化学工学分野の研究を通して環境問題解決に取り組む

 平成30年12月22日(土)に、日本大学工学部で開催された第9回福島地区CEセミナーにおいて、生命応用化学科4年の井上実希さんと小板橋弘斗さんがポスター発表優秀賞、生命応用化学専攻2年の小松裕太さんが口頭発表優秀賞を受賞しました。本セミナーは、公益社団法人化学工学会東北支部の福島化学工学懇話会が主催するもので、今回は日本大学工学部の他、福島大学、山形大学、東京工業大学、岩手大学、東京電機大学、福島工業高等専門学校、小山工業高等専門学校から発表(ポスター発表33件、口頭発表6件)があり、参加者は73名でした。受賞した3名が所属する環境化学工学研究室(児玉大輔准教授)では、地球温暖化対策技術として、近年注目されているイオン液体を利用したガス吸収液の開発と評価を行い、二酸化炭素回収・貯留プロセス構築を目指しています。また、FREA(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所)との共同研究も進めるとともに、本研究室から多くの学生が技術研修員としてFREAでの研究活動に携わってきました。井上さんと小板橋さんが発表した研究もその成果によるものです。3名の喜びの声とともに、研究について詳しくお話を聞きました。

産総研の技術研修員として再生可能エネルギー有効利用に関する研究成果を発表

井上 実希さん(生命応用化学科4年・環境化学工学研究室)

ポスター発表題目:「Bench-scale反応器におけるMethylcyclohexane負荷変動が脱水素反応挙動に与える影響」

 再生可能エネルギーにおける余剰電力を効率よく利用するためには、MCH(メチルシクロヘキサン)で貯蔵し、変動する需要に合わせてMCHを脱水素化して電力を取り出すプロセス開発が重要です。しかし、MCH供給量が経時的に変化する脱水素反応器では、どのような反応挙動を示すかは明らかになっていません。本研究では、ベンチスケール反応器を用いて、変動するMCH流量の変動周期が脱水素化反応に与える影響について評価しました。周期の長さを15秒や30秒、1時間など9種類で行い変化を確認しました。結果、MCH転化率・トルエン選択率は長周期になるに伴い、低下することが分かりました。これは、反応器の温度の低下により、脱水素化に必要な熱が不足したためと考えられます。また、GC-FID(水素炎イオン化型検出器)を用いた解析結果をもとに副生成物5種類に分けて評価を行いましたが、どの副生成物もほぼ一定の値を示しました。このことから、MCH流量の変動が副生成物に与える影響が少ないことが分かりました。

 産総研の技術研修を希望したのは、断熱材などの材料開発を行う会社に内定していたので、研究現場の空気を知りたいと思ったのがきっかけでした。9月からFREAの水素キャリアチームに所属しました。実験は自分で機器を操作して行うので、分からないことばかりで試行錯誤しましたが、周りの研究者の方々からご指導いただき、なんとか研究を進めることができました。分からなかったことが解明できると、研究がどんどん面白くなりました。苦難に直面し挫けそうになりましたが、励ましてくれる人がいたから頑張れたと思います。たくさんの刺激を受け、大学では得られない知識を修得し成長することができたと実感しています。その集大成として成果を発表することができ、賞もいただけて本当に良かったです。FREAでお世話になった方々のおかげであり、深く感謝しています。将来はこの経験を活かし、女性の技術者として活躍することが目標です。知識はテストや成績のためではなく、自分のために身につけるものです。卒業するとき後悔しないように、大いに学んでほしいと思います。

FREAで水素キャリア製造技術開発のための研究に取り組む

小板橋 弘斗さん(生命応用化学科4年・環境化学工学研究室)

