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第21回産・学・官連携フォーラムを開催いたしました

産学官の視点から新たな時代のIT技術とその利活用について考える


12月6日(月)、工学部50周年記念館(ハットNE)3階大講堂にて、公益財団法人郡山地域テクノポリス推進機構との共催による『第21回 産・学・官連携フォーラム』を開催いたしました。新型コロナウイルスにより、私たちは社会システムやその基盤となるIT技術のあり方について多くの課題に直面しています。本シンポジウムでは『アフターコロナに向けたIT技術』と題し、新たな時代のIT技術とその利活用について様々な視点で講演していただきました。なお、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、ウェビナー(WEBセミナー)形式での開催といたしましたが、ネットワーク環境の整っていない方々に対しては、人数制限を設けてご来場いただきました。
開催にあたり、公益財団法人郡山地域テクノポリス推進機構評議員の伊藤清郷氏がご挨拶しました。伊藤氏は、本フォーラムの趣旨について説明し、「ご聴講の皆さまには是非最後まで聴講いただきたい」と切に願いました。
続いて、産学官の代表にそれぞれの視点からご講演いただきました。

《産を代表して》 『アフターコロナにおける地域戦略』
一般社団法人 福島県情報産業協会代表理事(会長) 鷺 弘樹 氏


福島県情報産業協会は、ICT・情報産業・コンピュータ等を生業とする団体であり、福島県の情報化に貢献するとともに、ICT分野で働く人たちが活躍することにより福島県の地域や産業が豊かになることを目指しています。その代表理事である鷺氏は、「より便利に」「不可能を可能に」「夢を現実に」してきたICTの技術進歩と社会での活用の歴史について触れ、ICTを使って何をするかが大事だと指南しました。次に福島県の課題を挙げ、DX、地域創生においても地域間の競争であり、攻めのまちづくりや他県との差別化戦略の必要性を示しました。さらに、福島県の地政学的な優位点や県民の意見を踏まえ、鷺氏が考える地域戦略について提案。地方社会の共通する課題はDX、ICTの積極的かつスピーディな活用で解決していくことなどをポイントに挙げました。特に、アフターコロナにおいては、仕事・生活の場として選択される環境の構築と内需経済・外需経済といった経済的発展につながる施策が重要だとしています。そのためにも地元企業を支援するICT技術の構築やDXの進展、ICTインフラ整備を積極的にやるべきだと強調しました。最後に鷺氏は「こうしたことを実現するために、我々もプロとして新しい技術をつくり活用していただけるよう研鑽していきたい。これを機に産学官が連携して福島県の将来のために邁進していきたい」と決意を述べました。

《学を代表して》 『DXを支える情報基盤 』
日本大学工学部情報工学科 林 隆史 教授


昨年、コロナ禍の中で日本のデジタル化の遅れが浮き彫りになりました。林教授は、2000年以降、様々な取り組みや計画があったにも関わらず、なぜ現状上手くいっていなかったのかを振り返りました。2000年代になり、ビッグデータやディープランニングの発展により、データをデジタル化することは進みました。DX(デジタルトランスフォーメーション)をアナログではできなかったことを実現し、さらに新しい価値を生み出す変革と捉え、重要なポイントはデータを流通し、組み合わせて新たなデータをつくることだと示唆しました。そして、デジタル化とDXには、必要なデータだけを流通させることや、データ同士の組み合わせによる価値の向上、さらにデータとイベント(プログラム内で発生した動作・出来事)の組み合わせが重要だと言及。実際に導入するにあたっては、ゼロからつくるのではなく、複数のソフト・システムを組み合わせれば様々なことが実現可能だと示しました。具体的にメッセージング・ネットワークを使ったデータの変換や情報の流通手法について説明し、どのようにデータやイベントを組み合わせればよいか、さらにどのような運用が可能かについても提案しました。重要なのは、実際に日常的にどんなソフトやシステムが必要かを考え、それに向けて福島県内のいろいろな組織や人が連携して検討を重ねていくといった地道な作業を行うこと。それを避けたことにより日本のデジタル化が遅れたという見解を示しました。

