イオン液体によるCO2分離・回収技術の研究が
世界的権威のある学術雑誌に認められる

 科学系学術団体としては世界最大規模であるアメリカ化学会(American Chemical Society:略称ACS)が発行している『Journal of Chemical and Engineering Data』の4月号に、生命応用化学科環境化学工学研究室(児玉大輔准教授)の論文『Density, Viscosity, and CO2 Solubility in the Ionic Liquid Mixtures of [bmim][PF6] and [bmim][TFSA] at 313.15 K』が掲載されました。さらに、この論文の研究内容を表すGraphic Abstractが掲載号のCover Pictureに選ばれました。ジャーナルの表紙には、掲載された論文の中の代表的な研究が取り上げられることが多く、世界的権威のある学術雑誌において選ばれたのは大変栄誉あることです。この号は、Cornelis J. Peters氏の業績を讃える特集号になっており、ゆかりのある方々を中心に選ばれた研究者だけに投稿できるチャンスが与えられました。そのうち、日本から選ばれたのは、2研究グループのみです。
児玉准教授に、喜びの声とともに、掲載された論文に関わる研究内容について詳しくお話を伺いました。

 

―論文掲載及び表紙採用おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 どうもありがとうございます。今号は、Cornelis J. Peters先生の特集号だったため、Invitation Letterを受けた研究者のみが論文を投稿することができ、通常どおりの査読審査を経て、受理、出版されたものです。日本からは東北大学のRichard L. Smith Jr.先生の研究室と私どもだけで、とても有難い限りです。また、学術雑誌の表紙に選ばれるのは研究室としても初めてのことで、大変光栄だと思っております。技術の実用化に向けて、より一層、研究を推進していきます。

 

―研究について詳しくご説明いただけますか。

 本研究室では、10年以上前からイオン液体を利用したCO2の分離・回収技術の研究に取り組んでいます。地球温暖化対策の一つとして進めてきた研究であり、2010年度独立行政法人日本学術振興会(JSPS)公募の『最先端・次世代研究開発支援プログラム』にも選ばれました。イオン液体は、高圧にしてガスに触れるとCO2だけを取り込み、反対に圧力を下げると取り込んでいたCO2を分離して放出します。アミン系水溶液を使った従来の吸収・分離方法は、120℃程度に加熱する必要があり、エネルギーコストが掛かることが課題とされてきました。イオン液体は、圧力操作のみでCO2の吸収や分離をコントロールすることができるだけでなく、液化ガスとしてCO2を回収できることから、地中への隔離貯留(CCS: Carbon dioxide Capture and Storage)等に応用した場合、CO2を圧縮するコストの低減につながります。これまで、よりCO2吸収効率の高いイオン液体の開発を進め、様々な種類のイオン液体でCO2吸収量を調べてきました。本研究では、代表的なイミダゾリウム系イオン液体である[bmim][PF6]と[bmim][TFSA]を5種類の組成で混合し、常圧下における密度と粘度、高圧下におけるCO2溶解度を測定し、混合組成の違いが物性に及ぼす影響を調べました。今まで、化学工学会をはじめとする様々な学会で発表し、皆さんと議論してきた結果をまとめた論文が今回の特集号に採用されました。なお本研究は、(国研)産業技術総合研究所との共同研究であり、佐藤佳代子さん(現:株式会社クラレ)、菅原稔也さん(現:株式会社東芝)、渡邊正輝さん(現:博士後期課程3年)、谷口彩夏さん(現:博士前期課程2年)が、平成27,28年度の日本大学学術研究助成金総合研究の支援で取り組んでいた内容でもあります。

アメリカ化学会『Journal of Chemical and Engineering Data』掲載論文はこちら

 

―どのような点が評価されたと思われますか。

 実験の精度が高く、再現性のあるデータを構築している点が評価されたのだと思います。二酸化炭素をはじめとするガスの溶解度、圧力や温度測定などの物性を調べるといった化学工学分野において、測定データの精度を重視しているJournal of Chemical and Engineering Data誌の方向性とも合致していたのでしょう。この雑誌は、データの信頼性にとてもシビアですから、そこで認められたのは大きな意義があります。

 

―Cornelis J. Peters先生との関係について教えていただけますか。

 オランダのデルフト工科大学の元教授であるCornelis J. Peters先生(前列左から2番目)は、今回、ACSで特集号が発行されたことからも分かるとおり、330報以上の研究論文を出版しており、世界各国に教え子がいらっしゃるなど、化学工学熱力学分野では大変著名な研究者です。同じイオン液体や超臨界流体など化工物性をテーマにした研究を行っていることから国際会議等で親しくなり、デルフト工科大学に在籍されていた頃からですので、かれこれ20年近いお付き合いになりますが、互いに郡山・オランダを行き来するような間柄になりました。現在、Cornelis J. Peters先生は、中東アラブ首長国連邦のアブダビにある大学とアメリカのコロラドにある大学の研究室に籍を置かれており、日本学術振興会の支援(二国間交流事業)を受けて、本研究室と2年間の共同研究を行うことが決まりました。アブダビをはじめとする中東には石油や天然ガスの採掘現場が多数あり、日本よりもCO2削減やメタンをはじめとする炭化水素の有効利用が大きな課題になっています。そこで、イオン液体を分離吸収溶媒として工業的に応用するだけでなく、イオン液体と似た特徴を持ち、容易に調製することができる「深共融溶媒(DES)」にも着目し、CO2の吸収溶媒として利用するための研究を始めることになりました。地球温暖化防止だけでなく、回収したCO2や炭化水素を有効に利活用するために、基礎的な研究と実用化に向けた応用的な研究の両面からアプローチしていきます。今年度は、短期間ですが、大学院生が現地での研究活動に従事する予定です。国際経験豊富な教授のもとで研究できるチャンスはなかなかありません。学生たちには世界レベルの研究に触れて、大いに成長にしてほしいと考えています。

 

―今後の目標についてお聞かせください。

 国内外の大学や企業、研究所との連携を深化させる中で安価でガス吸収特性に優れるイオン液体や深共融溶媒の開発をより一層進めて地球温暖化を防止するとともに、CO2や炭化水素の有効利活用につなげていくことが今後の目標です。

 

―ありがとうございました。今後益々ご活躍されますことを祈念しております。

 

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