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建築学科の山口和紀さんが『JIA東北学生卒業設計コンクール2022』において優秀賞を受賞しました

山間集落の地域コミュニティの再構築に資する丁寧な建築提案が高く評価され、全国大会出場(工学部としては9年連続)が決定

『JIA東北学生卒業設計コンクール2022(公益社団法人日本建築家協会東北支部主催)』の審査会が3月23日(水)に行われ、建築学科4年(当時)の山口和紀さん(建築計画研究室/指導教員:浦部智義教授)の作品『峠の集落 ―小さな建築の大きな役割―』が優秀賞を受賞しました。審査会は、Zoomを使って画面を共有しながら発表13分、質疑応答7分、計20分のプレゼンテーションによって行われました。各大学・高等専門学校の卒業設計の代表である11作品から、審査員長の進藤勝人東北支部長と各県地域会の代表6名の計7名の審査員が一人3票の持ち票を投票して、得票数の多い3作品が優秀賞以上に決定。この結果、優秀賞に輝いた山口さんの作品は、6月18日(土)に行われる『JIA全国学生卒業設計コンクール2022』の東北支部選考作品として選出されることが決まりました。本学から9年連続の全国大会出展となります。
山口さんに受賞の喜びと作品について詳しくお話を聞きました。

―優秀賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください、

卒業設計にあたり、これまで指導教員として半年以上、研究室でご指導いただいた、というか一緒に多角的にスタディをしていただいた浦部先生はもとより、学内の講評会などで学科の渡部先生や市岡先生はじめ多くの先生方にご指導やアドバイスをいただきました。賞をいただくことで、その恩返しができたのかなと思うと、大変嬉しいです。自分としては、実効性も視野に入れ、地域社会の延命につながる提案として、小さな建築でも、つくることを通して地域社会に貢献できるイメージを見せたかったので、お世話になった方たちにもそれを学外の審査員の方々にも、少しは理解していただけたのかな、と思っています。また、卒業設計作品を本コンクールの規格用に修正しなければならなかったので、その過程で浦部先生に改めて時間を掛けてエスキスをしていただき、図面やパースを加えるなど、コンクールに向けて設計主旨は大きく変えずに表現は大幅に修正しました。その甲斐もあって受賞できたと思いますので、浦部先生にはとても感謝しています。

―作品について詳しく説明いただけますか。

中山間地域の少子高齢化・過疎化の進展が課題とされる中、里山の暮らしを無理なく維持する建築的な仕掛けができないだろうか、というのを出発点に設計した作品です。地域によっては、限界集落となるなど、この課題を一般論として解決するのは容易ではありません。一方で、個々の集落に目を向けると、そこには少数ですが、子どもが育ち、活発とは言えないまでもが生業があり、長い歴史を持った人々の暮らしが存在します。そのような集落を1つ丁寧に調査した上で、地域に現存する資源を活かした提案を目指しました。選定した敷地は、米どころで有名な新潟県南魚沼にある栃窪集落。耕作放棄地も増えていますが、集落の中心部に、小学校、神社、棚田といった、何とか残された地域資源が高低差を持ちながら適度な距離感で一直線に並んでいます。それらに小さく手を加え、少人数の学校でも広がりのある教育、平地が少ない場所でも豊かな子どもの遊び場、過疎化しても維持管理しやすい棚田、集落内外の人とともに歴史性を体感できる文化などを、相互補完的に複合させながら集落にとって大きな意味を成す建築群をつくり出しました。
具体的に、麓から順に、木質空間を中心とした屋上などの増改築によって、宿泊や学校を開くような機能を持たせた小学校、仮設建築の舞台など季節を限定した特別感のある空間をつくる神社(十二社)周辺、コイ農法を取り入れた棚田周辺の教室群、また、学校行事はじめ小規模な文化的活動にも対応できる棚田頂上の管理棟を配置。積雪のある風土も考慮した三角のやぐらをモチーフにデザインを施し、既存の風景に馴染むランドスケープを意識して連なるように配置したところが、この作品の特徴となっています。また、地域の木を活かした三角形の内部空間は、空間の魅力と共に施工の簡略化も意識しています。
小さな集落のコミュニティを無理なく維持しつつも、集落内外の従来にない関係性も無理なく創出できる仕掛けを、場合によっては一定期間後に元に戻れるような、身の丈に合った設計を行いました。

―どのような点が評価されたと思いますか。

まずは、オンラインにも関わらず十分見応えがあったと評価されたのが建築模型の精度かなと思います。「中山間地域における集落の再生という難しいテーマに真摯に取り組んだ姿勢が感じられた」と講評いただきました。また、「既存の風景や地域資源を活かして、里山の暮らしを維持し続けながらのコミュニティ再形成を目指した提案」だと見ていただけたので、戦略的なエリアマネジメントとしても評価してもらえたのではないかと思います。「既存改修や新築による小規模な建築を通した、アクティビティ豊かな住人らによる協働のプログラムは、『集落全体が学舎』となるような印象を与える秀作の一つ」という講評もいただきました。建築の可能性としての議論やご意見をもっといただけたらという思いはありますが、社会でさまざまな課題を、建築を通して解決することに取り組まれている建築家の視点で作品の良い面を引きだしていただき光栄に思います。

―全国大会に向けての意気込みをお聞かせください。

私の作品は、地味に映るかもしれませんが、全国の多くの場所で起こり得る集落の課題に、背伸びせずに取り組む手法を、建築で見える化した小さな現実的な課題解決に対するエリアマネジメント的な提案なので、それが全国大会でどう受け入れられるかが鍵になるでしょう。卒業設計としては小さめな建築群だけれど、それらの機能がシンクロしている所が図面・模型で上手く伝わると、ランドスケープと相まって、自分が考える大きな提案として理解されるのでは、と浦部先生からも励まされていますので、最後まで頑張りたいと思います。

建築学科令和3年度卒業設計展で行われたJIA東北支部福島地域会審査会の様子

―ありがとうございました。全国大会での活躍を期待しています。

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