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希望かなえるために、大学院学ぼう

大学卒業後の一つの進路として大学院進学があります。ここ3年、工学部の大学院進学者は増加しています。
今回、根本工学部⾧と工学研究科6専攻の現役大学院生(2021年時点)による座談会を開催し、
工学に抱く夢、研究の楽しさ、大学院進学のメリットを大学院生に話してもらいました。
学部生の皆さん、大学院に進学して、工学を探究してみませんか。 

根本修克工学部長根本修克工学部長プロフィール
小野貫太郎さん小野貫太郎さんプロフィール
印南衣梨さん印南衣梨さんプロフィール
望月涼太さん望月涼太さんプロフィール
阿部友紀さん阿部友紀さんプロフィール
片山正教さん片山正教さんプロフィール
増子和磨さん増子和磨さんプロフィール

大学院に進学した理由は何ですか。

工学部長 それではまず、皆さんが大学院に進学した理由について話していただけますか。

小野さん 私の場合は、学部3年の時に構造・道路工学研究室の橋梁の研究に興味を持ったことがきっかけです。卒業研究を終えて、1年では成し遂げられない内容でしたし、大学院で研究を進める中で企業の方々とお話できたり、別の研究の知識を学べることもメリットだと思い進学を決めました。

阿部さん 私は学部の時に臨床工学技士課程を履修していたので、病院への就職を考えていたのですが、なかなか決まらず、親に相談したら大学院進学を勧めてくれました。所属している生体生理工学研究室で、生体についてトコトン研究してみたいという思いもあり大学院に進学することを決めました。

片山さん 僕はもともと教員志望で、学部1年の時から教職課程を履修し、教員採用試験を受けようと考えていましたが、学部3年の頃から専門的な授業や実験が多くなり、研究にも興味が湧いてきました。分子遺伝学研究室の教授や先輩と話をしているうちに、自分も研究を深めたいと思い、親と相談して進学を決めました。

工学部長 大学院で実際に学んだ研究の手法があると、将来、教員になって中学・高校の生徒さんに化学や理科を教える時にも、説得力が違うと思いますよ。もし今後教員を目指す場合でも、大学院で専修免許状を取得することはメリットになりますから、頑張ってください。大学院2年(以下、M2)の皆さんはいかがですか。

望月さん 最初に、大学院進学を考えたのが学部3年の時でした。バイオメカニクス研究室の『交通事故による死亡者を減らすための研究』に興味を持ち、この研究をより深めるためには卒業研究の1年間では足りないと考えたのが、大学院進学の理由です。

工学部長 望月さんの内定先は一流の大手自動車メーカーでしたね。そうした企業に就職するためには、高い技術力が必要になりますが、大学院に進学することで身につけられたと感じますか。

望月さん 自動車の衝突安全に関わる研究ですので、より安全な自動車の開発につながる研究ができたことは、就職にも結びついていると思います。

工学部長 なるほど。建築学専攻の印南さんはいかがですか。

印南さん 私は建築設備・防災研究室の卒業研究で水害時の避難安全性に関する研究に取り組み、避難シミュレーションを行って避難距離や避難時間、避難場所を考慮しながら地域の安全性について考えたことが大きな決め手になりました。もっと建築の防災について知りたいと思い、大学院進学を決めました。

工学部長 令和元年度東日本台風が発生したのは、印南さんが学部4年の10月で、その後、水害時の学生の行動実態や意思決定過程についてのアンケート調査分析に携わっていましたね。ロハス工学シンポジウムでも報告していただきましたが、そうした経験も今後活かせるのではないでしょうか。

印南さん そうですね。これから災害も増えてくる可能性があるので、建築で住民を守る方法をもっと勉強して、内定した会社でも活かしていきたいと思っています。

第9回ロハス工学シンポジウムで発表する印南さん

工学部長 次は、情報工学専攻の増子くん。

増子さん はい。私の進学理由としては、学部4年で卒業した時点では、自分のストロングポイントや社会人基礎力が弱いなという危機感を持っていて、そこを強めたいと思いました。就活も進めてはいましたが、全く上手くいかず、次世代マルチメディアシステム研究室の先輩に相談したところ、とても親身になってくれました。この研究室の先輩や教授と2年間一緒に過ごして、社会人として必要な人間力を蓄えたいと考えました。

