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元プロ野球監督の高橋由伸氏を講師に迎えて、『課外活動学生応援特別講演会』を開催しました

トップアスリートの高橋氏に学ぶ
「辛い時も最善を尽くすことが大事」


日本大学工学部では、10月2日(土)、54号館5431教室にて、『課外活動学生応援特別講演会』を実施しました。この講演会は、新型コロナウイルス感染症拡大により、課外活動の制限や学生生活に大きな影響を及ぼしていることから、学生たちがトップアスリートと接することで、夢や希望を持つこと、継続することの大切さを学び、それぞれが未来への目標を持つことができる機会として企画したものです。昨年に引き続き、2回目となる今回は、プロ野球読売巨人軍の選手・監督として活躍された高橋由伸氏をお迎えし、野球を始めた幼少期から監督時代までの知られざる野球人生について語っていただきました。また、トップアスリートとして、人生の先輩としてのアドバイスやメッセージもいただきました。

『天才と呼ばれた男の苦悩と努力』

高橋 由伸氏(野球評論家/前読売巨人軍監督)


高橋氏は神奈川県にある野球の強豪校桐蔭学園高等学校から、慶應義塾大学に進学。3年次に東京六大学野球春季リーグ戦で3冠王を獲得し、リーグ通算23本塁打の東京六大学野球歴代1位の記録も樹立しました。ドラフト1位で入団した読売巨人軍では、1年目から開幕スタメンを勝ち取り、打率3割を記録するなど、その打撃センスは天才と称されました。2015年に現役引退と同時に40歳の若さで読売巨人軍第18代監督に就任。3シーズン務め終え、ユニフォームを脱いだ2019年からは読売巨人軍球団特別顧問に就任し、現在は野球解説者、野球評論家としても活躍されています。経歴からは、誰もが羨む輝かしい野球人生を歩んできたかのように映りますが、そこには苦悩と努力を積み重ねた日々があったのです。
シティボーイのイメージが強い高橋氏。実は千葉県出身で、ご実家は田舎で農業を営んでいました。幼い頃は家族と野球をして遊ぶ少年でしたが、特に野球選手に憧れていたわけではなかったようです。父親の希望で、高校までは野球を続けることになり、親元を離れ神奈川県にある桐蔭学園高校に進学。全寮制の野球部で他人と一緒の生活を送ることになります。早期に自立の道を選んだ高橋氏は、ボールが転がる動画を映し、平坦な道よりも起伏の激しい道の方が早く目標に到達できることから、困難な道を選ぶことの大切さを話しました。
進学した慶應義塾大学でも1年の春から試合に出ていた高橋氏は、周りから妬たまれないように、時間に遅れない、他人に迷惑を掛けないなど規律を守り、野球以外のところでも努力したと言います。自分自身の努力で他人に文句を言わせない環境を築いていったのです。個人としては三冠王やホームラン記録などで注目を集めましたが、自身の一番の思い出は、最後の年に優勝できたことだそうです。同じ目標に向かって共に戦った仲間と過ごした大学時代を懐かしそうに振り返っていました。卒業後は、逆指名したプロ野球読売巨人軍にドラフト1位で入団。当時、松井選手や清原選手などのスーパースターが集まる常勝軍団の中で、自分が通用するのか不安もありましたが、挑戦することが自分を変えるチャンスだと思っての決断でした。しかし、プロの世界は結果が全て。チームの優勝だけではなく個人成績も上げなくてはならない、厳しい世界です。毎日結果と向き合いながら、自分の居場所をつくるために様々な努力をし、時には無理をしてケガをすることもあったと言います。その後、選手会長を務めるなど、球界のリーダーとなった高橋氏。理想のリーダー像に正解はないとしつつ、大学時代の経験からも、周りに影響力を与えられるような行動を示すことが大事だと指南しました。
キャリアを重ねていくうちに、やがてスタメンから代打での起用が多くなり、チームに求められる役割も変わっていきました。スタメンで出られない立場になって、初めてその気持ちが分かるとともに、これまでとは違うアプローチの仕方を身につけたそうです。中でも、相手のことを知るためのデータ収集・分析が、後に監督になった時にも役に立ったと話しています。そして、現役を引退するタイミングを模索していた頃、周囲で監督の話が持ち上がります。求められること、期待されることに対し、いつも真摯に応えてきた高橋氏は、現役を引退し監督になる決意をします。苦労が多かった監督時代でしたが、困難から逃げてはいけないと思い、解決策を考え抜いて立ち向かっていったと言います。チームを勝利に導くほかに、監督には選手を育てる仕事もありますが、現在、巨人の不動の4番として活躍する岡本和真選手は、高橋氏が監督時代に育てた選手の一人です。若手選手を育てるにはチャンスを与えるだけではなく、成功体験を積ませて自信を持たせることも大事だと気づいたそうです。そして、高橋氏が一番大切にしていることは、辛いことも受け入れて、その中で最善を尽くすこと。「いい時も悪い時も、たくさんのファンに最高のパフォーマンスを見せるために最善を尽くさなくてはならない」という言葉からも、人知れず努力を積み重ねてきた姿がうかがえます。巨人軍の監督室には歴代の監督が記したメッセージが飾られているそうですが、高橋氏が選んだ『置かれた場所で咲きなさい』という言葉も、選手や監督の心に響いていることでしょう。最後に、学生たちにもメッセージをいただきました。「コロナ禍の状況下でも、自分が変わることで道が拓ける。違った立場から見たり、物事を広く捉えたり、自分が変わることで環境も変えられる」と激励されました。

「大学時代にしかできないことにチャレンジしてほしい」

さらに、会場の学生たちからの質問にも答えていただきました。「選手や監督時代に結果が出ない時の心境は?」、「侍ジャパンの監督に就任する予定はありますか?」、「今、目標としていることは?」、「飛距離を伸ばすためにはどんなトレーニングをしたらよいか?」、「好きなことを仕事にするうえでのアドバイスを」、「プレッシャーとの向き合い方は?」など、様々な質問にも丁寧に答えてくださいました。また、新しい場所が苦手という1年生からアドバイスを求められた高橋氏は、「新しいことを始めるには不安もたくさんあるし、人は居心地のよい場所を求めがちだが、それが自分にとって良いことなのかと考えたら、環境を変えることが大事だと思う。谷もないと辿り着かない道もある。社会に出たらなかなかできないことが大学時代にはできるので、ぜひチャレンジしてほしい」とエールを送られました。そして、「自分の話を聞いて、何か考えるきっかけになれば、今日講演して良かったと思う」と会場を後にする高橋氏に、学生たちは盛大な拍手で感謝の気持ちを伝えました。

講演を聴いた硬式野球部の学生は、「野球のことだけでなく、人として大事なことを教えていただきました。自分も、周囲に認められるような立派な人間になりたいです」と新たな決意を掲げていました。コロナ禍で不安な日々を過ごしていた学生たちは、大いに刺激を受けたようです。将来の目標や夢に向かって前進していく力になったことでしょう。

この場をお借りしまして、ご講演いただきました高橋氏に深く感謝申し上げます。今後益々ご活躍されますことを、学生・教職員一同祈念しております。