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建築学科の阿部杏華さんがJIA東北学生卒業設計コンクール2021において最優秀賞を受賞しました

木材流通の見える化し、まちの表情を変化させる建築が最優秀賞を受賞
8年連続全国大会出場決定

『JIA東北学生卒業設計コンクール2021(公益社団法人日本建築家協会東北支部主催)』の審査会が3月23日(火)に行われ、建築学科4年(当時)の阿部杏華さん(建築計画研究室/指導教員:浦部智義教授)の作品『木ごろも街道―流通がつくる街並み―』(写真は学内卒業設計作品展時)が最優秀賞を受賞しました。審査会は、Zoomを使って画面を共有しながら発表5分、質疑応答10分のプレゼンテーションによって行われました。各大学の卒業設計の代表作品である応募11作品の発表後、審査員長の進藤勝人東北支部長と各県地域会の代表6名の計7名の審査員が一人2票の持ち票を投票して、得票数の多い3作品が優秀賞以上に決定。その中でも、阿部さんの作品は最多の5票を獲得し、見事、最優秀賞に輝きました。この結果、6月19日(土)に行われる『JIA全国学生卒業設計コンクール2021』への出展も決定し、本学から8年連続全国大会出展となりました。

阿部さんに受賞の喜びと作品について詳しくお話を聞きました。

―最優秀賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください、

ありがとうございます。Zoomでの開催のため表彰式もなかったので、まだ実感が沸かないというのが正直な感想です。でも、大学生活の最後に良い結果が残せたことを大変嬉しく思います。作品をつくるにあたり沢山の方にお世話になりました。研究室で繰り返し丁寧に教えて下さった浦部先生はもとより、手伝ってくれた後輩には、感謝の気持ちとともに受賞の報告ができたのは幸いでした。昨年度も、同じ研究室の先輩で、間近で見ていた海老澤健さん(現 株式会社ドラフト)も最多得票で全国大会に出展されるなど、これまで素晴らしい先輩方が連続して築き繋いできた、全国大会への出展作品に選ばれるかどうか少しプレッシャーでしたが、それを果たせて、ひとまず安堵しています。

『建築のファサード=木ごろも』として常にまちの表情を変え続けることで、林業の在り方を再認識できるような建築を目指しました

―作品について詳しく説明いただけますか。

私が敷地に選んだのは、町の総面積の約8割を森林が占め、国有林も存在し県内でも木とのつながりが深い福島県石川郡古殿町です。たまたま、古殿町の街道沿いを車で通る機会があり、通り沿いに点在する製材所に丸太や製材後の木材が置いてある風景を目にしたことがきっかけでした。まちの風景として製材後のストック木材を機能させることによって、まちにおける林業の価値の見直しを図るとともに、町内外に木材産地としての認知度を高めることができるのではと思ったのです。かつて林業は日本における花形産業でしたが、1960年代になると陰りを見せ始め、やがて安い外国産木材の輸入に押され、人件費の高騰と若年層の減少により、衰退産業となっていきました。昨今、木材の利用促進もあり、私たちは再び多くの木造建築物に囲まれはじめています。しかし、伐採から保存まで細かく作業分割された木材の流通については、あまり知られていません。つまり、流通の川下、さらにその末端でしか木に出会えず、その可能性や問題点を感じることが少ないという状況にあります。日常生活に近い形で無理なく、その流通を見える化することによって、例えば、消費者である一般人と生産者である林業関係者との間の新たな接点をつくれるような建築ができないだろうか、というのが本設計の出発点でした。地域の林業の活性化のみならず、まちづくりにも寄与できるような、小さいけれども大きなインパクトを持った建築を目指す提案を考えました。
 具体的には、現存する製材所を活かしながら、郡山・いわき間の通過交通量が多い古殿町の主要街道である御斉所街道沿いに、木材流通拠点、バスターミナル、ゲストハウスの3つの建築を設計しました。木材流通拠点は町内外の人がホームセンターのように気軽に訪れることができる木材や木工製品を取り扱う場所、バスターミナルはスクールバスを利用して通学する子どもたちと地域の人が交流する場所、そしてゲストハウスは地方移住や林業に興味のある人が宿泊して町の人とのコミュニティを図るための場所として構築しました。川上にあたる山間地域において、森林の保全や林業の継続の問題がより深刻化する前に、川中にあたる木材の乾燥と保存という流通プロセスを既存の製材業とリンクさせながら見える化することで、林業の活性化の契機とします。見えない場所で出荷を待つだけだった木材に、流通に伴って常に表情を変え続ける建築の構成要素となり新たな役割を持たせることで、まちを通過する人に風景として訴えたり、まちを訪れた人が木の流通を実感したり、まちの人に日常生活の中で木を意識させるなど、地域における林業のあり方を再認識できるような建築をデザインし、線状に展開しました。

―どんなところが評価されたと思いますか。

★『木ごろも―流通がつくる街並み―』のプレゼンボード(PDF)

流通のプロセスが、様々な機能と複合されて色んな形で見える化されている点を評価していただきました。乾燥のために立てかけられていたり、積み重ねられたりする木材が、出荷されて少なくなったりする風景も建築のファサードとして成り立つように考えています。木材の太さや木と木の間から差し込む光によって、訪れる度に風景が違って見えるような可変的なファサードのアイディアが良かったようです。屋根を局面にすることで、長さが異なる木材が風景に融け込みやすくしていることも、ファサードを演出するポイントになっています。

将来は公共建築や住宅の設計を通して、人に寄り添うことができる建築をつくっていきたいです

―建築を学んで良かったことは何ですか。

学内で行われた卒業設計作品展時の様子

幼い頃に見たテレビ番組の影響で、将来は建築の道に進みたいと考えていました。工学部で学び、様々な人と出会ったこと で充実した大学生活を送ることができました。4年生の前学期はコロナ禍のため、いろいろ建築物を見に行くことができなかったのは残念でしたが、それを含めて中身の濃い貴重な経験になったと思います。特にこの研究室で、建築の知識だけでなく、社会の様々なことをポジティブに話し合える仲間に刺激を受けながら、私自身も沢山のことを吸収できました。卒業設計に取り組み、計画性の大切さを学ぶとともに忍耐力が鍛えられたのも収穫でした。私の教訓として、課題の提出は期限ギリギリにならないようにすること、頑固さや負けず嫌いな面も大事だと思いますが、あまり独りよがりにならずに、可能な限り色んなことを受け入れる謙虚な姿勢も大事だということを後輩たちにも伝えたいです。

―将来の夢を聞かせてください。

 先生にご紹介いただき、オープンデスクでお世話になった建築設計事務所に就職が決まりました。様々な地域で地域に役立つ公共建築などの設計も数多く手掛けている会社なので、いつか私も、地域に長く受け入れられる建築を設計することが目標です。建築は住宅でも公共施設でも人に使ってもらうためのものであり、自分が設計した建築が何かしらその人の人生に関わっていると思うと凄いことだと思います。私も、誰かに寄り添うことができる建築をつくれるようになりたいです。

―ありがとうございました。卒業後も社会で大いに活躍されることを祈念しています。

 

JIA東北学生卒業設計コンクール2021審査結果並びに応募作品講評