工学部長 増子くんは最先端のIT企業に内定しましたが、やはり大学院で学んだことが大きかったですか。

増子さん そうですね。設計開発の仕事に携わることになるのですが、研究で学んだことが活かされていくと感じていますし、また教授や先輩との意見交換や後輩を指導しながら研究を進めていく中で、社会に出たときに役立つ経験ができたと思います。

博士前期課程1年で履修するロハス工学特論のプレゼンテーション風景

工学部長 大学院進学に際して、周りの反応というのはいかがでしたか。

増子さん 就職から突然大学院進学に変わったので、家族は驚いたみたいです。親は比較的応援してくれていたのですが、兄弟からは「まだ親の世話になるのか」とあまりよく思われていなかった時期もあり、「大学院に進学してもっといいところに就職する」と家族に明言したことで、覚悟が決まったところもありましたね。

工学部長 他の皆さんは、どうでしたか。

小野さん 私はもともと、大学に入学する時から大学院進学を意識していましたが、親は普通に4年で卒業すると思っていたようです。4年になって大学院に行きたいと話したら、「自分で決めたことなら、最後までやり通してこい!」と応援してくれました。

阿部さん 私が家族に進学の相談をしたのは4年の11月頃で、「進学したいなら応援する」と言ってもらい、姉からは「大学院は行った方がいい」と勧められたので決心がつきました。

片山さん 僕も、教員採用試験を受けるつもりだったのですが、大学院進学についても悩んでいることを親に相談したら、「しっかりやりなさい」と後押ししてくれました。決めたのは4年の6月頃でしたね。

印南さん 私も4年の7月頃に親に研究を続けたいと話したら、「頑張りなさい」と背中を押してもらえました。

望月さん 進学を決めた時期は3年の頃ですが、両親も大学院に進学すると就職率が上がるということで、納得してくれたと思います。

工学部長 皆さん、親御さんのサポートがあって決断できたということですね。

大学院進学の魅力や研究の楽しさは何ですか

工学部長 授業中心の学部と研究中心の大学院では、その生活ぶりも変わったと思います。どんなところに大学院の魅力、楽しさを感じますか。

小野さん 大学の中での研究はもちろんですが、山形での橋梁点検や他の施設での実験もあって楽しいですし、いい経験にもなりますね。

阿部さん 大学院では様々な機器を使って研究や実験ができるのも魅力です。それから、教授の紹介で福島県のMBL(メディカルビジネスリーダー育成プログラム)コースに参加しています。医療機器開発セミナーもあり、どのように医療機器を開発していくかについて学外の方と考えながら、交流できるのも楽しいです。

工学部長 最先端の研究に触れながら、学部の卒業研究だけでは味わうことのできない経験が得られるのも大学院の魅力と言えますね。

片山さん 僕も大学院に進学してから論文なども読むようになり、その中で使われている高価な機器や試薬を用いて最先端の研究ができるのは大学院ならではだと思いました。

望月さん 大学院進学の理由は人それぞれですが、皆さんの話を聞いていると、改めて大学院進学にはメリットが多いと感じますね。

工学部長 学部は今ある学問を身につける。それをベースに新しい学問を築いていくのが大学院。新しい発見ができた時の達成感は大きなものになるでしょう。M2の皆さんは、これから修士論文をまとめる時期になりますが、印南さんは学部時代から継続してきた研究をどのようにまとめようと考えていますか。

印南さん 広域避難を主眼において、例えば古川池が氾濫する前と後の避難経路を考えるとともに、工学部の70号館を避難場所とした場合にこの建物の設備をどう使えばよいかをまとめていきたいと考えています。

工学部長 70号館は郡山市の避難場所に指定されていますから、研究成果が地域の皆さんに直接役立つということは大きな意義があると思いますよ。

増子さん 大学院では学部で得られなかった専門的な知識に触れる機会が多くなって、私も含め皆さんも学部生の時より鮮明に自分の世界が広がっていったんじゃないですか。大学院は自分の可能性を広げられる場でもあるなと改めて思いますね。

工学部長 学部との違いで言えば、大学院では一定の研究成果をあげるために、それなりの努力や苦労もされたのではないですか。

小野さん 後輩への指導もあり、研究の内容も深くなり勉強も大変になってくるし、時間も掛かりますが、その分、大学院での経験から得られるものも大きいと思いますね。

工学部長 研究の進め方も研究室によって異なるのではないですか。

望月さん 研究室全体で取り組む研究テーマの場合、4年生が研究内容をしっかり理解できるように丁寧に説明しながら進めるということが重要になってきます。独自の研究テーマの場合は、興味のある分野に対して自分で調べながら研究を進めていくという形です。

