2020-05

己治癒・自己修復材料開発プロジェクト

プロジェクト画像

料の長寿命化・メンテナンスフリーな社会基盤の構築を目指す

概要

現在、世界のCO2排出量、エネルギー消費量ともに、建設業界がその多くを占めていると言われています。ロハスの考え方を建設分野に当てはめた場合、スクラップ&ビルド(解体と建設を繰り返すこと)を改め、建設物の寿命をいかに長く保つかと考えていかなければなりません。特にコンクリートのひび割れは、様々な劣化現象の原因となるため、その対策が急がれています。そこで本プロジェクトでは、自己治癒に有効とされるバクテリアに着目。コンクリート構造物の長寿命化、メンテナンスフリー化を図るとともに、他の自己治癒能力を有する工業材料や、骨の自己修復を促す医用材料についても検討します。また、積極的に企業との連携を図り、社会実装に向けた新たな材料開発に取り組んでいきます。

活動内容

生命体が持つ自己治癒力は自然界の非常に素晴らしいシステムである。このような自己治癒(自己修復)機能を工業材料に付与することで、長寿命化かつメンテナンスフリーな社会基盤の構築を目指す。
①コンクリートをはじめ、自己修復機能を持った無機材料、有機材料、金属材料とこれらを組み合わせた複合材料など工業材料の開発
②骨の自己修復を促す医用材料の研究開発

活動予定

第1期/モルタルやコンクリートの試験体を用い、自己治癒効果や最適な調合の検討を行う。
第2期/本技術の普及を図り、インフラなどのRC構造物への適用を試みる。


研究活動の概要

自己治癒コンクリートは、供用期間中の人手を要する補修が困難なコンクリート構造物への適用が非常に有効であると考え、令和4年度はトンネルに使用する吹付けコンクリートにバクテリアによるひび割れ自己治癒機能を付与することを目指して検討を実施した。その概要を以下に示す。

(1)培養実験
バクテリアの増殖性に対する急結剤添加が及ぼす影響について検討を実施した。未検討であったpH9におけるバクテリアの増殖性を確認するとともに、2種類の急結剤を添加したサンプルを用意し増殖性への影響を調査する培養実験を行った。その結果、pH9では急結剤添加の有無に関わらずバクテリアは増殖し、本研究で用いた急結剤の添加はバクテリアの増殖性には大きく影響せず、吹付けコンクリートへのバクテリアによるひび割れ自己治癒機能の付与の実現が期待できることが分かった。
(2)模擬トンネル吹付け試験等
模擬トンネルを用いた吹付け試験を行い、バクテリアを添加したコンクリートに急結剤を添加した吹付けコンクリートの急結性状、強度発現性および自己治癒効果を確認した。急結性状および吹付けコンクリートの圧縮強度は、バクテリアの有無に関わらず同程度であり、バクテリアの影響は確認されなかった。また、吹付けコンクリートにおいても、バクテリアによる自己治癒効果と考えられるひび割れの閉塞が確認された。


これまでの研究活動実績を以下に示す。

【査読付き論文】

大橋英紀、川崎浩長、Henk JONKERS、Sanjay PAREEK:微生物を利用した自己治癒コンクリートのひび割れ閉塞工法に関する実験的検討(コンクリート工学年次論文集,Vol.42,No.1,pp.1282-1287,2020)

大橋英紀、川崎浩長、ヘンクヨンカース、サンジェイパリーク:微生物によるコンクリートのひび割れ閉塞作用に関する実験的検討(コンクリート構造物の補修,補強,アップグレード論文報告集,第20巻,pp.315-318,2020.10)

川崎浩長、大橋英紀、Henk JONKERS、Sanjay PAREEK:微生物を利用した自己治癒コンクリートの最適な調合に関する実験的検討(コンクリート工学年次論文集,Vol.43,No.1,pp.947-952,2021)

川崎浩長、Sanjay PAREEK、大橋英紀、春木満:バクテリアを含む改良型の粒を用いたpH条件による繁殖性と添加量によるモルタルのひび割れ治癒性能の検討(コンクリート工学年次論文集,Vol.44,No.1,pp.1126-1131,2022)

李 相勲、Sanjay PAREEK:ネットワーク及び補修剤を用いた自己修復コンクリート梁に対する非破壊試験による自己修復性能評価(コンクリート工学年次論文集,Vol.44,No.1,pp.1120-1125,2022)

川崎浩長、大橋英紀、春木満、Sanjay PAREEK:吹付けコンクリートへのひび割れ自己治癒機能の付与を目的としたバクテリアの増殖性に及ぼす急結剤添加の影響の検討(コンクリート工学年次論文集、Vol.45、No.1、pp.1036-1041、2023)

大橋英紀、守屋健一、田中徹、 パリークサンジェイ:自己治癒材を添加した吹付けコンクリートの基礎物性に関する実験的検討(コンクリート工学年次論文集、Vol.45、No.1、pp.1030-1035、2023)

【口頭発表論文】

大橋英紀、川崎浩長、Jonkers Henk、Pareek Sanjay:微生物を用いた自己治癒コンクリートの基本的性質に関する実験的検討(第74回セメント技術大会講演要旨,1204,pp.46-47,2020)

