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建築学専攻の院生チームが、『第8回JSCA東北支部構造デザインコンテスト』で最多得票賞を受賞しました

竹を使って「輪」を築く斬新な作品が
多くの方の支持を集め最多得票賞に輝く

左から濱尾博文非常勤講師、稲葉雄大さん、三沢健介さん、長島周さん、園田駿希さん、浅里和茂教授

7月9日(土)に「JSCA東北支部第8回構造デザイン交流会」(一般社団法人日本建築構造技術者協会東北支部主催)が開催され、第1部で行われた構造デザインコンテストにおいて工学部の大学院生チームが発表した作品『築輪(ちくりん)』が、見事「最多得票賞」を受賞しました。審査員による投票では惜しくも選に漏れましたが、関係者による投票では最多となりました。
大学院1年次のカリキュラムの一つ、建築構造設計特別実習(担当教員:浅里和茂教授、濱尾博文非常勤講師)では、実際に実施計画されている具体的な設計課題を対象にして実務演習を行っています。本年度、構造デザインコンテストの『震災復興10年~語り部の想いをつなぐ移動式伝承の場』をテーマに構造設計制作に取り組みました。その中で、濱尾先生のご指導のもと実際のコンテストにも応募することになり、建築学専攻1年(M1)の稲葉雄大さんと長島周さん(ともに空間構造システム研究室/指導教員:野内英治准教授)、そして昨年のリベンジを果たすべく同2年(M2)の園田駿希さん(建築・地域計画研究室/指導教員:宮﨑渉専任講師)と三沢健介さん(鋼構造デザイン研究室/指導教員:浅里和茂教授)がチームを組んで参加しました。
それでは、受賞したメンバーの喜びの声とともに、提案した作品『築輪』ついて詳しく紹介します。

最多得票賞おめでとうございます。M2の園田さんと三沢さんは昨年のリベンジが果たせましたね。

昨年は二人で出て散々な結果でしたが、今年はM1の二人が参戦してくれたおかげでリベンジを果たすことができました。来年は最優秀賞が取れるのではないかと期待しているところです。

M1の稲葉さんと長島さんはこれまでコンペに参加したことはあったのですか。

 今回が初めてでした。私たちは構造系の研究室に所属しているので、計画系の研究室のようにデザインコンペに参加することはなかなか無いのです。最初は手探り状態でしたね。エントリーしてから事前概要書の提出まで2週間くらいしかなくて、授業の合間を縫って議論を重ねながら形にしていった感じです。とても濃い日々でした(笑)。逆にタイトな時間だったから、密に連携が取れてチームワークが発揮できたのかもしれません。誰が欠けても賞には届かなかったというくらい、バランスの良いチームでした。

提案された作品『築輪』について詳しく説明いただけますか。

このコンテストは、災害に対する思いを新たに伝承する場をテーマに、震災の語り部が講演できる小ステージを持ち、50名程度が収容できる仮設屋根を提案することが課題でした。組立て・解体が簡易にできる仮設構造物であることも評価対象で、使用する構造材料は自由でしたが、力学的安定のための概略検討は必要とされていました。まずは、4人でアイデアを出し合いました。その中で最も実現性が高かったのが、園田さんの「竹」を使ったドーム型のデザインでした。濱尾先生も竹の発想は面白いと推してくれましたし、構造解析の面からもアーチ形状は解析しやすいのではと考えて、この案に決めました。
基本構造は、アーチ形状にした同じ長さの12個の竹をそれぞれ10度の角度を設けて配置することでドーム空間を形成します。アーチの頂点部分で竹が接触しないように高さをずらしていきながら、分弦の長短を用いて調整しました。竹本来の強度を発揮できるように、アーチ頂部に位置する竹と竹の接合部には印籠継手を採用。運搬負荷の軽減や解体後の再利用を考えて、接着剤等を使用しない高い施工性を有した接合方法にしました。模型に使った竹串はバーナーで焼くことによって形状を固定化して耐久性を高めています。基礎部分はMDF(木材を原料とした中質繊維板)を使い、ちょうど人が座れる高さに設定しました。

