地震の揺れを科学的にする研究

教授 ガン・ブンタラ

  ●はじめに  2011 年3月11 日の14 時46 分ごろ,東北地方太平洋沖地震が発生しました。地震の規模はマグニチュ ード9.0 で,発生当時において日本周辺における観測史上最大の地震でした。  その日に,私と倉田光春先生と両研究室の卒研生は,14 時から構内の54号館5階にて総合教育の佐藤 憲一先生の講義(分数微分方程式について)を静聴していました。突然,床が非常に大きな振幅で水平に 揺れたのを未だに覚えています。当日の夜に,テレビのニュースで郡山市では震度6弱という情報が目に 止まりました。私にとって,こんな長時間の強い揺れを感じたのは初めての体験でした。当時の地震の持 続時間は160 秒でした。  4年後,住環境設計室汲ゥら鋼管杭を用いた住宅による免震効果の委託研究を受けました。その免震効 果を計るためには,揺れの計算をする必要があります。鋼管杭を施工する前後の定量的な免震効果を確か めるためのプログラムを提供しました。その翌年には,5 階建ての建物への応用および経済性に関する研 究も委託しました。  2011 年東北地方太平洋沖地震が発生してからほぼ10 年後,2021 年2月13 日の23 時7分に,マグニ チュード7.3 持続時間17.5 秒の地震が発生しました。以前の震源と近いため,2011年地震の余震とみな されています。  郡山市において,両地震が異なるマグニチュードにもかかわらず同じく震度6弱が観測されたのはなぜ でしょうか?これは,郡山市と両震源との距離と深さが異なるからです。 ●地震国日本  防災白書(平成26年度版)によると,世界で起きたマグニチュード6以上の地震のうち,約2割が日本 周辺で発生していたため,日本は地震国と言われています。なぜこんなに発生するかというと,日本列島 は,地球の4つの大きなプレート(岩盤)が交わるところにあるからです。地球の多数のプレートはそれ ぞれが別々の方向に向かって,年間数cm の速さで動いているため,プレートの境界部分が壊れることで, 地表を揺らす地震が発生します。 ●揺れと地震  地震という言葉の意味は,“ 地” 面が“ 震” える現象を示しています。つまり揺れることです。し かし,いつの頃からか地震は揺れの原因となる地盤の中で起こす震源(プレート内での破壊)のことも地 震と呼ぶようになりました。この時の地震とは,震源のことを指しています。  地震が起きたときに発表されるマグニチュードとは何でしょうか。マグニチュードとは,地震が引き起 こすエネルギーの大きさを示す単位です。アルファベットの「M」で表します。アメリカの地震学者チャ ールズ・リヒター(Richter)が考案したので,専門家は「リヒター・マグニチュード」と言うことがあり ます。 ●揺れと震度  マグニチュードと震度の関係は,電球の明るさと部屋の明るさに例えられます。明るい電球は遠くまで 照らすことができます。電球の真下では明るいですが真下から離れると少し暗くなります。マグニチュー ドは震源で発生したエネルギーの大きさを指し,震度は特定の場所における揺れの程度を表すものです。  1995 年以前,地震動の強さは人体感覚や周りのものの揺れの様子と被害の度合をもとに定められていま した。日本では昔から人体に感じる地震が発生すると,気象庁から揺れの程度が報道されます。震度は気 象庁震度階級の略で日本で使用されている独自のものです。地震の揺れの大きさを階級制で表します。例え ば,1884 年の「地震報告心得」では「微震」・「弱震」・「強震」・「烈震」の4段階の震度階級が定め られました。現在気象庁の震度階級は,震度0〜震度7までの10 段階に分けられています。 ●揺れの計算  気象庁は,観測された地震マグニチュードと共に,各地で観測される震度を算出し,震源からの半径100 km相当の各地点での震度をテレビなどで放送します。1996 年から気象庁は石本巳四雄の地震時の物体や木 の揺れに関する研究(1933 年)に基づいて震度階級の計算式を使用し始めました。 ●揺れと耐震設計  日本では,1919 年から耐震設計および建設技術が開発されてきました。現代の耐震設計基準では,建物 は大地震の発生時に大きな変形が起こっても,崩壊しないことが求められます。しかし,建物の設計基準に おける「耐震性」については「揺れ」の防止と対照的に,「強さ」が求められます。  気象庁の1996 年から2018 年にかけての地震(震度5弱以上)の記録による負傷者数は約98%(死亡者+ 負傷者)を占め,同様に倒壊した建物の数は約4%(倒壊+損傷)を占めました。このことから,人間の負 傷または死亡の要因は,多く建物の倒壊によるものではなく,ほとんどが強い揺れにより棚や家具などの転 倒または天井の落下が原因と言えます。  この問題を解消するために,建物の耐震設計に定量的な「揺れ」を緩和する必要があるでしょう。 ●揺れ科学の研究と活用  そこで,私の研究では,気象庁の震度階級(地表面)の概念に基づいて,高層建物(各階)の計画,設計, 補強,診断などにおいて,定量的な揺れの計算方法を応用することを目標としています。安全かつ快適な暮 らし住居作りにより社会的貢献できると考えています。