2015.03.10image002知的探求のための
映画批評リテラシー

 

この度、総合教育の植竹大輔教授が『思考へ誘う銀幕の残像-複眼の映画批評』(金星堂)を出版しました。植竹教授は文学を映画や絵画などと比較・研究する比較文化論と映像芸術として映画を研究する映画論に取り組んでいます。この著書は、映画を表現芸術として批評するための思考に導く視点を提供することを目的に書かれたものです。そこに込められた思いや本書の内容について、植竹教授に語っていただきました。

 

表現芸術として映画を観るための手引書として

映画には、観客の心に訴えかけるさまざまなテーマが込められています。それを効果的に伝えるために、映画理論や映画文法に基づいた巧みな表現を駆使した多彩な演出が施されています。シリアスな文芸作品からSF、アニメなどの娯楽作品に至るまで、実は映画理論に基づいた表現手法と論理的な計算によって作られているのです。意図的に画面の随所に仕掛けられた企みを意識せずに漠然と鑑賞しても十分に映画を楽しむことはできますが、巧みな演出を知った上で作品を観ると製作者の意図を的確に捉えることができるとともに、映画評論家のようにより深く理解し批評することもできます。この著書は、映画が持つ表層的な話題性や感覚にとらわれて作品を理解するのではなく、監督や製作者の意図を深く咀嚼・吟味する芸術的思考に基づいて批評していただくために執筆したものです。

副題にある「複眼」は、各章で提示されるさまざまな視点に基づいて多角的に作品をとらえ、映画を批評してほしいというメッセージでもあります。その意味で、本書は『知的探求のための映画批評リテラシー』と名付けることもできるでしょう。

 

言葉を読み解くように、映像を読み解く面白さを追究

映画が作られ始めた初期のものから昨年公開されたものまで、約150本の作品を紹介しながら、映画専門用語や映画理論に関する基礎的な知識、技術的な映画手法をわかりやすく解説しています。また第1章から第10章まで、それぞれ独立した内容になっていますが、前後の章と関連する論旨を鏤めてその繋がりを辿れるように、主観視点、客観視点、時間、メタファー(隠喩)、捏造、信憑性そしてジャーナリズムなどのキーワードを意図的に配置しています。章を追うごとに、いくつかの映画文法を体系的に理解することもできるでしょう。また、映画の表現手法が言語に似ていることも本書を読むとわかります。例えばアメリカの自由の女神の映像を使って、自由を得たことをイメージさせる効果は、言語分析に使うメタファーと同様の映像テクニックです。しかし監督の意図によってメタファーが物語のテーマそのものを表現していることもあります。境界として頻繁に使われるドアや扉ですが、ドラえもんの“どこでもドア”とナルニア国物語の“ワードローブのドア”では、そこに込められた意図がどう異なるのか。こうしたメタフォリカルな表現をあげて、製作者が何を伝えたいのかを解説しています。言葉を読み解くように、映像を読み解く面白さを追究している点も本書の特徴と言えるかもしれません。さらに、各章ごとに独自の考え方による新しい解釈で、個々の映画に対する論評も加えました。映像や文学という芸術性や同性愛や移民という時代性まで思考する醍醐味を味わうこともできるでしょう。

巻末には映画用語と映画作品のインデックスを掲載しましたので、映画をより深く理解するためのガイドブックとしても大いに役立つことと思います。

 

『思考へ誘う銀幕の残像-複眼の映画批評』目次

1  「モキュメンタリー映画の変遷 ―捏造と洗脳―

2  「ドキュドラマの功罪 ―信憑性とジャーナリズム―

3  「映像テクニックとしてのメタファー ―解釈と齟齬―

4  「共通言語としてのドア ―自我の目覚め―

5  「メタファーとサスペンス映画 ―ヒッチコック監督の倒叙法―

6  「時間操作の手法 ―クロノスとカイロス―

7  「ワン・ショット映画の可能性 ―空間と時間への新たな発想―

8  「被写体と台詞の排除 ―刺激されるイマジネーション―

9  「試行を繰り返す群像劇 ―有機的な絡み合い―

10 「映画と原作が映し出す時代性 ―2つの『欲望という名の電車』―

 

アカデミックな映画理解のステップに

 2015.03.10image004これまで映画論を研究してきましたが、映画文法の中で作品のテーマを読み取れる視点とは何かと考えいくつか取り上げていくと、実際に映画のテーマを把握することができました。こうした映画批評の視点に関する著書を執筆しようと思い立ち、それから約5年の歳月をかけて、複数の学術論文から抽出した映画文法を体系的にまとめあげ、全体の構成を整えました。関連する映画の写真も多数掲載し、研究者だけでなく、幅広い方々に知的な満足感を提供できるようにわかりやすく編集しています。何より、映画を愛して止まない私自身がこの著書を楽しんで作りましたから、映画を愛する皆さんにはきっと喜んでいただけるものと思います。

ジェームズ・モナコは、観客は「享受者」ではなく、「参加者」であるべきだと言います。私の著書が皆さんの主体的でアカデミックな映画理解へのステップになることを願っています。