インフラの維持管理に役立つ、新たな道路橋床版の補修方法の提案が高く評価される
9月2日(月)から6日(金)に行われた令和6年度土木学会全国大会第79回年次学術講演会において、土木工学専攻博士前期課程2年の 安達遥希さん(コンクリート工学研究室/子田康弘教授)が優秀講演者として表彰されました。本表彰は、将来の土木界を担っていく若手の研究者および技術者の論文内容や講演技術の向上を目的としており、土木学会全国大会で実際に講演を行った40歳以下の研究者、技術者を対象に、論文内容に加え講演が簡潔明瞭で優れたものに与えられます。発表した論文『砂利化部および版面の補修を施したRC床版の耐疲労性に関する実験的検討』は、社会基盤構造物の老朽化が進む昨今、新たな応急的な補修として道路橋床版の維持管理の選択肢の幅を広げる手法を考案したものです。
安達さんの喜びの声と研究内容について詳しく紹介します。
―優秀講演者表彰おめでとうございます。感想をお聞かせください。
学会での発表は学部生の時を含めると6回目になりますので、緊張することはありませんでしたが、賞をいただくのは初めてで、大変嬉しかったです。これまでのやってきたことが報われたという思いと同時に、自信にもなりました。先輩から引き継いできたこの研究シリーズに区切りをつけることもでき、良かったという安堵の気持ちもあります。これまで、研究内容や発表の仕方などを子田先生にご指導いただいたおかげで、今回の受賞に結び付いたと思っていますし、サポートしてくれた先輩後輩にも大変感謝しています。
―講演した研究について詳しく説明いただけますか。
道路橋鉄筋コンクリート床版(RC 床版)は、水が浸入した状態で疲労を受けると砂利化が発生します。この種の損傷は、RC 床版の耐疲労性を著しく低下させてしまううえに、東北地方をはじめとする積雪寒冷地では凍結防止剤を散布することで塩害や凍害、ASR(アルカリ骨材反応)など、それらの複合劣化によってRC 床版の取替更新を余儀なくされています。取り替えにはコストや時間がかかるため、応急的に補修してRC 床版を長持ちさせる手法の開発も必要だと考えました。そこで着目したのが、エポキシ樹脂です。元来、硬化速度が高く接着剤として多用されていますが、本研究では寒冷地仕様のエポキシ樹脂材を使い、冬期施工を想定したRC床版の補修に適応できるかを検討しました。
実際に砂利化を模擬したRC床版の供試体を作製し、砂利化箇所を含めた床版面全面に低粘度エポキシ樹脂系補修材を注ぎ込みます。環境温度制御型万能載荷試験装置を用い、5℃の環境下で補修を行いました。通常のエポキシ樹脂ですと、気温の低い環境では固まるのに数時間かかってしまいますが、寒冷地仕様のエポキシ樹脂は1時間以内で固まりました。さらに、補修効果を検証するために定点疲労載荷試験を実施しました。その結果、床版砂利化部の空隙が充填されることで強度が増加し、それによって健全な床版と比べても床版供試体の耐疲労性が回復することが分かりました。自分が初めてつくった床版供試体で実験結果を得られたことで、達成感を感じています。


―どのような点が評価されたと思われますか。
既存の補修方法や床版の取り替え作業と比べて、簡便な補修で道路橋床版を維持管理できる手法を考案した点が高く評価されました。この補修方法が確立されたら、損傷部分のみの補修で済み、作業人員やコスト面でも大幅に軽減することができます。特に東北地方では逼迫した状況ですので、寒冷地で適応できるのは大きなメリットになります。実装され、どんどん普及されたら、研究してきた甲斐がありますし、これから土木技術者となる身としても大変光栄に思います。
―将来の目標や夢についてお聞かせください。
人が生活していく中で、土木は根幹を支える重要な役割を担っていると思っています。研究を通してコンクリートの耐疲労性について学んできたので、その知識を活かした土木技術者になって、社会に貢献していきたいと思います。土木の道に進んだのは、幼い頃からダムやトンネル、橋など大きな構造物を見るとワクワクしていたので、好きなことを学んだ方がよいと考えたからです。コンクリート関連の仕事に就きたかったことや社会で活躍するためにはもっと知識を深めスキルアップする必要があると思い、大学院に進学しました。この度、受賞したことからも自分が成長できたと実感し、それは大きな自信につながりました。土木の魅力は人々の生活を支える構造物を自分が設計したり実際につくることができ、大きなやりがいを感じられること。これから進路を決める高校生にも、ぜひ土木の道を目指してほしいと思います。
―ありがとうございました。今後益々活躍されることを期待しています。
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