グローバル・エンジニアのステータス

教授 ガン・ブンタラ

●はじめに●  田井君,先日はあなたとゆっくり思い出話をすることができて,とても楽しい時間を 過ごせました。田井君が研究室のゼミ生になったばかりの頃は,戸惑いと不安を感じて いるようでした。なぜなら,田井君の心の中にあるいくつかの研究室の中から所属先を 決定しなければならない時の迷いが私にはみえました。最終的には,田井君が私の研究 室を選ぶこととなりました。田井君は非常に礼儀正しく,その人柄がとても良い学生と 感心しました。私は,指導教員として,人生の先輩として,田井君が成長していく姿を, 若い頃の自分に重ね合せるようにしながら見ていました。そんな田井君が,まもなく卒 業を迎えるのですね。本当にあっという間です。田井君が「FE,ファンダメンタルズ  オブ エンジニアリング資格を受験したい…」と口にしたのは,4年生になった頃のこと でした。  本エッセイは,田井君のあの時の問いに対する私なりの考えを述べたものです。田井 君に向けた手紙を書くという形式で筆を進めます。 ●FE/PE資格は必要か●  今までの日本の社会では,いわゆるゼネラリストが幅を広げてきました。けれども, これだけ科学技術が高度化になってくると,外国の技術を導入して要領良くやっていく 手法は通用しません。分野ごとに優秀なスペシャリストが必要です。そうした中で,世 界各国では単に工学の知識だけでなく,世界基準となっているFE/PE資格の高い倫理観・ 基礎工学・専門能力を認定できる資格があるよ。 ●FE試験は難しいか●  私が会社に勤めた時の同僚が,「就職して時間が経てば経つほど,自分の専門分野以 外の知識が薄れていくので,FE試験には不利だ。なるべく若いうちにトライした方が良 い。」と語っていました。  FE試験は基本的に,受験者を振るい落とすための試験ではありません。したがって, 試験の範囲は広いとはいえ,エンジニアを名乗るからには,最低限このくらいのことは 知っておくべきであるという工学基礎の知識を問う出題が大半です。  FE試験そのもののレベルは,大学の1,2年生で勉強してきた内容だと思います。 しかし,専門外の問題もあって,非常に幅広い知識が要求されます。一方,PEの試験は, 自分の専門領域に限られ,より高度なエンジニアリング知識と英語力が要求されます。 しかし,受験した方の多くは,FE試験より,PE試験のほうが易しいと思われたのでは ないでしょうか。 ●英語が苦手な人は大丈夫か●  また,英語が苦手な人は,その分だけ準備に時間をかけた方がよいと思います。一般 的に工学系の学生には英語嫌いが多いといわれていますが,流暢に英会話できる能力が 求められているわけではないし,英語を完璧に理解する必要もありません。大切なのは, 英語の工学系用語をきっちり把握することで,それに慣れることです。少なくてもFE試 験では,問題のなかに出てくる工学系用語を見て,何を要求されているのか,どの公式 や関数表について問われているのかが判断できるレベルに達すればいいのです。英語が 苦手でも悩む必要はありません。 ●試験の秘策はなにか●  FE試験問題を解答するとき,最初は難しい,理解できない問題は飛ばして,易しい問 題から標的にするといいです。また,事前の対策として自分の得意,不得意の分野を把 握し,不得意な分野は参考書などを参照し,理解を深めていくようにします。そして, 一番大事なことは繰り返し同じ問題を解くことです。同じ問題を2回やれば,2倍分の自 信が出てくるし,解答のスピードも増します。これを試験直前までできる限り繰り返す ことです。この方法がFE試験に合格するためのもっとも合理的な対策であるからです。 ●日大工学部ではなにか●  因みに工学部では,世界を舞台に活躍できるエンジニアを育成する目的でFE資格の取 得を目指す学生を対象に,FE試験内容に特化した授業科目を設けています。  2004年より「国際工学コース」というプログラムが,全学科のH16年度カリキュラムに 組み込まれました。そして,H21年度には,学科のコースとしては無くなりましたが, カリキュラムの中に学科共通のFE試験関連科目が設置してあり,誰でも履修することが できます。  「国際工学コース」がカリキュラムに組み込まれた翌年(2005年)から昨年度までに, 工学部の在学4年生と卒業生を含むFE資格を取得した人数はすでに37名でした。田井君が FE試験に合格したら38人目になります。  FE資格を取得するメリットは,将来国際舞台で仕事をするようになると,役に立つこ とでしょう。将来を見据えて,是非取っておくことをお勧めします。 ●おわりに●  確か昨年の11月下旬の頃でしたが,田井君は私の所に訪れて,「先生,FE試験合格し ました!ご指導ありがとうございました!」。私にとって大きな喜びです。