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第28回JIA東北建築学生賞で建築学科4年の三瓶夏蓮さんが優秀賞を受賞しました

学校を中心に地域コミュニティを再形成
人に寄り添う建築作品が高い評価を受ける

 宮城県仙台市の「せんだいメディアテーク」(1階オープンスクエア)において、10月4日(金)に第28回JIA東北建築学生賞審査会が開催されました。厳正な審査によって建築学科4年の三瓶夏蓮さん(建築計画研究室/指導教員:浦部智義教授)の作品『ミライは学校』が優秀賞を受賞しました。同じく出展した同4年の塚田響さん(同研究室)、同3年の鷲尾大翔さん(同研究室)の2作品は惜しくも入賞を逃しましたが、テーマを丁寧にすくい上げた創意工夫あふれる作品でした。なお3名の作品は3・4年次前学期の建築設計関連の授業から学内選考により選出されたものです。

 本審査会には11校(9大学、1大学校、1高専)12学科から36作品の応募があり、それぞれの作品への公開ヒアリングの後、「コンセプトの導き方」「社会性・歴史性」「空間性・造形力」「表現力・対話力」などを軸に審査され、審査員の投票によって各賞が決定されました。今回出展された3作品はともに今後の可能性を期待させるもので、今後の創作への気づきを得られるものでした。
 今回出展した3名に作品への思いを語っていただきました。

優秀賞『ミライは学校 -普通は変化する-』

建築学科4年 三瓶 夏蓮さん(建築計画研究室)



 建築設計課題「フクシマを変える建築」を題材に作品を制作しました。その中でも原発事故の影響で住人全員が避難を余儀なくされ、現在も影響が色濃く残る双葉町の学校の未来を作品にしました。双葉町には実地調査で3回訪れましたが、歩いている人の姿もなく家屋も崩れたままの光景を目の当たりにして、明るい雰囲気で包み込む建築をつくろうと考えました。地域の未来を支えるのは子どもたちですが、双葉町には現在学校がなく、現状は学校を作っても残念ながら本来の機能は果たせない状況です。そこで被災された地域の方々はもちろん、新たに移住される方や復興の現状を見学に来る方々などが集まって使える最初の場所としての機能を持たせつつ、今後の「教育の器」の在り方を再考しました。時間軸も含め、10年、20年、30年とこの建築を土台として、学校へ変化させていくものをつくるというコンセプトを軸に、学校を中心とした地域コミュニティを再形成し、教育から双葉町の未来を計画しました。被災地に寄り添い建築を使う人への思いを込めた作品に仕上げました。

 平屋の集合体のような外観は、利用者も環境的にも受け入れやすく親しみやすさを意識し、建物の中心には全面ガラス貼りで入口から空間全体が見える演劇ホールを配置しています。地域の集まりや雨の日の生徒たちの遊び場など、地域のニーズに合わせて多目的に使用できるスペースとして想定しています。また、教室は画一的なものではなく、本棚やホワイトボードを壁にして地域と学校が入り交じる空間で授業が行えるように考えました。私自身、話したり自分を表現することが苦手だったので、様々な人と接することができる環境の中で、自分の意見を育めるような学びの場をイメージしました。

 また施設内には、地域の方々や観光目的の利用を想定したワンルームタイプのショートステイと、住むことを目的にこのまちの良さをじっくり知ってもらうために寝室とダイニングを備えたロングステイの2タイプの宿泊スペースを設けました。部屋と玄関の間にはちょっとした図書スペースを作り、扉を開けておけばコミュニケーションがとれるような工夫も加えました。各スペースが仕切られているのではなくグラデーションのように交じり、学校や地域、そして双葉町に訪れる方も相互に関わっていけるようなイメージです。

 本審査会に出展するにあたり、浦部先生にエスキスを通して様々なアドバイスをいただいたおかげで、作品をブラッシュアップすることができました。昨年は特別賞をいただき今回は最優秀賞を目指していたので、くやしいというのが率直な感想です。これからも自分の芯にある、地域に根差した親しみやすさのある建築を目指し、更に利用者の方からよく意見を聞き、どう使われるのかを深くイメージし、その上で自分らしさを加味できるようになればと思っています。これをバネにして卒業設計ではより頑張ろうという気持ちになりました。

