色素増感太陽電池のメカニズム解明につながる新たな発見が高く評価される
この度、生命応用化学専攻2年の石崎良太さんが、9月6日から8日に行われた光化学協会主催『2016年光化学討論会』において、優秀学生発表賞(ポスター)を受賞しました。光化学討論会は、光物理化学、有機光化学、無機光化学、生体関連光化学、光エネルギー変換、人工光合成、光機能物質、発光材料、環境問題など光化学全般を主題としており、本年は約650名が参加しました。修士課程(博士前期課程)1年から博士後期課程3年までの学生が応募することができるポスター賞には72件の申し込みがあり、そのうち11件が選ばれました。石崎さんが発表した『Quantitative analysis of water for understanding electron injection processes in dye-sensitized nanocrystalline semiconductor films(色素増感半導体ナノ微粒子膜の電子注入ダイナミクスにおける吸着水分効果の定量的解析)』は、A分野(物理化学、無機化学)での受賞です。国立大学等の大学院生が多数参加する中で受賞できたことは、質が高く独創性に富んだ研究であると言えます。
石崎さんの喜びの声とともに、受賞した研究について詳しくお話を聞きました。
―優秀学生発表賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。
ありがとうございます。これまでに口頭発表を含め国内では6件、国際会議で2件発表したことがありますが、賞をいただけたのは初めてなので、純粋に嬉しい気持ちでいっぱいです。ご指導いただいた加藤隆二教授には感謝の気持ちとともに、形として恩返しができたのではないかと思っています。
90分の発表時間でしたが、説明を聞きに来られる方が絶えることがなかったので、多くの方に興味を持っていただけたのではないかと思います。実際に面白い研究だと言っていただけて大変光栄でした。12月にシンガポールで行われる国際会議にも参加するので、この賞は大いに励みになります。
―発表した研究の内容について詳しく説明いただけますか。
私が所属する光エネルギー変換研究室では、太陽光をエネルギーとして利用する「人工光合成技術」の研究を行っており、中でも色素増感太陽電池に着目して、そのメカニズムの解明に取り組んでいます。色素増感太陽電池は、酸化チタンのペーストで多孔質の膜をつくることで、色素が吸着しやすくなり発電効率がアップします。実は、もっと効率よく発電する色素を調べるために、色素増感太陽電池を作っている時、溶媒蒸気の作用により色が変わるベイポクロミズムという現象が起こったのです。この膜での現象は、これまでに誰も発見していない事象でした。そこで、いろいろな色素で検証してみたところ、最も顕著な変化を示したのが酸化チタン膜にメチレンブルーを吸着させた試料でした。この試料に、乾燥ガスを吹き付けると、色が紫から水色に変化したのです。これは湿度の変化によるもので、つまり、くっついている3つの分子が、乾くと離れてしまうこと(会合状態の変化)で色が変わるのではないかと考えられます。今回のポスター発表では、実際にどのくらいの水の量で変化するのかと、他の色素の色変化のメカニズムについて調べました。その結果、湿度50%の大気中で膜に吸着した水は、乾燥ガスを吹き付けると膜に対して0.1から0.2層分の水分が蒸発することがわかりました。また、酸化チタン膜の表面pHを調べてみると、乾燥することにより強酸性に変化したことから、乾燥状態のときは色素の周りにH+(プロトン)が近づいたということがわかりました。これらの結果より、大気中から乾燥させたとき、水分が蒸発することで、色素周りのプロトン濃度が高くなり、色素に影響を及ぼしていると考えました。(ポスターPDF)
―どのような点が評価されたと思われますか。
色素増感太陽電池の研究において、これまで誰も知らなかったベイポクロミズムの現象を発見したことが大きかったと思います。また従来、本電池を作成するうえで効率が悪くなると考えられていた水についても、大気中に水があった方が効率よいという逆説を唱えることになりましたから、衝撃的だったのかもしれません。メチレンブルーの色の変化もわかりやすく、湿度センサーとして応用できるという点も評価されたのだと思います。さらに、太陽光のエネルギー変換効率や発電効率などのメカニズム解明につながる成果でもあり、研究への期待度も高かったのではないでしょうか。
―どんなところが研究の魅力ですか。
化学の道に進んだのは、理科の実験やモノづくりが好きだったからで、こうして自分のやりたいことに挑戦できるのが、一番魅力に感じるところです。ベイポクロミズムの現象を発見できた時は、とても嬉しくて感動しました。こうした新たな発見に出会えるのも大きな魅力と言えます。自分自身でこのメカニズムにについて詳しく調べることができて、ますます研究が面白くなりました。学部4年時の発見でしたから、よりいっそう大学院に進学して研究を続けたいというモチベーションにつながりました。
―今後の目標についてお聞かせください。
もっと見やすい湿度センサーをつくるために、色変化の度合いがわかりやすい色素を探してみようと考えています。また、発電効率のメカニズムについても研究していきたいと思っています。
―最後に後輩たちにメッセージをお願いします。
大学院生として特に必要な能力は、スケジュール管理を行ない行動する力だと思います。大学院では授業、研究に加え、学会発表の申し込みや要旨の提出など“やるべきこと”がたくさんあります。これらの締め切りを守るために、いつまでに何をすればいいのかを明確にしておくことが重要になります。一見、当たり前のことのようですが、複数の締め切りが短期間に集中したり、急な案件ができたりすることがあり、非常に苦労した経験があります。学部生の内から、期末試験や学生実験のレポートの提出等の締め切りを意識することが今後、必ず役に立つと思います。
―ありがとうございました。今後の活躍も期待しています。
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