工学部長 皆さんは社会に出た時、リーダーとして活躍しなければいけない立場になるので、そうした後輩への指導経験は絶対必要になるでしょうね。

増子さん 私の研究室では、自分の研究以外にも内容の異なる企業との共同研究に関わったり、後輩の研究の指導をしたり、かなり忙しくて、そこは大変だなと感じるところです。限られた時間の中で、自分の研究の成果をあげながら、後輩の研究も成果を出さなければならない。また、共同研究ではスケジュール調整しながら、上手く進めていくというのは大変ですが、達成感があり大学院の充実しているところだと感じます。

工学部長 私も学生の頃、教員から「自分の研究に関しては教員よりも深く知らなくてはならない」と言われていましたが、実際に大学院で研究して「なるほどそうだな」と思いました。今、私が教員の立場になって学生にもそう話すようになったのですが、皆さんは指導教員とはどのように関わっていますか。

片山さん 私の研究室では週に1、2回、自分の実験テーマについてディスカッションしています。いい意味で先生との距離が近くて、自分の意見をしっかり聞いてくださった上でアドバイスもいただけます。研究室でのディスカッションは他の研究についても知れて見聞も広げられるので大事だと思います。

阿部さん 先生とディスカッションしながら、自分の知識不足を痛感することがありますが、先生から情報収集の手法や勉強の仕方についてアドバイスがもらえるので、有意義な時間になっています。

工学部長 大学院生になると、学会で発表する機会も増えてきますし、優れた発表に対して評価をいただくこともあるかと思いますが、そうした経験はありますか。

望月さん 研究室全体で進めている研究テーマのひとつ『胸部傷害評価のための骨折する人体ダミーの構築』を私が代表で発表した自動車技術会春季大会で学生ポスターセッション優秀賞をいただきました。自動車衝突試験用のダミー人形を作製し、胸部傷害を評価する研究です。受賞によって研究が評価されたのは有意義な経験でした。

工学部長 受賞した時はどんな気持ちでしたか。

望月さん 研究が世間に認められたと感じました。

工学部長 社会に役立つ研究だと認められて、達成感もあるということですね。

望月さんの「自動車乗員の障害評価のための新型人体ダミーの研究」

今後成し遂げたいこと、将来の夢は何ですか。

工学部長 皆さんは、これから達成したい夢や目標はありますか。

小野さん 大学院で達成したい目標は、3年間取り組んできた研究で大きな成果を出すことです。問題となっている橋梁の維持管理についてその方法を確立し、世の中のためになるような成果を残したいと思っています。

工学部長 持続可能な社会に役立つロハス工学を体現できる成果をあげたいということですね。

阿部さん 今の研究で新たな発見をすること、そして学会で発表し評価してもらうこと、さらに国際学会でも発表してみたいと考えています。

阿部さんが参加したロハス工学ヘルスケアデータ解析プロジェクト

工学部長 大学院に進学すると国際会議で発表できる機会もありますから、国内だけでなく世界中の研究者と直接触れ合うことができて、貴重な経験になるので、ぜひ実現してください。片山くんはどうですか。

片山さん 僕はそうですね、自分の研究から新たな発見をすることにも興味があります。また、学会で賞をもらうことは、いろいろな人に認められたということにもなるし、学会で発表できるのは大学院生のメリットでもあるので、たくさん発表したいです。欲を言えば賞も取りたいなと思っています(笑)。

工学部長 研究の内容を高く評価してもらえるということでの達成感もありますから、それを目指していきたいということですね。M2の皆さんは、これから社会に出るにあたって、どんな夢を持っていますか。

望月さん より安全な自動車を開発したいと考えています。交通事故の死亡者は年々減ってはいますが、まだ3,000人ほどいて、そのために様々な研究がされていることを知り、もっと減らせるように自動車開発に携わっていきたいと考えています。

工学部長 これから益々、高齢化社会が加速していく中で、いかに安全な自動車社会をつくっていくかは重要ですね。印南さんと増子くんはどうですか。

印南さん 私は防災の研究に携わっているので、将来は火災や水害に強い建築をつくりたいと思っています。

増子さん 私の内定した会社は、気象や新型コロナウイルス感染経路のシミュレーションなどにも使われるスーパーコンピュータをつくっていて、直接社会貢献に関わることができます。スーパーコンピュータに自分の発想を取り込んで、誇りを持てる開発に携われたらと思います。