大橋英紀、川崎浩長、Sanjay Pareek、Henk Jonkers:微生物を添加した自己治癒コンクリートのひび割れ閉塞に関する基礎的検討(令和2年度土木学会全国大会第75回年次学術講演会,V-80,2020)

川崎浩長、春木満、JONKERS Henk、PAREEK Sanjay:バクテリアを用いた自己治癒コンクリートの最適な調合の決定に関する基礎的研究(第75回セメント技術大会講演要旨,3301,pp.242-243,2021)

川崎浩長、春木満、JONKERS Henk、PAREEK Sanjay:バクテリアを用いた自己治癒コンクリートの最適な調合の決定に関する実験的検討(日本建築学会東北支部研究報告集構造系,第84号,pp.47-48,2021)

川崎浩長、PAREEK Sanjay、春木満、JONKERS Henk、大橋英紀:微生物を用いた自己治癒コンクリートの最適な配合に関する実験的検討(令和3年度土木学会全国大会第76回年次学術講演会,V-137,2021)

川崎浩長、PAREEK Sanjay:バクテリアを添加したモルタルのひび割れ自己治癒性能に関する基礎的検討(日本建築学会大会学術講演梗概集,1007,pp.13-14,2021.9)

川崎浩長、春木満、JONKERS Henk、PAREEK Sanjay:バクテリアを用いた自己治癒コンクリートの最適な調合の決定に関する基礎的研究(第46回桜門建築会材料・施工研究講演会,2021)

川崎浩長、春木満、Sanjay PAREEK:バクテリアを添加した自己治癒モルタルのひび割れ閉塞に関する基礎的検討(令和3年度第64回日本大学工学部学術研究報告会,建2-11,2021)

川崎浩長、春木満、Sanjay PAREEK:コンクリートのひび割れの自己治癒を目的としたバクテリアの環境条件による繁殖性(2022年度第85回日本建築学会東北支部研究報告会,報告集構造系第85号,pp.65-66,2022.6)

川崎浩長、Sanjay PAREEK、大橋英紀、春木満:バクテリアを含む改良型の粒を用いたpH条件による繫殖性と添加量によるモルタルのひび割れ治癒性能の検討(第47回桜門建築会材料・施工研究講演会,2022.8)

川崎浩長、春木満、Sanjay PAREEK:コンクリートのひび割れの自己治癒を目的としたバクテリアの性質に関する一考察(2022年度日本建築学会大会(北海道)学術講演会,1048,pp.95-96,2022.9)

川崎浩長、大橋英紀、春木満、PAREEK Sanjay:自己治癒コンクリートに用いる微生物のpH条件による増殖性に関する検討(令和4年度土木学会全国大会第77回年次学術講演会,V-238,2022.9)

大橋英紀、守屋健一、田中徹、川崎浩長、パリーク サンジェイ:ひび割れを治癒する自己治癒コンクリートの微生物添加量に関する一考察(令和4年度土木学会全国大会第77回年次学術講演会,V-239,2022.9)

川崎浩長、春木満、Sanjay PAREEK:コンクリートひび割れを治癒するバクテリアの増殖性に対して吹付けコンクリート用急結剤添加が及ぼす影響の検討(2023年度日本建築学会大会(近畿)学術講演会、1036、pp.71-72、2023.9.13)

川崎浩長、大橋英紀、Sanjay PAREEK、春木満:吹付けコンクリートへのひび割れ自己治癒機能の付与を目的としたバクテリアの増殖性に関する検討(令和5年度土木学会全国大会第78回年次学術講演会、V-740、2023.9.15)

岡田裕平、守屋健一、大橋英紀、田中徹、川崎浩長、パリーク サンジェイ:微生物を用いた吹付けコンクリートの自己治癒効果に関する検討(令和5年度土木学会全国大会第78回年次学術講演会、V-741、2023.9.15)

【受賞】

  • 令和元年度 日本大学桜門建築会 桜建賞 川崎浩長
  • 2021年一般社団法人日本建築材料協会 優秀学生賞 川崎浩長
  • 一般社団法人日本建築学会 材料施工委員会2021年度日本建築学会大会(東海)学術講演会 材料施工部門 若手優秀発表賞 川崎浩長
  • 2022年一般社団法人日本建築材料協会 優秀学生賞 川崎浩長
  • 2021年度日本大学桜門建築会材料施工研究会 笠井芳夫賞 川崎浩長
  • 令和3年度 日本大学工学部長賞 川崎浩長
  • 2021年度日本コンクリート工学会 東北支部奨励賞 川崎浩長

【委員会】

パリーク教授が日本コンクリート協会の「JCI-TC235F コンクリート用自己治癒材の効果とその評価方法に関するFS委員会」に6月2023年から委員に委嘱された。

写真1

コンクリートを養生

写真2

自己治癒に使用するバクテリアを培養

写真3

バクテリアによる修復状況の観察

ロジェクトメンバー

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プロジェクトリーダー

建築学科/教授
サンジェイ・パリーク

【研究分野】建築材料・建築構造

プロフィール
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研究評価・化学分析

生命応用化学科/教授
春木 満

【研究分野】生物分子科学、生体関連化学、生物機能・バイオプロセス

プロフィール
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実験計画・化学分析

生命応用化学科/准教授
内野 智裕

【研究分野】医用生体工学・生体材料学 、無機工業材料 、複合材料・物性

プロフィール