《官を代表して》 『福島県におけるデジタル変革(DX)の推進について』
福島県企画調整部デジタル変革課 課長 渡辺 春吉 氏


福島県はDXを積極的に進めていくという考えのもと、今年4月に従来の情報政策課を名称変更し『デジタル変革課』を設置。国はデジタル庁を新設し、自治体に対するDX推進を加速させる中、福島県もプロジェクトチームを立ち上げ、基本方針をとりまとめて改革を進めています。渡辺氏は、その基本方針の概要について紹介しました。まず、策定の背景と趣旨について説明し、具体的な現状と課題を示しました。福島県においては震災後の復興・再生と地方創生・人口減少対策、コロナ禍での新たな日常への対応、よりよい行政サービスの提供、市町村の行政事務の共通化・標準化などを実施するためにDXを推進する必要があると述べました。デジタル技術やデータを効果的に活用し、新たな価値を創出することで県民一人一人の豊かさや幸せを実感できる県づくりを実現することを基本理念とし、行政のデジタル変革と経済・暮らしに関わる地域のデジタル変革の二つを柱にスマートシティの実現を目指します。具体的には、行政手続きへのオンライン化やキャッシュレス決済の導入、Web会議の拡充や庁内ネットワークの無線化を進めていくと説明しました。また、市町村の実情に応じて様々な取り組みを支援することも始めています。渡辺氏は、「DXを推進しながらも都度改善を図り、効果的なものはどんどん取り入れて、県民の皆さまにDXの成果を認識していただけるようにしていきたい」と抱負を述べました。

DX、デジタル化の推進・活用を福島県の発展につなげるために

渡辺 春吉 氏

林 隆史 教授

鷺 弘樹 氏

中野 和典 教授

次に、研究委員会副委員長の中野和典教授をコーディネーターとし、ご講演いただいた3名によるパネルディスカッションを行いました。講演者の方々から、他の講演に対する質問をいただきながら、議論を進めていきました。その中で、デジタル化の共通化・標準化が進まない要因について、様々な意見が出されました。渡辺氏は、各自治体の基本システムが違っていたことを要因に挙げ、今後はデジタル庁の設置により進んでいくのではないかと示唆しました。デジタル化やIT技術の有効活用に関して、産学からの提案もありました。鷺氏は、中小企業においてRPA(コンピュータ上の作業を自動化する技術)など、人手不足解消や効率化のためのデジタル化の有効性を示すとともに、小売流通業においては価格競争ではなくサービスでの付加価値を創出するために、顧客のデータベースを活用してサービス向上につなげる手法が有効だと説きました。また、林教授はリアルタイムなデータ活用について、イベント情報や気象情報などを組み合わせた交通状況の予測や最適な道案内などが有効ではないかと述べました。


中野教授は福島県のポテンシャルを踏まえ、どうすれば地域を活性化できるか意見を求めました。鷺氏は福島県の宣伝力の弱さを指摘し、福島ゆかりの人や外部の人をインフルエンサーにして、魅力を広めてもらうことを提案。林教授は土地柄の雰囲気をデジタル化できれば面白く、かつ宣伝にもつながると示唆しました。渡辺氏は、コロナ禍でイベント中止や観光自粛をきっかけにWebでの配信が増えたことから、閲覧者を実際の観光客につなげる操作が必要だと述べました。また、県の広報でもデジタル化を図り、世代・エリア・広報媒体などのデータを分析し、それにあわせた情報発信を考えていることを紹介しました。

最後に、本フォーラムを通しての感想や意見を伺いました。鷺氏は、産学官の取り組みは非常に有意義だと述べるとともに、福島県の広域ネットワークを整備してほしいと訴え、特に子どもたちへのICT教育は将来の福島県への投資として積極的に導入することを県に要望しました。林教授は、皆が関心のあることを持ち寄ってデジタル化を進めると同時に、優秀な人材・技術力のある方が能力を発揮しやすい環境づくりが大事だと示唆しました。渡辺氏は、広域ネットワークについても検討していきたいと伝え、今後も様々な方の意見を聞きながらDXをよりよい方向に進めていきたいと述べました。まとめとして中野教授は、本フォーラムが産学官連携のきっかけになったことやDXの概念・問題点などを共有できたとことを収穫として挙げ、活発な議論が展開されたパネルディスカッションは大変有意義なものとなったと締めくくりました。

閉会に際し、工学研究所次長の春木満教授が登壇しご挨拶しました。春木教授は講演者の方々への謝意を述べるとともに、「福島県の課題も示され、ICTの利用により打開できる可能性を感じられた。ICTの方向性についても理解できた」と話し、福島県のDX化への期待を示しました。
フォーラム終了後も登壇者による歓談は続いていました。林教授は素晴らしいフォーラムだったと振り返り、「様々な話から改めて考えさせられたと同時に、IT技術への期待も膨らんだ」と手応えを感じながら、産学官連携がその鍵になると考えていました。鷺氏も「情報サービス産業の立場から福島県に貢献していきたい」と意気込みを見せていました。

産学官連携が地域のデジタル化を加速させる原動力になることは間違いありません。DX推進により、福島県が大いに発展することを願っています。