 それぞれ役割を分担して、作品の制作を進めました。園田さんはボードの材料を揃えたりCGでパースや模型をつくったり、三沢さんはAnsys(アンシス)というプログラムを使って、コンピュータで接合部の安全性検証や竹ドーム形状の構造安全性検証を行いました。
M1コンビでコンセプトや概要説明書の作成やプレゼンの構成内容を考えました。震災から復興、伝承をつなぐ循環の「輪」、人と人が語らう集いの「輪」、この二つの「輪」を繋ぐ仮設屋根として、軽くて曲げと引張力に強く、被災地の記憶を持つ竹の「輪」から、「“輪”を築く」をコンセプトに、タイトルを『築輪』にしました。実は、タイトルの『築輪』に関しては、“ちくりん”と読ませるか“ちくわ”と読ませるかでいろいろ議論しました。最終的には“ちくりん”にしましたが、図らずも“ちくわ”と読む方が多くいたのは狙い通りでもありました(笑)。

審査はどのように行われたのですか。

 当日は発表者と審査員は対面形式でオーディエンスはオンライン参加の併用で開催されました。参加チームは8チーム。発表時間は1チームあたり質疑応答含め10分でしたが、質疑応答では議論が白熱して時間がオーバーしていましたね。意匠の部分は長島さん、構造の部分は稲葉さんが発表し、M2コンビが質疑応答に対応しました。審査は発想力、技術力、表現力の3項目で評価されました。点数上位のチームが選ばれ、建築専門審査員による公開討論を経て、最優秀賞と優秀賞が決定。そして、Webで聴講した方の得票数が最も多かった作品に贈られる最多得票賞に選ばれたのが、私たちの作品『築輪』だったというわけです。

最多得票を獲得できた要因は何だと思われますか。

 自分たちでもよくわからないというのが、正直なところです。審査員の得票数では4位止まり。それが聴講者票はダントツの1位でした。公開討論では審査員の方々の意見を聴くことができましたが、聴講者の方のレスポンスはないので、1位になった要因は実は掴めていません。この作品への注目度が高かったということは間違いないと思います。発表の際には、他ではやっていなかったCGを使ったパースのイメージ動画や模型製作時の動画を活用していたので、Webで見ている方への訴求効果も大きかったのでしょう。
 また、作品に込めた思いも伝わったのかもしれません。私たちの出身地も福島や山形、千葉などバラバラですが、ここに集まる聴衆も震災との物理的な距離、震災に対する思いや記憶にも距離があると思います。だから、語り部にも聴衆にもそれぞれの距離感で関われるように、自由性を持たせる空間にしました。全国各地を巡る中で、語り部や聴衆の思いが生物である竹に滲み込んでいき、最後は燃やすことにより震災で亡くなった方を弔いたいと思いました。そこからまた新たな語り部をリスタートさせる。伝承していきつつ、悼みを引きずっていくのではなく、輪廻転生させたいという思いを、「輪」を使って表現しました。私たちがいろいろ議論し考えことが『築輪』を通して伝わって、多くの方に共感いただけたとしたら、提案して良かったと思います。

コンテストに参加して、どんなことが学べましたか。

 本格的なグループワークを経験するのは初めてのことで、模索しながら実現するまでのプロセスを体験できたことは、今後にも活かせると思います。接合部や施工についてもいろいろ検討してきたので、構造的なノウハウも蓄積できたと思います。熱を加えて曲げられるのかといった竹の特性を把握するために、竹の研究をしている研究室から竹をいただいて、実物大のスケールで実験もしました。竹を切ったり割ったりすることは滅多にできるものではないので楽しかったですし、実際に使う材料に触れたことは貴重な経験になりました。

 それから、他大学の学生のウィットに富んだアイデアも勉強になりました。私たちは実践的な提案を目指していましたが、もっと柔軟な発想力も大事だし、現実離れしたアイデアをどう形にするのかを考えることも重要だと感じました。また、建物を造るだけでなく、復興や地域の活性化にどう活かしていくか、地域創生、復興へのアプローチを考えた作品は印象に残りましたし、そうした提案も考えていきたいと思いました。
 M1コンビとしては、この実績・経験をこれから始まる就職活動にも活かしていきたいと思います。

ありがとうございました。今後益々活躍されることを期待しています。

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