英文法「5文型」の歴史と理論を
科学的に考察する研究成果が高く評価される


「5文型」論考image002 この度、総合教育の川嶋正士准教授が英文法史研究の一環として、英国における「5文型」の祖型の誕生までの経緯とその発達、そして消滅について考察した学術書『「5文型」論考 Parallel Grammar Series, PartⅡの検証』(朝日出版社)を出版しました。川嶋准教授は言語学や英文法史を専門としており、特に言語を科学的に研究する生成文法に取り組んできました。新分野に挑戦した本書は、19世紀末に生まれた「5文型」の祖型を用いて外国語の並行学習を提唱するParallel Grammar Series,PartⅡ を検証し、「祖型」の誕生以前から消滅以降の知られざる歴史を詳述するとともに、「5文型」の問題点について考察したものです。475頁にも及ぶこの壮大な研究書は、今まで誰も開拓したことのない分野でしたが、その成果は多くの学術研究協力団体から高く評価されており、今後いくつかの学会誌で書評が掲載されます。

川嶋准教授に著書の内容や研究への思いについて語っていただきました。

学界に衝撃を与えた「5文型」に関する新たな発見

日本で英語教育を受けた人なら誰もが知っているほど普及している「5文型」。主語(S)、動詞(V)、目的語(O)、補語(C)の並べ方を定めたものですが、英語が好きな私でさえ勉強するのも教えるのも嫌になるほど難解です。なぜこのような「5文型」が生まれたのかという疑問が発端となり、「5文型研究」における未知の領域への取り組みが始まりました。
いざ掘り下げて研究してみると、多くの驚くべき事実が判明しました。「5文型」を教科書や学習参考書に掲載して教えているのは日本だけです。その日本で「5文型」が初めて本格的に紹介されたのは1917年とされ、その著述の原典となったのが1904年に英国で出版された本であったことから、「5文型の祖型」となるものは1904年に生まれたと信じられていました。ところが近年、それを15年さかのぼる1889年に出版された本に「祖型」が見られることがわかりました。その著者は英文法の専門家ではなくラテン語の学者でした。この本は5ヵ国語を統一された分類と用語で記述することを目指した文法書シリーズの一環であり、ラテン語、ドイツ語、フランス語の文法書にも「祖型」はみられます。しかし、5年後に同じ著者によって書かれたギリシャ語文法書の中で「祖型」は姿を消します。1909年以降「祖型」を記載する文法書は存在しないことも明らかになりました。日本の英語教育においては常識だとみなされてきたことが謎と誤解に満ちたものであり、気づかぬうちに日本では英文法のガラパゴス化が進んでいたのです。逆に、欧米の研究者にとっては日本で「5文型」が普及している事実は衝撃的でした。研究の第1人者である Walmsley 博士は何度も私に問い合わせをしてきました。博士は私の研究がきっかけとなり2014年に Parallel Grammar Series の再調査を行い、現存する資料をリスト化しました。このリストは博士の許可を頂き本書に掲載されています。Walmsley 博士が現在執筆中の論文においてこの本を含め、私の論文を紹介したいという光栄な申し出がありました。
「5文型」の歴史のみならず、今まで誰も指摘しなかった編成上の問題点についても論証しました。簡素であることが利点とされてきた「5文型」ですが、実際には編成が不規則に入り組んでおり、学習者が理解できないモデルとなっています。そこで、目的語と補語の要素により交差分類を行ったのちに述語論理に基づき項ごとに分類した再編成モデルを考案しました。2013年に初めてこの新たなモデルを日本言語学会で提唱しましたが、大きな反響があると同時に、学術的にも高い評価を得ることができました。その後も研究を重ね、学術研究協力団体で採択された4本の論文に基づく研究成果を大幅に加筆修正したものが本書です。最も重要な部分は第2~4章です。副題にあるように、Parallel Grammar Series の誕生と消滅まで、シリーズの5ヵ国語文法書の「5文型」に関係する箇所を比較検証することが本書の主要な目的です。第5章はこれまで論じた以外のさまざまな問題を紹介するとともに、「5文型」研究の射程が英国における史的問題にとどまらず、日本における英学史的問題や理論的な問題も包括する大きな研究課題であることを示しました。

本書は英文法史の専門的研究書ですが、academic trainingを受けている人であれば理解できるように共有すべき前提知識を補いながら記述しています。学生諸君にも専門は異なりますが academic research に触れ知の水平線を広げるために手に取ってほしいと願っています。

社会に貢献できる成果につなげることを目指して

「5文型」論考image004史的研究者の任務はこれまでの既成概念を自らの視点で検証することです。一次資料に接すること、またその資料を断片的にではなく包括的に調査することで、研究は進みます。正確な資料と正しい方法論に基づいた研究は決して裏切ることはありません。
また、工学部の研究環境にも感謝しています。特に図書館と研究事務課の献身的な協力がなければ本書は誕生しなかったでしょう。2006年には、日本大学海外派遣研究員制度により1年間ニューヨークに留学させていただきました。その時の基盤研究が現在の成果となっています。工学における研究に対する姿勢にも感化された点があります。例えば電子機器などは発売後にファームウェアで更新を重ねていきます。一度完成させた論文は最終形ではなく、その後の研究で発展することがよくあります。論文の公表により調査・研究が終わるのではなく、むしろそれによって研究が端緒に就いたばかりであると考えるようになりました。また、公表するのに恥ずかしくないレベルと完成度をもったものを次々と発表していけば、研究が広がり評価も後からついてくることを学びました。科研費(研究課題番号: 26580115)に加え昨年度採択していただいた日本大学工学部長指定研究(個人研究)のおかげで研究内容も一層充実したものになりました。この場をお借りして出村克宣工学部長にお礼の言葉を述べさせていただきます。研究環境に恵まれた分を具体的な成果物にして出す義務が生じたと考え、より一層執筆に励みました。一方で教育や公務をおろそかにすることはあってはなりません。忙しさは執筆終了後でも変わりません。研究、教育、公務に忙殺される日々であっても、日々の努力が社会に貢献できる成果につながれば研究者にとっては本望です。

 研究は終わりのない航海のようなものであり受難と試練の連続ですが、自分の目で直接新しい発見ができ、その成果を学識の高い専門家に問うことができるのが大きな魅力と言えるでしょう。今まで誰も行わなかった視点からの「5文型研究」は、錨を上げ大海に漕ぎ出したばかりです。明日には座礁しているかもしれません。しかし、何か過ちを犯すことは、新しいものに挑戦した人間にしか与えられない特権であると考えます。学生のみなさんもこの大学で何か熱中できる研究テーマに出会えることを願います。万巻の書物を調査しているうちに一つの言葉に触れました。研究や調査が無駄に終わり心が折れそうになった時などには、何度となくこの言葉に救われます。

“Pioneers always have the hardest job, and always make mistakes.”

―Robert Henry Robins―