしたこのプロジェクトでは、時短優先ではなく良いものをつくるという主旨に産学官が共感し、それぞれの力を結集して最上級の構造物を造り上げました。その成果が技術賞として評価されたことは大きな意義があります。そして、橋梁の長寿命化を目指したロハスの橋の研究成果が土木現場に適用されたことにより、今後の研究の在り方を示せたのではないかと思っております。
 また、この度、国土交通省東北地方整備局より、佐藤氏を日本大学工学研究所教授としてお迎えしたことで、産学官連携が円滑かつ強固になり、ますます研究実績が地域社会に実装されていくことが期待されます。学生たちにとっても、現場で役立つ実践的な知識を勉強できる貴重な機会となるでしょう。