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日本設計工学会東北支部設立45周年記念研究発表講演会で機械工学科4年の桑原舜さんと機械工学専攻1年の岡田浩暢さんが学生優秀発表賞を受賞しました

ロコモの予知予防診断・変形性膝関節症(OA)の
早期発見につながる研究として高く評価される

桑原舜さん

岡田浩暢さん

11月6日(土)に、公益社団法人日本設計工学会東北支部設立45周年記念研究発表講演会が行われ、計測・診断システム研究室(指導教員:長尾光雄教授)の桑原舜さん(機械工学科4年/写真左)が発表した『平面上を円筒接触子が往復摺動する摩擦に関する実験-潤滑油の粘度と混入砥粒度の組合わせによる場合-』と同研究室の岡田浩暢さん(機械工学専攻博士前期課程1年/写真右)が発表した『運動型健康増進施設利用者のバランス機能と膝関節音の調査-中高年齢者の場合-』が学生優秀発表賞を受賞しました。二人は、人間の膝関節の劣化メカニズムの解明に取り組んでおり、ロコモの予知予防診断・変形性膝関節症(OA)の早期発見につながる研究として高く評価されました。
二人の喜びの声とともに、研究について詳しくお聞きしました。

■研究の背景

本研究室では、生涯自立歩行できる身体づくりを支援する計測診断システムの開発と普及のための実証試験を医工連携チームで取り組んでいます。加齢などにより運動器の障害が要因で移動のための歩行機能が低下した状態をロコモティブシンドローム(運動器症候群)と言います。特に膝関節の劣化と下肢バランス機能の衰退に着目しており、加齢やフレイルによるバランス機能や膝関節の擦れ信号を計測するとともに、膝関節面の擦れ信号状態をメカニカル的に再現して膝関節面の劣化状況を推測診断するための研究に取り組んでいます。変形性膝関節症(膝OA)などの早期発見・予防、歩行寿命の延伸につながる研究であり、元気に歩ける高齢者のために、ロコモをAIで診療できるシステム開発と普及が目標です。学生は、工学の基礎力を修得し、自主的に考察し判断できる発想力及び解析能力を身につけ、さらに、工業技術が社会と環境に及ぼす影響を理解することにより、高い倫理観をもって調和のとれた持続可能な社会の実現に貢献できる人間性豊かな技術者となることを希望します。

機械工学科4年 桑原舜さん(計測・診断システム研究室)
『平面上を円筒接触子が往復摺動する摩擦に関する実験ー潤滑油の粘度と混入砥粒度の組合わせによる場合ー』

人間の膝関節に着けた骨関節音響センサ(BJAS)で計測した情報から膝関節面の中で起こっている摩擦摩耗の状態をメカニカル的に予測再現することは、劣化メカニズムの解明につながります。そこで私たちは、ロコモや膝OA診療の工学的なエビデンスの検証に取り組んでいます。まず、屈伸運動による膝関節面の摺動は平面と円筒で接触させ、これを往復摺動させています。膝関節面の軟骨は摩擦により摩耗も進みその摩耗した組織がさらにこれらを促進することが知られており、これに近い状態を再現試行するために、研磨剤に使われる砥粒を使いました。これは関節面が摩耗して削れたことによって飛散した組織を再現するためです。さらに膝関節面は高潤滑機能を支える滑液に満たされており、これを潤滑油で代用しました。粘度の低いものを変形性膝関節症(膝OA)の疾患を持った人に、次に粘度が低いものを高齢者に、粘度が高いものを青年の滑液に見立てて、3種類の潤滑油を用意。砥粒は、全く入れないものを正常な人の膝関節とし、砥粒の大きさによって高齢者、膝OAの患者の違いを再現しました。このように潤滑油の粘度と混入砥粒度を組合わせて、BJASからの信号(特許)を再現する実験を行いました。平面と円筒接触子の上にBJASを載せて摺動させた時の摩擦の信号を計測します。このBJASも自分たちで製作(特許)したもので、このセンサ精度の評価もこの試験機で行っています。 実験では、摩擦摩耗と発信をバイオメカニクスで扱う仕事量のモデルに置き換え、摺動時の摩擦抵抗と発信がこれらの組合わせから計測した信号の再現に関わるのかを確かめました。その結果、高粘度で砥粒含まない摩擦抵抗が最小となり、砥粒径の大小は信号強弱と相関するなどがわかりました。今後は、臨床診察と膝関節信号情報から関節面で起きているメカニカルな現象を摺動面状態とその摩擦摩耗から推測できるシステム作りが目標です。
オンラインでしたが、学会での発表は初めてだったので、とても緊張しました。得票数の多い順に受賞者が発表されたのですが、最初に自分の名前が出てきて大変驚きました。発表原稿やプレゼンを作成するにあたり、長尾先生に熱いご指導をいただきましたし、これまでの先輩方の研究の積み重ねや一緒に研究を進めてきた岸本翼くんの頑張りがあってこその受賞だと思っているので、皆さんに感謝したいです。膝OAに関わる摩擦摩耗に関する想定実験は難しいので、思うような結果は得られませんでしたが、結果を踏まえてしっかり考察し発表できた点が評価されたのかなと思います。それから、機械と医療を組合わせた研究分野への期待の高さから受賞につながったのではないかと推察しています。
臨床工学技士課程も履修しており、もともと医療に興味があったので、この研究にやりがいを感じています。将来は機械工学科で学んだ知識を活かして、医療現場で貢献できたらと思っています。

