学生の活躍

第24回JIA東北建築学生賞で最優秀賞を受賞しました

空き家と公園、二つのストックを結び付けて
新しい時代の都市・まちの在り方を提案し、高く評価される

 10月23日(金)に、『第24回JIA東北建築学生賞(公益社団法人 日本建築家協会東北支部主催)』の審査が行われ、建築学科4年の和久井亘さん(建築計画研究室/指導教員:浦部智義教授)の作品『まちの縁台に腰かけて』が最優秀賞を受賞しました。今年度は審査員のみがせんだいメディアテーク1Fオープンスクエアに参集し、作品応募登録者はZoomによるオンラインでの参加となりました。従来は、ポスターセッション、審査員の講評による第一次・第二次審査を経て、第三次審査のプレゼンテーションが行われていましたが、今回はオンラインによる全32作品の公開ヒアリングにより審査が行われました。コンセプトの導き方、社会性・歴史性、空間性・造形力、表現力の4項目に加え、学生として将来の可能性に期待できる、東北建築学生賞に相応しい作品(提案と人)であるかを基準に、審査員の投票によって各賞が決定。画面越しではありますが、和久井さんは2分のプレゼンテーションと3分の質疑応答の中で、熱く自分の思いを伝えました。その結果、審査員11名のうち最多となる6票の支持を受け、見事最優秀賞に輝きました。

 和久井さんに受賞の喜びと作品について詳しくお話を聞きました。

―最優秀賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 この作品は前期の建築設計の課題で取り組んだものです。自分としては力を入れた作品なので、評価されて大変嬉しく思います。何かしら賞に結びついたらいいなと思っていましたが、他の作品も大変素晴らしかったので、自分が最優秀賞でいいのかという戸惑いもありました。でも、学外の方と触れ合う機会はあまりない中、評価していただけたことは自信になります。社会に出たら様々な人と関わっていくことになるので、そういう意味でもよい経験になりました。

建築だけでなく、それを取り巻くなるべく多くの事象(環境)に目を向ける。

―作品について詳しく説明いただけますか。

 課題の主旨は、新型コロナウイルスの影響や気候変動など、2020年に入って世界が大きく変わり、今後人々の暮らしも大きく変化していく状況を踏まえ、新しい建築の在り方について提案するというものでした。私は、これまでも問題となっている地方都市の人口減少に注目しました。2020年以降の建築そして都市を考える上で、人口減少や空き家の問題は避けては通れません。人口が減少し、街中にストックが溢れ出てきたとき、その都市の余剰空間をどう利用していくかが重要だと考えました。もう一つのストックである公園は、以前から地方都市でも整備され、公園周辺は良い景観が得られていますが、一歩街に入れば、均質化された特徴のない風景になっていることも少なくありません。そこで、空き家と公園、どちらも今は孤立した存在となっている二つのストックの潜在力を引き出しながら、新しい時代の環境を形成することを提案しました。
新型コロナウイルスの流行により、テレワークが普及する一方で、現在の居住環境ではそのスペースがないという人も数多くいます。まずは、空き家をまちのシェアオフィス空間とし、更に発展させて地域の人々の「+αのリビング」としてリノベーションします。まちの縁台として再生された空き家は、近代化によって失われた道端での交流を蘇らせ、地域のコミュニティ復活にも貢献できると考えられます。公園は点ではなく、線あるいは面的に捉え、公園と公園をつなぐことを意識し、その間にある空き家をランドスケープとともに整備します。計画を実行するあたり、「まちづくり事業主」を中心に、行政や周辺住民、空き家の持ち主、高層マンションのオーナー、鯉養殖業者といった関連する人々を巻き込みながら、互いに利益を生み活性化できるまちづくりの仕組みも考えました。改修にあたっての時間軸として、5年間は空き家をカフェにして収入を得て、利益をまた空き家の改修費用に充当。以降は暗渠となっている川を改修し、ランドスケープと一体化していきます。やがてランドスケープ自体が自然をはらんだ森となり、両端の公園と一体となる都市空間を形成します。竣工時から数十年以上に亘り、自然と人工物、そして地域社会が更新を重ねながら成長していける持続可能な環境の提案となっています。

―どのような点が評価されたと思われますか。

 作品としても提案としても完成度が高く、実現性も高いとの講評いただきました。JIAの審査員は建築家の方々ですから、建築の空間そのものの提案がより重要視されるのだと思っていました。もちろん、個々の建築空間をないがしろにした訳ではなく丁寧に仕上げたつもりですが、より都市・まちづくり的な広がりが目立つ作品でしたので、ここまで評価していただけるとは思っていませんでした。逆に言えば、建築を映えさせるために、周辺のランドスケープを紐解いて外構と一体で個々の建築を考えたことが、結果的に建築の空間のあり方にも良い影響を与えたのかも知れません。そういった丁寧さをプレゼンボードでも表現しようと考えていたので、それが上手く伝わったのかも知れません。

―今後の目標についてお聞かせください。

 建築には芸術的な側面もあり、人の心に訴えかけるものがあることかどうかも、自分が作品をつくる時に大切な要素だと思っています。このコンペを通して、かなりおぼろげではありますが、社会における建築の役割は自分なりに掴めてきたようにも感じています。でも、恐らく、自分が思うより難しい問題も多いでしょうし、まだまだ自分には十分理解できていない事柄ばかりだと思います。一線で活躍する建築家になれるのは、様々な経験を積んだその先。それまでは努力し続けていこうと思います。

―ありがとうございました。今後益々活躍されることを期待しています。

第24回JIA東北建築学生賞の結果はこちら