ポスター発表題目:「Bench-scale反応器における変動水素がToluene水素化反応挙動に与える影響」

 FREAでは、再生可能エネルギーを利用して水素を製造し、その水素を大量、長期、安全、安価に貯蔵でするために、触媒等を使って化学変換する水素キャリ製造技術の開発を行っています。その一つ、有機ハイドライド法はToluene(トルエン)を水素化してMCH(メチルシクロヘキサン)にして貯蔵する技術です。再生可能エネルギーは、気象条件によって発電電力量に変動が生じるため、その電力を用いた水の電気分解では、水素の供給量も変動します。変換効率を高めるためには、変動する水素がTolueneの水素化反応挙動に与える影響を明らかにする必要があります。そこで、ベンチスケール反応器で変動試験を行い、変動水素を用いたToluene水素化反応について調べました。最初に、定常試験を行い、水素とTolueneの流量一定下における反応挙動を評価しました。その結果、Tolueneの転化率は、原料比に対して高感度の変化を示しました。
 次に、変動試験を行い、変動水素に対してToluene流量一定モードと同期させた時のTolueneの転化率を調べ、それぞれ反応挙動に与える影響を評価しました。その結果、変動水素に対してTolueneを同期させることで、変動周期300sec以降の長周期においてもToluene転化率を維持していることが分かりました。このことから、Toluene同期の有効性を示すことができました。

 発表が評価された点は、なぜこの研究を行うのかを十分に理解し、結果までの流れを論理的に説明できたからだと思います。異なる分野の先生方が自分とは違った視点で質問やアドバイスしてくださったのが、大変参考になりま した。私は研究職に興味があり、実際に研究機関の現場を体験してみたいと思い、FREAの技術研修員になりました。大学より規模が大きく実証化に近い研究を行うので、面白くてやりがいがありました。これまでも先輩方がFREAでの研究成果を発表し、本セミナーで受賞されている実績がありプレッシャーを感じていたので、賞が取れたときは安堵しました。卒業後は医療機器系の会社に就職が決まっていますが、これまでとは違う新しい分野への挑戦になるので、とても楽しみです。結果がでなくても、研究を理解し一生懸命取り組んでいれば、きっと自分の身になると思います。皆さんも焦らず頑張ってください。

測定装置を改良し、高精度のデータを取得したことが高く評価される

小松 裕太さん(生命応用化学専攻2年・環境化学工学研究室)

口頭発表題目:「Diglyme-Li塩溶液のCO2溶解エンタルピー測定」

 深刻化する地球温暖化対策として、CO2をはじめとする温室効果ガスの回収技術が検討されています。そこで、私たちの研究室では、室温でCO2を分離回収できるイオン液体を使ったガス吸収法の開発に取り組んでいます。本研究では新たな試みとして、溶媒和イオン液体の一つであるGlyme-Li塩溶液を使用しました。溶媒和イオン液体には、難燃性・難揮発性があり、CO2だけを吸収できるといったイオン液体に類似した性質を持ち、さらに一般的なイオン液体よりも低粘性であることがメリットです。しかし、Glyme-Li塩溶液がCO2を吸収した時のエンタルピー実験データの報告例がなく、以前、当研究室でも測定を試みましたが、上手くいきませんでした。私は、その原因が圧力変動の大きさにあると考え、変動を抑えるために新たに流量調節バルブを設置し装置を改良しました。それにより、データのバラつきが抑えられ、文献より精度の高いデータを取得することができました。測定の結果、発熱量が低く、揮発もしにくいことから、ガス吸収液として利用できる可能性があることを導き出しました。

 これまで、なかなか成果が得られず、学会で発表する機会がなかったので、賞をいただくのも今回が初めてでした。装置を改良し、精度の高いデータが得られたことが評価され、受賞につながったのだと思います。それ以上に、苦労してきた過程を分かっていただけたのが一番嬉しかったです。発表の時に、エンタルピーの実験値を計算から得られる理論値と比較してみては?とアドバイスをいただきました。実際に出した計算値からも本データの信憑性を証明できたので、論文で発表することを考えています。学会で発表して受賞している先輩方を見て、私も大学院で成長したいと思い進学しました。学部生の頃とは違い、上手くいかないことがあっても自分で考えて解決する力が身につきました。自分のアイディアを活かして新たな発見ができる研究の醍醐味も味わうことができました。将来は化学プロセスの設計改良を手掛ける仕事を通して、世の中の役に立てるように頑張ります。