教員の活躍

土木工学科の中野和典教授が土木学会東北支部技術開発賞を受賞しました

ロハスの花壇の実用性と将来性が高く評価される

 平成30年度土木学会東北支部技術研究発表会(平成31年3月2日)において、土木工学科の中野和典教授と佐々木美穂さん(平成30年度卒業)が発表した「花壇型人工湿地の4年間の水質浄化性能の評価」が技術開発賞(418件の発表論文中4件が受賞)に選出され、令和元年5月17日に開催された土木学会東北支部総会において表彰されました。工学部キャンパスに設置したロハスの花壇に関する4年間の水質浄化性能を検証し、その浄化特性と浄化性能を左右する要因を明らかにしました。排水が緑化の液肥として直接的に活用される本手法は循環型社会の実現にも貢献するシステムであり、その実用性と将来性が高く評価されました。
中野教授に受賞の喜びの声とともに、研究について詳しくお話を伺いました。

―この度は技術開発賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせいただけますか。

 ありがとうございます。優秀な発表をしてくれた佐々木さん(写真左)の貢献は大きなものですが、本賞は、4年間のロハスの花壇の研究成果に対して与えられたものです。この4年間に実験データを積み上げてきた環境生態工学研究室(指導教員:中野教授)の卒業研究生(佐々木美穂さん、清野紘さん、大附遼太郎さん)と機械工学科材料工学研究室の橋本純教授並びに卒業研究生(西牧和希さん、那須和洋さん、河野嵩人さん、見田豪介さん、西脇嵩秀さん、西脇駿汰さん、武藤圭太さん、谷貝柊さん/指導教員:橋本教授)の力があったからこその受賞であり、皆で喜びを分かち合いたいと思います。「皆さん、やりましたよ!」。また、新たな技術を開発したと認められたことは大変光栄なことであり、自信にもなります。ロハスの花壇の研究を評価していただいた選考委員と関係者の皆様にも心より感謝申し上げます。

―研究について詳しくご説明いただけますか。

 私たちは今、気候変動や人口減少など様々な問題に直面しています。それにより次世代のインフラには、人口減少社会に耐える費用対効果と低炭素化に貢献するエネルギー対効果が求められています。本研究は、そのような費用対効果とエネルギー対効果が期待できる花壇型人工湿地の4年間の水質浄化性能を検証し、その浄化特性と浄化性能を左右する要因を明らかにしたものです。工学部キャンパス内に設置したこの花壇型人工湿地は、「ロハスの家研究プロジェクト」の実験装置の一つでもあり、私たちは「ロハスの花壇」と呼んでいます。学生食堂排水を最上部より流入し、自然流下により5段のろ床を通過することで浄化が行われます。花壇でろ過された汚れは、速やかに土壌微生物により分解され、その分解産物を植物が栄養として利用する仕組みになっています。ロハスの花壇は、このように自然が営む物質循環を利用することで、エネルギーを使わずに排水処理が行えるシステムなのです。4年間で約500トンの排水を処理しましたが、その間、安定して使用することができました。

―どのような点が評価されたと思われますか。

 中長期的な性能を証明できた点が評価されたと思います。単年の実験ではわからない、4年間続けないと見えてこない問題点もあります。実際に目詰まりが起きるトラブルもありましたが、その解決方法を導き出し、総入れ替えせずに元通りに回復させたことも含め、技術開発として認めていただけたと思っています。水をきれいにするにしても、これからは環境に配慮しCO₂を減らすシステムが必要になります。そうした観点からも、花壇で水を浄化するインフラというものが非常に有用性の高い技術だと評価いただけたのではないでしょうか。

―今後の目標についてお聞かせください。

まずは、ロハスの花壇の実験を10年間続けて検証していきたいと考えています。10年間保つことができれば、その先の10年も見えてくるでしょう。もう一つ、葛尾村で実装実験を進めているロハスの花壇の検証です。この花壇は公衆トイレ(みんなのトイレ)の排水を浄化層で高度処理するだけでなく、再生水として修景用水などに利活用するもので、下水処理と緑化を組み合わせたグリーンインフラの構築を目的としています。気候変動による環境の変化に伴い、緑化の普及が重要性を増す中、ロハスの花壇のニーズも変わりつつあります。普段、緑化のための水遣りは水道水などのきれいな水を使用していますが、大変もったいない話であり、本末転倒と言っても過言ではありません。私は排水を川に捨てないで緑化に使うことを推奨します。葛尾村のロハスの花壇は公衆トイレの排水を浄化層で浄化し、花壇の水遣りに使用するシステムになっています。インフラというと、人工的に造られた道路や橋や下水道などを想像すると思いますが、湧き水は自然の水道局のようなものであり、自然の営みこそインフラそのもの。しかもCO₂を出さず実に合理的なシステムを構築しています。今、社会ではこうした自然が持つ多様な機能や仕組みをインフラ整備に活用するグリーンインフラの取り組みが進められていますが、ロハスの花壇は、まさに下水処理施設を多機能なグリーンインフラへと昇華させる新しいシステムと言えます。省コスト、省エネルギーかつ省メンテナンスの再生水利用システムであるロハスの花壇は、下水処理が問題となっている開発途上国からも注目を集めています。ロハスの花壇が海を渡り実装されるのも、そう遠くない話かもしれません。

―学生たちにメッセージをお願いします。

持続不可能な世の中になりつつある今、ロハス工学は益々必要性を増しています。それぞれの分野の立場からロハス工学を切り開いてほしいと思います。学生の皆さんが活躍するのは10年後、更にもっと先になるでしょう。今日や明日といった目先の持続可能ではなく、30年後、50年後を見据えて、その先まで続く持続可能な社会の実現に向けて貢献してほしいと思います。

―ありがとうございました。今後益々ご活躍されますことを祈念いたします。

 

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