材料理工学における研究成果と学会運営での功績が高く評価される

 この度、総合教育の藤原雅美教授(写真前列右)が第18回軽金属学会功労賞を受賞しました。2016軽金属学会功労賞軽金属学会(The Japan Institute of Light Metals)は、アルミニウム・マグネシウム・チタンなどの「軽金属に関する学術・技術の進歩発展を図り、工業の発展に尽くす」ことを目的として設立された軽金属に関する我が国唯一の学術団体です。
 藤原教授は永年にわたり材料理工学の教育・研究に携わる中で、自ら測定原理(特許取得済)を開発した精密測定機器を駆使して、高温材料特性の解明に取り組み、その研究成果の一部は軽金属学会誌における解説論文にもまとめられています。また、軽金属学会評議員、学会誌編集委員、高橋記念賞・希望の星賞等の審査員、全国大会実行委員として学会運営に尽力するなど、軽金属学における功績は極めて顕著であると評価され、この度の受賞に至りました。5月28日(土)、大阪大学で開催された軽金属学会第130回春期大会定時総会において表彰式が執り行われ、藤原教授に賞状・賞牌並びに記念品(金時計)が授与されました。藤原教授の喜びの声とともに、これまでの研究活動についてお話を伺いました。

― 軽金属学会功労賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 第18回軽金属学会功労賞image003大変名誉ある賞をいただき、身に余る光栄と思っております。また、これまでの来し方を振り返えると、万感の思いがこみ上げてきます。35年も前の話になりますが、私の大学院の恩師である麻田宏先生にご推薦をいただいて群馬県の太田市にある自動車製造会社に3年ほど勤めた経験があります。コンピュータシミュレーションによる車体構造開発が業務でしたから研究に近い内容ではありましたが、日に日に大学で研究したいという思いが強くなっていきました。すでに所帯も持っていたので、その職場を辞するには相当の覚悟が必要でした。その後、日本大学工学部へ就職し、広川先生や小野沢先生の薫陶を受けることになるのですが、その際、麻田先生から頂戴したお手紙の一文が、私の教育・研究活動の原点になっています。

『・・・学生生活に奔走すれば研究が進まず雑用と研究との振り分けに悩みはあるが、利潤の
追求がないだけのんびりした世界です。 自ら使命感を持して、頑張られますことを祈ります。』

 この筆書きの書面は額に入れて今も私の書斎に掲げられています。現在とは大学を取りまく環境が大分異なるため、そのまま読み取る訳にはいきませんが、この言葉を胸に刻み、土曜もほとんど休まずに研究と向き合い、こつこつと積み上げてきたことが報われたのだと思うと感慨無量です。自分が浅学非才であることを十分に知るだけに、これまでご指導いただいた先生方に深く感謝しています。また、私の教え子で共同研究者の高木秀有先生や大学院生たちの若い力があったからこそ、ここまで積み上げてこられたのだと感謝しています。

受賞にあたって、どのような点が評価されたと思われますか。

 これまで材料理工学の教育・研究に携わる中で、企業と共同開発した精密測定機器を駆使して、計装化押込み試験とモデリングによって米粒ほどの微小サンプルから高温クリープの変形方程式をある確度で予測し、結晶性材料の高温変形律速メカニズムを解明できることを示しま第18回軽金属学会功労賞image005した。そうしたユニークな測定技法を駆使した研究成果に対して一定の評価をいただけたものと理解しています。また、軽金属学会の運営面での寄与も大きな評価項目になっていると思います。まず、東北支部役員(評議員)として、学生会員数の増加を期して支部主催の専門家講演会を、一般学生を対象とするものまで含むよう趣旨を改めました。第一線で活躍中の研究者や開発技術者の実践的な講話を授業の一環として聴くことは、機械材料に興味を持つ学生にとって大変意義深いことです。これが契機となり、他の支部でも学生対象の講演会を開くようになりました。また、卓越した技能者を顕彰する『高橋記念賞』や未来を担う大学院生を奨励する『希望の星賞』の選考委員としても永く関与しました。『軽金属』東北支部特集号では、編集員として尽力しました。東日本大震災のあった年の暮れに開催された創設60周年記念講演会では、実行委員として東北支部会員の奮起を促すとともに、風評を排除し、復旧・復興の様子を全国の学会関係者に伝わるように努めました。さらに、第128回春期全国大会では実行委員として同大会を成功裡に導くなど、軽金属に関する様々な貢献が評価されてこの度の受賞につながったのだと思います。