機械工学専攻博士前期課程1年 岡田浩暢さん(計測・診断システム研究室)
『運動型健康増進施設利用者のバランス機能と膝関節音の調査 ー中高年齢者の場合ー』

ロコモの要因の一つとして、筋骨格を形成する骨の継手となる関節群の変形があります。私たちはその中で、変形性膝関節症(膝OA)にバランス能力の低下が関係していることに着目しました。運動型健康増進施設(厚生労働大臣認定 健康増進施設制度)を定期的に利用し運動している55歳以上の中高年齢者を対象にバランス機能と膝関節音の調査を行いました。重心動揺計を使って重心の位置を計測してバランス機能を解析。バランス指標を表すIPSの値が低いとバランス能力が低下していることを示しています。実験結果からも年齢が高くなるにつれバランス機能が衰えることがわかりました。さらに、膝関節の右足左足の脛骨の内と外、および膝蓋骨の3か所の音(信号)も計測しました。関節面軟骨のすり減りやストレスが大きいと音が大きく、信号の数も多くなると考えられます。やはり、年齢が低いと信号の数は少なく、年齢が高いと信号の数は多くなりました。また、大腿脛骨の外側角(L-FTA)の角度ですが、正常な人は約180度前後で、180度以上が内反(O脚)、175度以下は外反(X脚)になります。年齢が低いとO脚が多く、年齢が高いと正常に近くなりました。なぜ正常に戻るかを解析した結果、加齢により膝関節が痩せてくるので相対的に両膝間隔幅が狭く(見掛け上外反)なることによって正常に近い値になることがわかりました。
本研究は先輩が進めてきたもので、今年の4月から引き継ぎました。このテーマでの学会発表は初めてでしたので、受賞できて大変嬉しいです。画面に名前が映し出されたときは、研究室にいたみんなから祝福の拍手をもらって、嬉しさも倍増しました。受賞できたのは、長尾先生にご指導いただいたおかげだと思います。日本は高齢化率36%と平均寿命も高くなり、ロコモの問題も重要視されることから、運動とロコモ、バランス機能に着目した調査研究を行っていることがポイントになりました。さらに、膝関節音から膝OAとロコモを診断する計測システムの開発に関わる研究は他にはなく、センサBJASもオリジナルで開発している点が評価されたのではないかと思います。人間を対象とする研究なので、人それぞれ状態や状況によってデータも変わってくるため、再現するのは難しくなりますが、だからこそやりがいがあります。また、予想と違う結果に一喜一憂しながら取り組めるところが、この研究の面白さだと感じています。今後は、修士論文のまとめに取り掛かります。講演発表会では、年齢増加に伴うX軸に関わる評価のファクターをY軸で示し、この2次元相関を線形近似で考察しました。これに対して危険率(有意水準)に関わる統計処理で見比べたら、結果も変わるのではないかというアドバイスをいただき、その整理をしています。また、WHOではこの課題に関して幼少期からの運動機能維持もロコモ発症と対策に関わっていることも報告されています。中高齢者でも運動していない人、若い人の場合はどうなのかを検証したいと考えています。