工学部長 スーパーコンピュータの開発などが、災害から人を救うようなことにも使われるように、プログラミングというのは目には見えない世界ですが、情報工学も社会貢献できる分野であることがわかりますね。

大学院のサポートで役立っていることはありますか。

工学部長 工学部では大学院進学の際に、院生の皆さんが経済的なサポートを受けられるような環境づくりをしていますが、実際にこういうサポートがよかった、こういうサポートが欲しいといった意見があれば、お聞かせください。

増子さん 大学院生は学部の授業の補助にあたるTA(ティーチングアシスタント)という業務で報酬をいただけるので、有難いなと思います。TAを行うことで学部生に教える力も養えるし、貴重な経験になります。

工学部長 TAは経済的なサポートだけでなく、自身の成長にもつながるということですね。

片山さん 私は大学院進学の際、利息のかからない日本学生支援機構の第一種奨学金を利用しましたが、そういう制度があると進学しやすくなると思います。

工学部長 皆さん、日本学生支援機構の第一種奨学金には返還免除制度があることを知っていますか。研究成果や成績によって返還が免除される制度なので、研究を進める上でのやりがいにしてもよいかと思います。学会で賞をもらうこともポイントになるので、ぜひ頑張ってください。

就職活動における学部と大学院の違いは何ですか。

工学部長 M2の皆さんは大学院生として就職活動をしたときに感じたメリットはありますか。

望月さん 面接の質問の中で、どういう研究をしていますかと聞かれることが多くて、研究に関してはしっかり答えられるので、その点は良かったと感じました。

工学部長 学部生ですと、卒業研究が始まって間もなく、まだ内容もしっかり理解できていない状況の中で就活をしなければならない。やはり最先端の技術を必要とする企業からすれば、大学院で学んできたことを重要視するでしょうね。

印南さん 私は大学院で防災設備の研究をして、建築をもっとよくしたいという気持ちが学部生の時よりも強くなったと思います。それが会社の方にも伝わって内定をいただけた可能性もあるかなと感じました。

増子さん 研究自体が自分の強みだと感じ、自信を持って企業にアピールできたと思います。私が会社に入ってやりたいことも説得力がある形で伝えることができました。早い段階でリクルーターと接触して対策できたことは、学部生の時との大きな差かなと思います。

大学院を目指す方へのアドバイスはありますか。

工学部長 これから大学院を目指す後輩に、先輩から何かアドバイスはありますか。

片山さん やはり、なんとなくではなく、研究がしたいという信念を持って大学院に進むことが大事です。それによって研究についてより深く追究できると思います。

工学部長 しっかりとした目的意識を持つということですね。

印南さん 大学院では研究がメインになりますが、研究を楽しむことで、やる気や頑張る気持ちにつながると思います。

工学部長 工学部の女子学生の割合は少なく、大学院では更に減ってしまいますが、大学院進学によって男女問わず活躍の場が増えるので、印南さんのように女子学生の方もぜひ進学してほしいですね。

小野さん 大学院の授業への不安もあると思いますが、基本的に学部の授業の延長線上にあるものだから、学部でしっかり勉強していれば問題ないと思います。

工学部長 化学の世界では「セレンディピティ」という言葉を使いますが、それはやはり一定のレベルにある人が使える言葉だと思います。何もないところからは何も生まれない。基盤となるものをしっかり身につけておくことは重要ですね。

望月さん アドバイスと言いますか、学部の4年間は授業を受動的に聴いて学ぶことが殆どですが、大学院では自分の興味のあることに対して能動的に調べていくことが重要になるので、そこが最大の違いになります。

増子さん 自分で考えることが増えていくのが大学院。私も、学部生の時から自分で調べる習慣を身につけておくことが大事だと思います。今、業界で何が求められているのか、就活に向けて企業調査も必要になりますし、大学院に進学して準備を整えるためにも、今のうちから調査していくことが大事だと感じますね。

工学部長 自分の専門分野以外でも、知的好奇心を持って様々なことに取り組んでいくのが重要になってきます。まさに大学院は、日本大学の理念である「自主創造」をしっかりと自分でつくりあげていく場であり、それが社会でも役立っていく。ぜひ自主創造の精神で、活躍の場を広げていただきたいと思います。皆さん、受け答えもしっかりしていて、大学院生らしい座談会になったと思います。これを通して学部生、高校生の皆さんには、大学院進学の意義を感じてもらえたのではないでしょうか。今日はどうもありがとうございました。