― これまでの研究活動と今後の目標についてお聞かせください。

 2000年にNUBICを通して国内初のTLO技術移転第1号となった計装化押込み試験装置(製品名:マイクロインデンター)の開発を始めたのが、1995年頃でした。自分がチャレンジすべき研究テーマが見つかり、それに向かって取り組んでいましたが、なかなか良質なデータが得られず、苦悩していた時期でした。そんな時、大きな転機となったのが工学部から派遣された海第18回軽金属学会功労賞image0011外留学でした。2002年から2003年にかけて約7カ月間、米国マサチューセッツ工科大学で客員研究員として研究生活を送ったのですが、ここでの経験がその後の私の研究スタイルに大きな影響を及ぼしています。この写真は世界中から集まった飛び抜けた3人の秀才(左からオーストリヤ、チェコ、スイス)に囲まれた普通の日本人(当時50歳)です。帰国後、“実験”を柱に、“コンピュータシミュレーション”を並行して行う研究システムの構築と研究環境の整備に注力しました。当研究室には機械工学専攻と情報工学専攻の大学院生が滞在しています。ある研究テーマについて、私が“理論”によって道筋を示し、研究室メンバーが“実験”と“シミュレーション”の双方からアプローチして結果を導き出します。この研究手法(LEXCOMと名付けました)によって少しずつ成果があがるようになりました。今すぐに役立つような研究テーマはやらない。なぜなら、直ぐに役立たなくなるから。少しハードルは高くなるけれど、私たちの出来る範囲で波及性の高い研究テーマに取り組もう。そうやって15年近くが経ちました。2006年と2012年、全員の力で日本金属学会から論文賞を受賞することができました。
 2011年から文部科学省科学研究費補助金(新学術領域研究)に採択された『シンクロ型LPSO構造の材料科学 ―次世代軽量構造材料への革新的展開―』の研究分担者の一人として、長周期積層構造相を有するマグネシウム合金に関する高温変形機構の研究に取り組んでいます。今年の目標ですが、次世代マグネシウム合金に関するこれまでの研究成果をまとめ、残された研究時間の中で、2本の論文として仕上げるのが当面の目標です。

― どんなところが研究の魅力ですか。

 研究で予想通りにいくのは10回に1回ぐらい。あとの9回は失敗の連続です。研究過程で大切なことは、失敗してもへこたれないこと、タフな精神力を培うことです。機械材料でも、強すぎると脆いのですぐに割れてしまう。弱さが展延性を生むのです。ポキッと折れない粘り強さ(靭性)=タフな精神力が、研究にも必要なのです。失敗はタフネスを身につけるために天から第18回軽金属学会功労賞image007与えられた試練だと思えば、決してマイナスではない。そうした経験を積み重ねていくうちに、見えてくるものがあるはずです。どこかから直感が働いて答えの在処が予想できるようになり、それを確かめたいという思いが強くなってくるのです。ワクワク感が芽生えて、どんどん面白くなってきます。夜寝ながら考えていることもあります。ただし、若い頃と比べて体力と集中力が衰えていますから、若人の協力を得なければ何事も実現できません。毎週金曜日の定例ミーティングで研究の醍醐味を味わいつつ、最近は若い人の成長を目の当たりできることが楽しみになってきました。大学院生にとっても研究成果が学会で認められれば、大きな自信につながります。先ず、顔つきや雰囲気が一変します。当研究室の大学院生たちは学会での研究発表(口頭発表やポスター発表)が評価され、数々の賞(この5年間で5件)をいただいています。それが励みとなって、実社会でも活躍しているようです。私はそれを大学教員として誇りに思っています。研究を通して“人材”をつくること、それも大きな魅力と言えるでしょうね。

― 学生たちにメッセージをお願いします。

 第18回軽金属学会功労賞image0009学生時代は狭い分野に閉じこもらずに、いろいろなものを吸収するつもりで臨んでほしいと思います。未知の問題に遭遇したとき、それを解決する糸口となるのはテクニカルなものではなく、文学や歴史、哲学といった教養から学んだ根源的なものです。理工系の学生であるからこそ、文系の知識を大切にしてほしい。学生時代に培った一般教養が迷妄を排除し、正しい答えを導き出すための判断力の涵養につながっていくものと思います。また、良質な人間関係を築くことも大切です。親友から学ぶことはたくさんあり、それは貴重な財産にもなります。是非様々な経験と知識を蓄えて、社会人として立派な人間になってほしいと願っています。

―ありがとうございました。今後益々のご活躍を祈念申し上げます。

 

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