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土木工学科中野和典教授の『ロハスのトイレ』が、『ふくしま発SDGs』の取り組みとして福島民友に掲載されました

グリーンインフラ技術を開発し
持続可能で健康的な社会の実現を目指して

昨年、一般社団法人日本トイレ協会が主催する『2020年度グッドトイレ選奨』を受賞した『ロハスのトイレ』。土木工学科の中野和典教授と機械工学科の橋本純 元教授が共同で開発したものです。医学が進歩した現代においても、開発途上国では下痢性疾患が死因の2位になっており、安全でない水、不適切なトイレ、劣悪な衛生環境に起因しているものと考えられます。未だ上下水道などのインフラが未整備である開発途上国を中心に、世界の3人に1人にあたる23億人あまりが、トイレの無い生活を送っています。今、世界で注目を集めているSDGsの取り組みの中でも、『安全な水とトイレを世界中に』は早期に達成すべき目標と言えるでしょう。『ロハスのトイレ』が世界中に設置される日も遠くないかもしれません。本インタビューでは、国内外から大きな期待が寄せられている『ロハスのトイレ』について、中野教授に詳しくお話を伺いました。

被災時にも利用できる自立型『ロハスのトイレ』の開発

『ロハスのトイレ』を開発しようと思われたきっかけは何ですか。

 東日本大震災がきっかけでした。当時、私は仙台に住んでいましたが、電気も水道も止まってしまい、不自由な生活を経験しました。しかし、公園のトイレは使うことができたのです。電気を使わず、直接水圧で配水していたからです。 その時、電気や水道に頼らず、被災時にも利用できる自立したトイレが必要だと気づきました。翌年、工学部に着任しロハス工学と出会って、『ロハスのトイレ』を開発したいという思いが強くなりました。ただ、すぐには着手せず、まずは学生食堂の排水を浄化して再生するシステムの開発に取り組みました。それが『ロハスの花壇』です。水質浄化用のろ材を敷き詰め、5回のろ過を行うことで生活排水が浄化される仕組みになっています。花壇の内部は十分に空気がいきわたり、花壇でろ過された汚れは、速やかに土壌微生物により分解されます。さらに分解産物は、植物が栄養として利用するので、肥料も要りません。実際に必要な電力は一日6分から20分の揚水ポンプ動力のみで、高度処理型の浄化槽と比較すると約10分の1の電力で同等の処理が行えます。この花壇の実績を活かして、ライフラインが寸断された非常時にも平常時と変わらず使える自立型の水洗トイレ『ロハスのトイレ』の開発を始めました。

『ロハスのトイレ』はどのような仕組みになっているのですか。

『ロハスの花壇』の浄化システムを応用し、4段のろ床で汚濁物質をろ過し、水の汲み上げは手動ポンプを使用することで省エネ化しています。洗浄水の殺菌はLED紫外線を使用。手洗い用の水は屋根から集水した雨水を浄水器で浄化して使用することで、水を自給自足し、排水ゼロの完全循環再利用を実現しています。トイレ排水成分を花壇で有効活用している点もロハスのトイレの特徴でもあります。これまでに福島第一原発事故により居住制限区域となった飯館村や工学部キャンパス内で実用実験を行いました。1000回以上の実験を重ね、活性汚泥法の適用が難しい不安定かつ低頻度の負荷条件でも、問題なく水質浄化性能を維持し、洗浄水を安定して再生できることを実証しました。電気や水道に依存しない自立型トイレはインフラが寸断される災害時のトイレとして利用できる点が大きなメリットです。そして、上下水道が整備されていない開発途上国のトイレ問題解決にも役立ちます。SDGsの『6 安全な水とトイレを世界中に』と『11住み続けられるまちづくりを』の2つのゴールへの貢献を目指し、現在、製品化に向けて企業との共同開発を進めているところです。近年、自然災害が多発していますが、避難所や自宅、そして駅などの公共施設で、平常時と変わらず機能する『ロハスのトイレ』が社会実装されれば、被災者への大きな支援になるでしょう。

 

自然の循環システムを人工的に作り出し、ロハス社会を実現する

『ロハスの花壇』を応用して開発された『アクアポニックス』についてもご紹介いただけますか。

郡山市内の病院に設置されたアクアポニックス

『アクアポニックス』は、魚の養殖(Aquaculture)と植物の水耕栽培(hydroponics)を組み合わせ、養殖で汚れた水を水耕栽培で有効活用するシステムです。『ロハスの花壇』の技術で水の浄化性能を強化しました。水槽の維持管理を省力化し、ろ床からの落水で酸素を供給しています。そして、観葉植物と水槽によって蒸発する水分が湿度と気温を維持し、室内の空気を浄化することで、健康的な屋内環境が生まれます。ロハスを考える自然系教材として、この『アクアポニックス』を活用する狙いもあります。自然の水環境を見たとき、湧き水の生成にエネルギーは必要なく、肥料を与えなくても植物は生育し、給餌もエアポンプがなくても魚は生育します。そしてゴミが出ない自然界にはゴミ箱も必要ありません。太陽光がある限り、持続可能で健全な環境を維持することができるのです。自然の仕組みこそ、ロハスのお手本であると言えます。

今後の目標をお聞かせください。

目標は、グリーンインフラ技術の開発であり、自然界と同じような循環システムを人工的に作り出し、居住空間レベルからまち全体までロハスにしていきたいと考えています。葛尾村や富岡町と連携して実証実験を重ねながら、ロハス技術の社会実装を目指します。そして、世界中に『ロハスのトイレ』を普及させて、災害時の支援や開発途上国の発展に貢献していきたいと思っています。

ありがとうございました。今後益々ご活躍されますことを祈念いたします。

 

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