ストーンズのベーシスト
教授 浅里和茂
アベノミクスがレーガノミクスの日本版になるかどうかはさて置き,景況感が雰囲気だ
けでも出て来たことは気分が少し良くなります。それが復興予算に負うことがあって複雑
な心境ですけど,日本人の気持ちが明るくなるのは悪いことではないはずです。今も昔も
消費と気持ちの関係はやはり強くて,不況下で成人した世代よりも今の消費の中心は40代,
50代以上と言われているのもうなずける気がします。ですから企業のマーケティングもそ
の世代を当然狙うわけで,狙われている自分がここにいます。昨年のCD売り上げが伸びた
のはここを狙ったベスト盤がヒットしたから,桑田佳祐,山下達郎,松任谷由実40周年,
ついでに野宮真貴と小泉今日子の30周年を買ってしまった自分はその典型例でAmazonの思
う壷です。その中でイギリスのローリングストーンズというバンドも50周年を迎え記念CD
ボックスを出しました。ストーンズと言えばミック・ジャガーとキース・リチャーズであ
りロン・ウッドなのですが,ここにビル・ワイマンというベーシストがいたことはあまり
知られていません。恐らくドラムのチャーリー・ワッツよりも地味で無名のストーンズメ
ンバーという風変わりな代名詞で語られてしまう人です。この人については「ローリング
ストーンズにおけるビル・ワイマンの役割」と,これまた奇妙な言葉で語られています。
誰が曲を作ってもジャガー&リチャーズとクレジットされてしまうようなバンドの中で,
目立たず人間関係のクッションや接着剤の役割を果たす寡黙なメンバーと意訳すればいい
のだと思います。それでいて無くてはならない人材,余人に替え難い人としてみんなに認
識されていれば最高ですが,彼の場合は1993年に辞めているので実際のところは不明です。
少なくとも若い頃はランチボックスの取り合いでケンカをするような仲間の中で一定の役
割を果たしたと信じたいところです。でもこんな役割の人間がチームや組織には必ず必要
だと思います。日本風に言うとホームランバッターばかりでは勝てないからバントをする
人間が必要だとか,メッシや澤が10人いても勝てない(多分)となるのでしょうけど,こ
れとは少し違うのではないかと。ビル・ワイマンはホームランバッターだったかもしれな
いけど,バンドを成功させることを第一に考えたのではないかと。現在,みんなはホーム
ランバッターですか,10番を背負っていますか。今はそうではないでしょうし,卒業生に
とってはようやくスタートラインについたばかりですが,将来はそこを目指して下さい。
皆さんが卒業して働く社会は必ず組織で成り立っています。そして組織で仕事をすると,
おもしろいもので必ず仕事量には濃淡が出てきます。例えば10人のチームだと2人(20%)は
猛烈に働く人,2人(20%)はほとんど働かない人,あとの6人はほどほどに働く人というよ
うな格差が生まれてきます。これは優秀な人材ばかりを集めた場合でも,必ずといってい
いほど生じてしまうと言われています。これがチームの問題となるのは役割として格差が
固定してしまい,いつも働く人と働かない人が決まってしまうことです。このような役割
が続いてしまえば,最初の2人のモチベーションが維持できないのは言うまでもありません。
本来はもっと組織は流動的であるべきで,仕事量の多い人間がチーム内で入れ替わってい
くべきでしょう。仕事をしない代わりに食事をごちそうしてしのぐ人もいますが,それだ
けではチームからいずれ見放されて長続きしません。ごくまれに食事中の会話を通じて組
織をマネジメントしてしまう人もいますが,例外中の例外でマネジメントという仕事を立
派に果たしているといえます。さきほどの流動的な組織が成立していくためには,個人が
強い目的意識と能力を持っている必要があります。皆さんが生まれる以前の高度成長期に
は,仕事をしない2人でも組織の潤滑剤になれるならと企業は雇用し続ける余裕がありまし
たが,現在の国際的な競争のなかではそのような余裕がありません。もちろん企業も最初
から高い能力を持った人材を求めているのではなく,そうなるであろうと期待できる人材
を求めているのです。在学中の皆さんも卒業する皆さんも,一歩ずつでいいから自分の将
来のために,自分磨きを続けてください。その成長のスピードには当然個人差があります
が,目標を持って続けることが出来る人には,必ず到達するゴールが見えてくると思いま
す。その努力の結果,ビル・ワイマンのように生きるもよし,トップを走ってがんばるこ
とも出来る。そのような幅広い人生の選択肢があるとしたら,充実した毎日が過ごせるの
ではないでしょうか。明るい明日があるとしたら,最初の一歩をはじめてみませんか。
さて,故スタンゲッツの全集CDボックスセットなんてのが発売されたらどうしよう。
(学科主任)
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