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第10回ロハス工学シンポジウムを開催しました

『水害からの復興とロハス工学の新たな挑戦』をテーマに
教職員・学生・企業が一体となって取り組むシンポジウム

11月6日(土)、『第10回ロハス工学シンポジウム』が開催され、「水害からの復興とロハス工学の新たな挑戦」をテーマに、ロハスの家群跡地再生プロジェクト第1回報告会を実施しました。
日本大学工学部では、2007年より「ロハスの家研究プロジェクト」を始動させ、2009 年から毎年ロハスの家1号、2号、3号を構築するとともに、「浅部地中熱採集蓄熱システム」や「ロハスの花壇」、「ロハスの橋」、「ロハスのトイレ」を設置し、工学部の掲げる「ロハス工学」の研究を推進し、さらにその成果を公表して活用してきました。しかし、2019年10月の東日本台風により、このエリアは最大約2m浸水し、研究継続の断念を余儀なくされました。この状況の中、教職員で議論を重ねた結果、水害からの復興とロハス工学の新たな挑戦の取り組みとして、ロハスの家以上に魅力的な施設を作ろうとの結論に至り、2020年「ロハスの家群跡地再生プロジェクト」を立ち上げることとなりました。その目的は、この跡地を学生・教職員・地域住民にロハス(健康と持続可能な生活スタイル)を体感してもらう研究施設として再生させることであり、短期(1年)・中期(3年)・長期(10年)・超長期(20 年)にわたり、キャンパス計画を進めるための拠点とすることにあります。今年で10回目を迎える本シンポジウムでは、これまでに検討してきたプロジェクトのグランドデザインについて、教職員や学生の代表から報告を行い、このエリアをロハス工学の発信源とし、さらにここに集う利用者の憩いの場として活性化させるための方策に関し、議論する場を設けました。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、対面とウェビナー(Webセミナー)によるハイブリッド方式での開催となりました。
開催にあたり、はじめに根本修克工学部長よりご挨拶いたしました。根本学部長は「ロハスの家群跡地再生プロジェクトワークショップにおいて検討してきましたグランドデザインにつきまして、本日、教職員や学生の代表から報告を行います。また、シンポジウムの後半において、学外からの有識者を招き、それぞれの立場からご意見をうかがう場を設けておりますので、ロハスの家群跡地再生に向けて、有意義なディスカッションが展開されることを期待しております」と述べ、ロハス工学研究の進歩に向けた新たな第一歩となることを祈念しました。

『ロハスの家群跡地再生プロジェクト』第1回報告会

続いて、岩城一郎工学研究所長兼ロハス工学センター長より全体概要説明を行いました。岩城工学研究所長はプロジェクトの経緯について説明するとともに、ロハス工学シンポジウムの10年の歩みを振り返りました。まず、ロハス工学の概念等について説明し、その具体例としてロハスの家群の研究について紹介。2019年の水害によりキャンパスが被災したことから発足した『キャンパス強靭化プロジェクト』や2020年に開設した『ロハス工学センター』にも触れました。そして、ロハス工学センタープロジェクトの一つとして設置された『ロハスの家群跡地再生プロジェクト』の概要については、“見せる施設”から“使える施設”へ、“家”から“コミュニティ”へなどの新たなコンセプトを掲げ、教職員と学生が一体となって進めているプロジェクトであると説明しました。今後、ロハス工学に留まらず、自然科学、人文科学などを取り込んだ『ロハス学』へ発展させていきたいとの抱負を述べました。


