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生命応用化学専攻博士前期課程1年の相内佑斗さんと鈴木祐輝さんが第12回福島地区CEセミナーにて口頭発表優秀賞を受賞しました

地球温暖化対策につながるCO2分離・回収に関する
研究が高く評価される

相内佑斗さん

鈴木祐輝さん


令和3年12月18日(土)に、郡山市ビッグアイで開催された第12回福島地区CEセミナーにおいて、生命応用化学専攻博士前期課程1年の相内佑斗さん(写真左)と鈴木祐輝さん(写真右)が口頭発表優秀賞を受賞しました。本セミナーは、公益社団法人化学工学会東北支部の福島化学工学懇話会が主催するもので、今回は日本大学工学部の他、山形大学、福島大学、福島工業高等専門学校、小山工業高等専門学校から約50名が参加。ポスター発表15件から6件、口頭発表7件から3件が表彰されました。受賞した二人が所属する環境化学工学研究室(指導教員:児玉大輔准教授)では、地球温暖化対策技術として、近年注目されているイオン液体を利用したガス吸収液の開発と評価を行い、二酸化炭素回収・貯留プロセスの構築を目指しています。
二人の喜びの声とともに、研究について詳しくお話を聞きました。

熱力学が面白くて、化学工学の研究にも夢中になっています

塩化コリンとエチレングリコールからなる深共融溶媒のCO2吸収特性の評価
相内佑斗さん(生命応用化学専攻博士前期課程1年・環境化学工学研究室)

私たちの研究室では、地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの分離・回収に関する研究を行っています。2050年にカーボンニュートラルを実現するために、昨年4月、日本は2030年度時点における温室効果ガス削減目標を2013年度比で46%にすると表明しました。特に、火力発電所などから排出されるCO2を回収する新しい技術が求められています。現在、イオン液体(IL: Ionic Liquid)を使ったガス吸収法の研究を進めていますが、実用化にはコスト面での課題があります。そこで、CO2を選択的に吸収する性質を持つ深共融溶媒に注目しました。深共融溶媒(DES: Deep Eutectic Solvent)は、水素結合受容体(HBA: Hydrogen Bond Acceptor)と水素結合供与体(HBD: Hydrogen Bond Donor)の共融点組成の混合物で、液体として使うことができ、揮発性が低く燃えにくいだけでなく、イオン液体よりもコスト面で10分の1から20分の1程度に抑えられるメリットがあります。本研究室で深共融溶媒を使用するのは初の試みだったので、初期段階として粘性の低い塩化コリンとエチレングリコールを混合した深共融溶媒を使って、CO2がどれくらい溶けるのか実験を行いました。結果、どちらも圧力上昇に伴い、CO2溶解度が高くなる物理吸収の挙動が見られました。10年ほど前にも同じ系の測定結果を発表した論文がありましたが、本研究ではどの温度においても、CO2溶解度の値は文献値よりも低くなりました。既往論文の試料の調整法や測定法に問題があると思われ、精密な測定技術に基づく本研究の結果は、信頼性が高いと考えられます。物性研究では、いかに精度の高い測定をできるかが重要であり、今回の発表でもその正確性が評価されたと思います。大学院進学後、何度か学会発表を経験しましたが、初めての受賞だったので嬉しく思いました。セミナー発表後の質疑応答では、液体にCO2が溶ける際の発熱に着目した質問などもいただき、今後研究を進める上でも大変ためになりました。

高校在学中は生物に興味があって、大学に進学する際に生命応用化学科を選びましたが、研究を進めていくうちに、化学や物理の面白さを実感できるようになりました。特に熱力学を基盤とする化学工学物性に興味を持ってから、その応用としての分離プロセスを設計・操作する面白さも見えてきました。また、児玉先生や上席研究員の横山千昭先生(東北大学多元物質科学研究所・元教授)とのディスカッションをする中で気づくことが、日々あります。やり直せるなら、学部1年から学び直したいですね(笑)。現在、いくつかの投稿論文を執筆しているところですが、大学院在学中に筆頭著者として論文をまとめることが目標です。また、自分自身で創出した研究テーマにも挑戦してみたいと思っています。これまで誰もやったことがない研究で、世の中の役に立つことができるようになりたいです。

研究を通して学ぶことは、自分自身を成長させる糧になります

CO2分離回収におけるホスホニウム系イオン液体のアニオン種の効果
鈴木祐輝さん(生命応用化学専攻博士前期課程1年・環境化学工学研究室)

地中から採掘される天然ガスである炭化水素は、私たちの生活にも幅広く利用されている有用でクリーンなエネルギー資源です。天然ガス採掘の井戸元からメタンを主成分とする天然ガスを採りだす出す際、採掘されたガスの中にはCO2などの不純物も含まれるため、これらを除去する方法として、現在、アルカノールアミン類などの化学吸収液やSelexolなどの物理吸収液が利用されています。しかし、井戸元によっては、CO2と同時に有用な資源であるエタンを始めとする天然ガス液(NGL: Natural Gas Liquid)も多く溶解してしまい、その大半を回収できずに棄却されてしまっていることが課題として挙げられています。そこで、注目を集めているのが、酸性ガスを選択的に吸収できるイオン液体です。よりCO2を選択的に吸収できるイオン液体を見出すために、本研究では、中央大学、金沢大学、地球環境産業技術研究機構(RITE)と共同で進めているホスホニウム系イオン液体のアニオン種の効果について検証しました。共同研究先で機械学習と量子化学計算に基づくシミュレーションによって予測された高いCO2吸収能を有する3種のホスホニウム系イオン液体について、本研究室にある磁気浮遊天秤で実測しました。さらに、メタン、エタン、エチレンといった炭化水素の溶解度も測定した結果、エタン溶解度が最も高い値を示した一方、エチレン溶解度はどのイオン液体においてもCO2溶解度とほぼ同じ結果となりました。今回の測定結果から、メタン以外の炭化水素とCO2を分離してCO2のみを回収することは難しく、従来の吸収液と比較しても期待したような結果を得ることはできませんでしたが、世界初のデータであり、現在、投稿論文を執筆しています。
本発表により、受賞できたことは素直に嬉しく思います。説明の仕方やスライドの作り方も評価いただいた点なのかと思います。しかし、これに満足せず、より一層研究に励んでいきたいと考えています。環境化学工学研究室では、この共同研究以外に、企業との共同研究や研究室独自にイオン液体の開発と物性測定も進めているので、CO2を選択的に分離・回収できるようにすることが目標です。

学部1年の後学期に児玉先生(下の写真中央)の講義を受講してから考え方が変わったことがきっかけで、児玉先生にご指導いただきたいと思い、この研究室に入りました。研究を通して学んだことは全て勉強になるので、しっかり身につけたいと思っています。単に実験を行うだけでなく、熱力学的に解析するなど、なぜそうなったのかを論理的に説明できるよう理解を深め、評価される成果を挙げて、今後の学会発表でも受賞できるように頑張ります。そして、最終的には論文として発表し、次の研究テーマに挑戦していきたいと考えています。