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建築学専攻の川崎浩長さんが2021年度日本建築学会大会(東海)学術講演会で若手優秀発表賞を受賞しました

自己治癒コンクリートの普及を目指した
研究成果が高く評価される

この度、建築学専攻博士後期課程1年(受賞当時は博士前期課程2年)の川崎浩長さんが、2021年9月7日に開催された『2021年度日本建築学会大会(東海)学術講演会(主催:一般社団法人日本建築学会)』において、若手優秀発表賞を受賞しました。この賞は、日本建築学会大会における学術講演会の活性化、特に若手による学術講演を顕彰するためのもので、川崎さんの発表した「バクテリアを添加したモルタルのひび割れ自己治癒性能に関する基礎的検討」は、材料施工部門での受賞となりました。
川崎さんが所属する鉄筋コンクリート(RC)構造・材料研究室(指導教員:サンジェイ・パリーク教授)では、最先端の建築材料開発に力をいれており、その成果は国内外から注目を集めています。
受賞した川崎さんの喜びの声とともに、研究について詳しくお話を聞きました。

若手優秀発表賞の受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

材料施工部門では605題の発表がありました。そのうち30歳未満の発表者は230名で、約10%にあたる25名が若手優秀発表賞に選ばれました。学生だけでなく、若手研究者も多数いる中での受賞でしたので、大変驚きました。昨年度が初めての学会での発表でしたから、まずは場の雰囲気を掴んで、質疑応答にもなんとか対応できればという心持ちで臨んだので、賞をいただくことは全く予想していませんでした。でも、大変嬉しいです。オンラインでの口頭発表でしたが、事前に5分間のオンデマンド発表動画を作成し、当日は1分間で概要を説明するなど、他の学会よりも時間を掛けて取り組みました。その分、頑張った甲斐があったと感じています。

学部の卒業論文でも『日本建築材料協会優秀学生賞』を受賞されましたが、今回受賞した研究内容は?

今回発表した内容は、バクテリアによるコンクリートのひび割れ自己治癒について、基礎的な検討を実施した結果の報告です。バクテリアの働きを活用してひび割れを閉塞させることができる『自己治癒コンクリート』は、今、最も注目を集めている建築材料の一つです。学部の時は、当研究室で発案したオリジナルの試験方法で実験を行っていましたが、大学院進学後は自分が発案したオリジナルの試験方法を用いて研究を進めています。これまでの方法では、試験体を割るような形でひびを入れ、そのまま試験に用いるため、ひび割れ幅が変動しやすいという欠点がありました。私が発案したのは、円柱の型枠で試験体を保護する方法です。バクテリアを添加して円柱の型枠内に打ち込んだモルタルを脱型して、水中養生した後、ひび割れを発生させて再度型枠に戻すことで、モルタルを保護した状態で試験が行えるようになりました。それにより、これまでの試験方法よりも正確な実験結果を得ることができます。モルタルの入った円柱の型枠に上から水を入れた時に、試験体下部のひび割れからどれだけの量の水が滲み出してくるかを測定します。通水、滲出が無くなれば、ひび割れが治癒したことになります。早いものでは3週間程度で修復していました。
通常、ひび割れがないかを検査する作業やひび割れが生じた際に補修する作業には人の手が必要になります。バクテリアを使うことによって、そうした人の手を掛けずに自然に補修することができるのは大きなメリットです。また、治癒したことで水密性が回復し、劣化しにくくなることも利点として挙げられます。現在、試験的に建物に実装されていますが、実際にひび割れが入った時にバクテリアが活動できる温度や湿度などの条件についても検証して、適用可能範囲を明らかにする必要があります。今回は、温度37℃、相対湿度90%というバクテリアが活動しやすいと考えられる環境下での実験でしたので、今後は温度や湿度の条件を変えたり、屋外曝露の環境でひび割れの修復状況を検証していきたいと考えています。

どんな点が評価されたと思われますか。

研究の目標であった、バクテリアの添加量によるひび割れ自己治癒性能の違いを明らかにした点が評価されたと思います。これまでの試験方法での欠点を改善し、より正確な実験結果を示したこともポイントになりました。それらが高いレベルの研究だと認められたことが受賞の要因の一つだと思います。そのほか、発表資料の出来映え、当日のプレゼンテーションのわかりやすさと質疑応答のスムーズさなどを加味して、優れた発表だと評価されたのではないでしょうか。斬新な研究なので興味を持たれる方が多かったのか、質問も多数いただき、注目度の高い研究なのだと改めて実感しました。

今後の目標をお聞かせください。

博士後期課程に進学したので、これまでの研究を深めていくと同時に、実用性を示す実践的な研究にも取り組みたいです。コストの面を考慮しつつ、ひび割れの早期修復を可能にする自己治癒コンクリートを広く普及させていくことが目標です。現在は通水試験や強度試験など巨視的な検討を行っているので、今後は顕微鏡を活用した微視的な研究も行っていく予定です。また、世界的にもひび割れ修復の評価方法統一に向けた動きがあります。自ら発案した方法が世界基準になるように、さらにバージョンアップさせた評価方法の確立も目指して、研究に邁進していきたいと思います。

ありがとうございました。今後益々、活躍されることを期待しています。

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