次に、3名の研究者からグランドデザインについて発表を行いました。
建築学科の浦部智義教授は、これまでのワークショップで学生や教職員が議論しアイデアを出し合う中で、一つの形として提案されたグランドデザインの概要について発表しました。はじめに、本プロジェクトのロードマップを示し、随時コンテンツを追加しながら、キャンパス整備につながる持続的なプロジェクトになると説明。また、ワークショップから得られた機能として、「研究」、「工房(ものづくり)」、「交流」を挙げ、これらをどのように施設に入れていくかがテーマになることを示唆しました。さらに、平面図やパースを用いて現時点でのグランドデザインの全体イメージを説明。ロハスの家群の研究成果も活かしつつ、そこにはなかった新たなコンテンツや水害対策の機能も盛り込み、水と緑を操作する場にしていきたいと述べました。
土木工学科の中野和典教授は、水の視点からグランドデザインについて発表しました。中野教授は、動力エネルギーに頼らず水を自給自足でき、汚水で植物を育てる緑化の機能を持つロハスな水浄化システムであるロハスの花壇の研究に取り組んできました。しかし、ロハスの家群は実際に再生水として使用する施設ではなかったため、成果を評価できなかったことを反省点として挙げました。また、ヘルスの視点での研究体制構築の必要性を強調。さらに魚の養殖と野菜の農耕栽培を組み合わせたアクアポニックスの導入を提案しました。
機械工学科の宮岡大専任講師は、専門とするパッシブデザインの視点から発表しました。建物の構造や材料の工夫によって快適な室内環境をつくり出すパッシブデザインの手法をグランドデザインにも取り込むことが計画されています。実際にロハスの家プロジェクトでの断熱・蓄熱・集熱の研究結果を示し、水の熱容量による蓄熱効果や木材の蓄熱・断熱性能について説明しました。新たな施設は常時使える実験施設にし、高効率な冷暖房機器と組み合わせることでの蓄熱・冷熱効果、屋上緑化による遮熱効果への期待を示しました。
大学院教育を通したプロジェクトコンテンツについて、生命応用化学科の春木満教授が報告しました。大学院で実践するロハス工学教育を紹介し、学科専攻の枠を越えて横断的にロハス工学の粋を集めることを必要とするロハスエリアのコンテンツ作成は、大学院教育の教育目標とも一致することから、ディスカッションのテーマとしました。その中で、評価の高かった発表内容について紹介しました。振動発電を利用したカフェや持続可能で健康になるロハスの足湯、思わず駆け込みたくなる避難所づくりといった学生ならではのユニークなアイデアが多々ありました。春木教授は「これらのアイデアも取り入れていきたい」と述べました。
学生のプロジェクトメンバーを代表して、機械工学専攻博士前期課程2年の阿部眞也さんと建築学専攻博士前期課程1年の園田駿希さんが発表しました。阿部さんは学生運営組織『LOHAS・PRO・LABO(仮)』のコンセプト、コンテンツ、広報活動等のアウトラインについて説明しました。『LOHAS・PRO・LABO(仮)』は学生の新しいアイデアから生まれる新規研究・ものづくり・起業を促し支える仕組みをつくり、学生が主体となって次のステップに進める活動を行っていくものです。学生がLOHASを考え、実践し学ぶ機会をつくることを目的としたイベントや開発などのコンテンツを検討しています。現在の活動については、園田さんが発表しました。学科の枠を越えた『創生アイデアコンテスト』への参加、カフェ・FABの見学を行い工房運営の実情と知識を修得するとともに、今からできるものづくり支援として学生が自由に使える3Dプリンターの導入を検討しています。ものづくりの様子や学生の声をSNSで発信する準備も進めていると報告しました。

『ロハス家群跡地再生プロジェクト』が目指すべきもの


第2部のディスカッションでは、第1部の発表者の中野教授と宮岡専任講師に加え、医療法人仁寿会菊池医院理事長兼院長の菊池信太郎氏(日本大学工学部客員教授)、株式会社はりゅうウッドスタジオ代表取締役の滑田崇志氏、株式会社蔭山工務店代表取締役の蔭山寿一氏にもご登壇いただき、『ロハスの家群跡地再生プロジェクト』の目指すべきものは何かについて考えました。

(左から)宮岡大専任講師/中野和典教授/菊池信太郎院長/滑田崇志社長/蔭山寿一社長/村山嘉延准教授

まず、ご挨拶を兼ねて菊池院長に話題提供していただきました。菊池院長は長寿命化や子どもの肥満・痩身の状況とその背景について説明され、地域の人々の健康と生育環境を持続的に良好に保つ社会樹立の重要性を伝えました。次に滑田社長からは話題提供として、木材を用いた縦ログ構法やそれを使った建築の実績について紹介していただきました。建築学科の卒業生でもある蔭山社長には、エネルギーと水を自給自足するロハスの家1号の建設に関する話題提供をしていただきました。その後、電気電子工学科村山嘉延准教授がコーディネーターを務め、ディスカッションを進めていきました。果たしてロハス工学とは何か、ロハスの家群跡地再生プロジェクトが目指すべきものは何かをそれぞれの立場、切り口から意見していただきました。
はじめに、水の自立、水の利用について議論を展開しました。これまで、防水や湿気の面から建築において水を積極的に利用されていない状況があり、それについて各専門分野の立場から意見が出されました。宮岡専任講師は、「新たな施設のテーマに水利用を取り入れることは面白い取り組み」だと述べました。さらに、「ロハス工学とは何か」について議論しました。村山准教授は、「持続可能な社会を実現するために人々が我慢して生活することは健康的とは言えないのではないか」という考えを示しました。菊池院長も「何かを犠牲にして得られたものは持続しない」と指摘。それらの意見を受け滑田社長は、「新しい施設が持続可能なロハスな生活や行動をすることの楽しさを伝える場所に、そして新たな快適性を定義する場所になってほしい」と切望しました。

