歴史上の人物から得られる教訓
教授 森山 修治
◆はじめに
高校時代に好きな科目の一つが世界史だった。もっとも、お世辞にも良いとは言えない成績であった。
世界史の授業の面白さは教科書を通して魅力的な人物に出会えることだった。教科書のなかで魅力的な
人物を見つけると勉強そっちのけで、その人物について詳細に調べていた。今まで興味を持った人物の
うち、好敵手として戦った古代ローマ時代のハンニバルとスキピオの2人、中世ヨーロッパ時代のヴァ
レンシュタインとグスタフ・アドルフの2人をそれぞれ簡単に紹介して、得られる教訓的な感想も述べ
てみたい。
◆ハンニバル(BC247―BC183)
ハンニバル・バルカは、カルタゴ(アフリカ北部の海洋国家)の将軍である。第二次ポエニ戦争で、幾
度となくローマを破り、一時はイタリア半島の大部分を攻略しローマを滅亡寸前まで追い詰めた。ロー
マ軍の意表を突くために数万の軍勢と数十頭の象を率いて初冬のアルプス山脈を越えてイタリア半島に
攻め入ったことでも有名である。ハンニバルの目的は、都市国家ローマと周辺の都市国家群との分断を
図ることであったが、ローマと各都市国家の絆は固くそれには失敗した。最終的にはスキピオ率いるロ
ーマ連合軍に屈することになる。さらに母国カルタゴにも見捨てられ、故国も追われたハンニバルはシ
リアに亡命し、カルタゴもローマに滅ぼされた。教訓としては、力の差がある相手に対して正面から喧
嘩を売ってはいけないということであろうか。この事例では20世紀にアメリカに宣戦布告した日本を
思い出してしまう。余談として、ハンニバルはローマ史上最強の敵として後世まで語り伝えられており、
イタリアでは最近まで子供が悪いことをすると“ハンニバルに連れていかれるよ!”と言って叱ってい
たらしい。
◆スキピオ(BC236-BC183)
プブリウス・コルネリウス・スキピオ・アフリカヌス・マイヨルは共和制ローマの政治家であり、ハン
ニバルを破った将軍である。スキピオはハンニバルの戦術を徹底的に研究しており、戦術もハンニバル
の模倣であった。スキピオの勝因は、カルタゴの同盟国であるヌミディア王国(アフリカ北部)をロー
マ側に寝返らせたことであり、ハンニバルの切り札であったヌミディア騎兵を使ってハンニバルを破っ
ている。教訓としては、得意技は相手にも研究され真似される可能性が高いということである。特に力
の差の大きい相手に真似されると逆に弱点となる。得意技は常に研鑽し改良を続けなければすぐに通用
しなくなる。情報や映像が簡単に入手できる現在ではなおさらである。
◆ヴァレンシュタイン(1583―1634)
アルブレヒト・ヴェンツェル・オイゼービウス・フォン・ヴァレンシュタインは、最大の宗教戦争とい
われるドイツ30年戦争で活躍した傭兵隊長である。筆者の高校の教科書には“名将”とあり、三国志に
でてくる諸葛孔明のように、もの静かで高潔な人物であろうと興味を持ったが、実際は想像と違った。
ヴァレンシュタインはボヘミアの小貴族の生まれで、数万のならず者を集めて軍隊を組織し諸侯や有力
者に金で雇われる傭兵隊長であった。ドイツ30年戦争では、カトリックの神聖ローマ皇帝に雇われてプ
ロテスタント反乱勢力をドイツから駆逐した。その功績で巨万の富を得たものの、恩賞にこだわる強欲
さや急激な出世をねたまれて、すぐに失脚した。その後、“北方の獅子”とよばれたスウェーデン王グ
スタフ・アドルフがプロテスタント側として参戦すると、一気にカトリック側が不利となり、ヴァレン
シュタインは国王や貴族に呼び戻された。ヴァレンシュタインはグスタフ・アドルフ軍に敗れたが、そ
の戦いでグスタフ・アドルフは戦死した。それによりカトリック側の危機は去り、用済みとなったヴァ
レンシュタインは暗殺された。教訓としては、身の丈を知るということであろうか。出る杭は打たれる
という。周りの様子を伺ってばかりでは何もできないが、自分の立場や周りの感情を見極めることも大
事である。
◆グスタフ・アドルフ(1594―1632)
フィンランドやポーランドの一部を含む広大な領土を獲得したスウェーデン王である。よく訓練された
軍隊と卓越した戦術で“北方の獅子”と呼ばれ、各国から恐れられた。内政を充実させ政治力・外交力
にも優れていた。ただ、常に陣頭にたった指揮により何度も瀕死の目にあっている。ドイツ30年戦争に
プロテスタント国として参戦し一時はカトリック側を敗北寸前まで追い詰めた。ヴァレンシュタイン指
揮の軍隊も敗走させているが、その戦いで戦死している。原因は前線で指揮を執るうちに、誤って、退
却するヴァレンシュタイン軍に紛れ込んだためである。極度の近視だったといわれている。教訓として
は、味方を鼓舞し状況に即した判断をするには陣頭指揮が適しているが、後方から冷静に全体を見渡す
ことも必要ということであろうか。リーダーを欠いては戦略自体が崩壊する。
◆最大の教訓
現在の日本では、大抵の失敗では命までは取られない。気楽に大胆に課題と仕事に挑みましょう!
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