報告

郡山テクノポリス地域戦略的アライアンス形成会議にて工学部長根本修克教授の特別講演会が開催されました

変動の時代を乗り切るために
産学連携による研究開発に期待が高まる

3月17日(水)に開催された郡山テクノポリス地域戦略的アライアンス形成会議において、工学部長根本修克教授が、『材料化学を基盤とする産学連携研究』と題して特別講演を行いました。本会議は産業支援機関である郡山地域テクノポリス推進機構の事業の一つで、郡山テクノポリス圏域等(郡山市、須賀川市、鏡石町、石川町、三春町、玉川村)の中小企業製造業者が持つ技術力などを積極的に活用するため、アライアンス(企業連携)を組み、研究開発や販路の新規開拓を促進しています。本年は新型コロナウィルス感染症拡大防止のため、WEBによる講演会となりましたが、工学部キャンパス内に設置された郡山地域テクノポリス推進機構ものづくりインキュベーションセンターに座席を限定し、講演をご清聴いただきました。
開催にあたり主催者を代表して、本会議会長の大槻努氏がご挨拶されました。大槻氏は、「アフターコロナの時代をどう生きるかは人類全体の課題であり、新しい時代に向けて本日の講演のテーマである材料についても見直されていくことになるだろうと感じています。そんな知的好奇心を刺激しビジネスにも役立つ“材料”になるような有意義なお話を聞ける時間になることを私も大変楽しみにしています」と期待を寄せていました。

『材料化学を基盤とする産学連携研究』

日本大学工学部長 根本 修克教授

 有機化学をベースに材料をつくることを専門に研究を行っている生命応用化学科の根本教授。まず、これまでの経歴等について自己紹介がありました。早稲田大学理工学部で学び、大学院に進学後、学位論文「ポリシロキサン誘導体の合成と機能」で「博士(工学)」の学位を取得。この論文にもあるポリシロキサンが、本講演テーマの一つであるケイ素含有機能性高分子材料創製のベースにあることから、大学時代の研究について簡単に説明しました。シリコーンゴムなどに利用されるポリジメチルシロキサンは疎水性・耐熱性があり、ケイ素上の置換基の種類や置換率によって物性が変化するため、その特性を活かして様々な用途の材料に利用できることが期待されている物質です。根本教授は、当時併せて研究対象としていた金属フタロシアニンという化合物について、のちの産学連携研究において大いに役立ったと強調されました。その後、財団法人相模中央化学研究所(現公益財団法人相模中央化学研究所)の研究員となり、そこでは光通信の世界で利用できるような有機(高分子)非線形光化学材料の合成研究に従事。5年後には国家プロジェクトを管理する財団法人化学技術戦略推進機構の研究員、NEDOの産業技術研究員、そして山形大学工学部機能高分子工学科助手を経て、2002年4月から日本大学工学部物質化学工学科准教授(当時は助教授)に着任。2010年4月に名称変更となった生命応用化学科の教授に昇格され、2020年4月から工学部長に就任されました。研究においては、現在、学生時代に行っていた研究を発展させた新規ケイ素系含有高分子材料の創製、さらに燃料電池用電極触媒の創製をテーマに産学連携の研究を進めています。

有機化学の技術を利用して新たな機能を持つ材料を開発

 根本教授が新規ケイ素系含有高分子材料の創製に関する研究を始めたのは、郡山市内の企業から新しいカラム液相の開発について相談をいただいていたことに端を発します。本講演では、研究室独自に取り組んでいる、白色蛍光灯の開発につながるような発光効率を向上させるケイ素を合成した高分子発光材料の研究や疎水性のシロキサンにイオンを合成し紙おむつなどに利用可能な抗菌作用が期待できる吸水性ポリマーの開発などについて説明しました。
次に、産学連携研究のきっかけとなった『UVナノインプリント用ケイ素含有アクリレートモノマーの合成』と『光硬化膜のO2RIE耐性評価』について紹介しました。半導体やパソコン、携帯電話などの集積回路を微細化することで小型化・軽量化・高速化・省エネ・低価格化につながることが期待できますが、小さな配線幅にするためには高度な技術が必要になります。そこで、東北大学との共同研究を行った集積回路のパターンを作製するフォトリソグラフィ技術の一つであるレジストを使ったUVナノインプリントリソグラフィに着目しました。このレジスト材料に有機化学の力が発揮されています。ベンゼンやケイ素を使ってエッチング耐性の向上を図ったり、相分離や結晶化を抑制するための硬化膜を作製。その結果、欠陥のない良好なパターン成形が行えることを明らかにし、実用化の可能性を示しました。学会で発表した際、関心を持った企業の研究者の方からオファーをいただき、この技術を使った共同研究につながりました。それが『フルオロアルキル鎖を有するシロキサン系高分子の耐プラズマ特性』の研究です。リソグラフィのエッチング耐性にも利用されるフッ素系ゴム材料の研究で、自動車産業や化学プラントのシール材(Oリング)としても使われています。本研究の課題となっていたのは、エッチングの際に発生する酸素プラズマによってフッ素系ゴム樹脂が徐々に劣化することでした。耐性向上のために添加するケイ素系粒子をより細かくするために分子レベルでの高分子合成を行い、これまでにない特異的なプラズマ特性を示す材料の開発に成功。現在、特許出願を行うとともに、同企業と連携研究を継続し様々な分子構造を試作しながら、新たな材料の開発に取り組んでいます。

産学連携の研究成果から特許出願へ

最後に産学連携の研究例として、『高分子固体電解質方燃料電池用電極触媒の創製』について紹介しました。化石燃料の枯渇が問題になっている現在、燃料電池は高効率でクリーンなエネルギーとして注目を集めています。根本教授が研究に関わっている固体高分子型燃料電池は、作動温度が低く、電解質が薄膜で、小型・軽量化が可能であることから、携帯電話や燃料電池車への本格普及が期待されています。しかし、現在触媒に使われている白金は高価で市場も不安定であることがデメリットとして挙げられます。そこで、非白金触媒の開発を目指して、企業との産学連携研究に取り組みました。当初、この研究は大手自動車メーカーからの依頼を受けた数社の企業で進められたプロジェクトでしたが、その後、そのうちの1社と連携し、新しい触媒の開発を進めています。着目したのは、高い炭素含有率を持ち、金属の固定化が可能で優れた酸素還元活性の発現が期待できる金属フタロシアニン。研究の結果、市販の白金含有触媒とほぼ同等の活性を示すことができ、特許出願につながりました。
根本教授はこれまで産学連携を進めてこられた企業や研究機関に対し謝辞を述べられ、講演を締めくくりました。会場からは根本教授に大きな拍手が送られました。

 工業製品など実用化されたものに化学の技術がどのように活かされているのか、一般的には知られていない部分ではありますが、本講演の内容から、材料開発において化学が重要な役割を担っていることがわかります。物質の特性を利用し様々な組み合わせによって、これまでにない機能を持つ新しい物質が生まれていく。そんな無限の可能性を秘めた化学の世界で、根本教授をはじめとする工学部の研究者が日々地道な研究を続けています。それらの成果によって、私たちの生活がより豊かなものになっていくことを実感しました。これからの大変動時代を乗り切るためには、既存の技術や手法を別のものに応用したり展開できる柔軟な発想やアイディアが重要な鍵を握っているとも言えるでしょう。一見結びつかないような異分野の連携が、大きな成果を生むことも考えられます。産学連携による新たな材料開発や新規産業の創出に、ますます期待も高まっていました。