その後、ディスカッションは本題である『プロジェクトで目指すべきものは何か』に展開していきました。中野教授は「施設を使いながら、ソフト面から快適性を研究していきたい」と発言。ロハス工学をコンセプトに木造建築による病院の建て替えを行った菊池院長は、自ら木の温もりを体感したことに触れ、「人間が健康で快適に生きていくためには自然との共生が重要」と述べました。蔭山社長も、コンクリートと木の熱の伝導性の違いを挙げ、「木造建築は断熱・集熱等の技術が豊富にあり、人や環境にやさしい建築をつくれる」と意見しました。改めて、中野教授が「使える施設にすることが大事」だと述べると、菊池院長は、「学生さん自身がユーザーとなって施設を体験することで、先生方と違う視点の研究テーマが生まれると思う」と示唆しました。これまでの議論を踏まえ、最後にパネリストの皆さんに、『プロジェクトで目指すべきものは何か』についてご意見を伺いました。
蔭山社長:環境の快適性には個人差があるが、対応できるシステムの構築が必要になってくる。地球温暖化の問題から建築業界も木を使う動きが活発化しているので、ぜひ、木に関する研究を推進していただきたい。
滑田社長:失敗を恐れず、日大工学部らしさ、夢のある技術を新しい施設に搭載してほしい。郡山に留まらず、全国に発信できる取り組みとし、学生にとってもトライできる土壌になるように考えていきたい。
菊池院長:心の健康の持続とは、常にやる気を持って明日を迎える喜びを感じられること。学生さんが自分の行ったことを楽しかった、いい思い出になったと感じられる居心地の良い場所をつくるプロジェクトになることを願う。
中野教授:ロハス工学の魅力は、いろいろな分野の人が関われること。そこからアイデアも生まれるので、他分野からの提案も受け入れていきたい。また、文理融合となる『ロハス学』の拠点となる仕組みづくりも考えていきたい。
宮岡専任講師:自然を制御するのは難しいが、研究施設を使いながら、連続した最適な環境をつくっていきたい。さらに、新しいライフスタイルを見つけられたらいいと思う。
村山准教授は総括として、「自然に学ぶという視点に立つことで、各コンテンツの繋がりが強調でき、人類の知恵を活かしたフィールドを創造できるだろう」と述べ、このシンポジウムが起爆剤となり、教職員・学生そして自然との対話に花が咲くことを願って、ディスカッションを締めくくりました。
最後に、佐藤裕之事務長がシンポジウムの閉会のご挨拶として、「まだスタートラインに立ったところであり、教職員・学生の皆さんに意見やアドバイスをいただきたい。それらを参考にしながら、教員の方々の独創的な研究のアイデア、学生の皆さんの柔軟な発想が調和したプランを職員が全面的にバックアップして、ロハス工学の新たな拠点を構築していきたい」と決意を示して、本シンポジウムの幕を閉じました。
今回、パネリストとして参加した蔭山社長は、「卒業生として、このシンポジウムに関われたことを嬉しく思う。水害でロハスの家群がなくなったのは残念だったが、新しいステップにつなげてほしい」とエールを送ってくださいました。本プロジェクトのメンバーでもある滑田社長は、「多分野の先生方が横断的に関わっているプロジェクトはなかなかない。皆さんの強い思いがあれば、きっといいものができる」と確信していました。ロハス工学に共感する菊池院長は、「ロハス工学を具現化した医院をサテライトとして、ぜひ活用してほしい。新施設は学生さんがワクワクするような施設になればいいと思う」と期待を寄せていました。
プロジェクトメンバーとして、本シンポジウムに参加した学生たちは、「パネルディスカッションで、学外の方からの視点の異なる貴重なお話を聴くことができた」、「『LOHAS・PRO・LABO(仮)』も本格的に動き始めた。これからは何か形にして残していきたい」と話しており、学生運営組織の活動にも意欲を燃やしています。
岩城教授は、「シンポジウムも10回を数え、外部の方にもロハス工学を理解したうえでサジェスチョンしていただけるようになった。社会をよくするためには工学だけでなく、学際的につながっていくことが重要。産業界や地域の方々にも関わっていただきながら、ロハス工学を広げていきたい」と今後の展開も見据えていました。
教職員・学生が一体となって、工学部の核となるプロジェクトを進めていることは大きな意義があります。さらに、学内外から多くのご意見をいただきながら、新たなロハス工学の拠点づくりを進めて参ります。