作品『風に遊ぶ ~記憶と日常を結ぶみち~』

建築学科4年 塚田 響さん(建築計画研究室)



 この作品は、目的意識がなくても人々が集まり楽しめる場所「プラットホーム」という課題のもとで制作しました。通常は駅舎や公民館など自然と人が集まりやすい場所を選定しますが、今回は日常では近づきにくいイメージが持たれている人も多い墓地「青山霊園」を題材に選びました。実地調査で訪れると江戸時代は藩屋敷だったこともあり、緑が豊かで散歩される方も多く見受けられる反面、街と墓地には境界があって分からない人にとっては入りづらい場所だと感じました。都心にある貴重な緑豊かな場所を気軽に利用できないのはもったいなく、都市の魅力を減らしているのではないかと考えました。お墓参りの方はもちろん、街の人の休憩場所など多彩な用途で利用できるような、都市と霊園を結ぶ緩衝材的な役割を持つ施設を設けようというのがコンセプトです。

 まずは墓地と街の境界にある門を取り払い、街からの建造物へのアプローチにはモザイク状の大小のある芝生を配置して境界を曖昧にするような工夫を施しました。また霊園と街に3メートルほどの高低差があるので、霊園側の道を延長して、建築物と一体となったプロムナード(散歩道)を設けています。施設内には気軽にお墓参りに行けるようにカフェや花屋さんのほか、霊園の歴史や霊園にねむる著名人が分かるアーカイブ施設を設けました。また施設最大の広さのあるセレモニーホールは葬儀のない日には、体育館として一般に解放することを想定しています。

 強化ガラスで覆われた屋根は、間隔をあけて垂木が配置されていて自然の柔らかな光が差し込むようになっていて、夜間はそこから漏れる室内の明かりが、暗い霊園を照らす行燈代わりになるようにと考えました。屋根の形状も一直線ではなく、どのような形状の流れが気持ちいいのか、施設に入りやすいのか何通りも検証した結果、都市側と霊園側の入口の高さを変化させています。

 結果は残念でしたが、私達が日々教えてもらっている環境やユーザーを大切にする「みんなで答えを導き出す建築」の原点に戻るきっかけになったと思っています。

作品『自然と人の縁』

建築学科3年 鷲尾 大翔さん(建築計画研究室)



 取り組んだのは「関心のある著名人の記念館」という課題でした。自分がアウトドア好きということもあり、自然風景と調和する整ったデザインと機能性との両立に注力したアウトドアブランド「ゼインアーツ」の創始者である小杉敬さんのプロダクトの美術館で、ただ鑑賞するだけに留まらず実際プロダクトを利用してより作品に寄り添える施設を考えました。そのような意味でもロケーションは重要で、公園の背後にはすぐ山が迫っていて、作品のコンセプトである「自然と人間の境界」にあるロケーションに合致する郡山市の浄土松公園を選びました。また近隣の山中には福島県郡山自然の家があり、1970年代から活動されている自然との遊び方や親しみ方を継承する上でも人を誘導できるような施設にできればと考えていました。

 中央エントランスを入ると、山々に抱かれた広場が広がります。広場には諸所でブランドのテントが設営されていて、焚火など環境を楽しみながら実際にプロダクトと接することができます。その広場に伸びる2本のスロープは、どちらも背後の山道へ続くアプローチの意味を担っていて、郡山自然の家へとつながっています。迫ってくる山々を感じてもらいながら開放的な空間を楽しんでもらう動線、徐々に人工物からよりディープな自然へと没入していく感覚は工夫しました。

 建物は左右に展開し、屋根のラインは山並みの稜線にリンクしています。施設内はカフェやアウトドアギアの展示スペースがあり、安達太良山方面は全面ガラス張りで眺望が楽しめます。エントランス脇の図書館は屋根の角度を工夫し、自然光が注ぐと梁の影が空間に変化をもたらします。外壁材は板張りにするなど、人工物である建物は自然環境になじませることを重点に考えました。

 今回作品を出展して、設計力も含め全てが1年の差は大きいなと実感しました。個人的には特にコンセプトに対する信憑性を高める作業、どんな人が施設を利用するかなど情報収集が不足していたのかなと感じています。今後は施設が存在する意味を際立たせた作品を生み出せればと思いました。

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